第4話 町の門番
町にかなり近づいてきた。もう残り100m程だろうか。
道に出てからココまでは、特に何もなかった。
道は轍に沿って草が生えてないだけのような道だ。
砂利が若干浮き出て凸凹してるし、穴を避けて迂回して、そこがまた新しい道に成ってるような感じだった。
道の左右の草原から、何か飛び出してくるかと思ったが、拍子抜けだった。馬車なども来なかった。
500m手前くらいで余分な物は、全部バックパックに入れた。
スマホは電源を切って、首からぶら下げてた地図を挟んだボードとコンパス、腕時計も念の為バックパックへ。
余計な物を見えるトコに出してないか、ひと通りチェックした。
開墾されているのは周囲1kmくらいまでだった。
少なくないか?食料維持できてんのか、コレ。
畑だったが、麦とかではなかった。野菜だと思う。大豆とか、ナスとかああいった風だった。
間近に行って、よく見たらわかるかもしれないけど、変な行動をして疑われたりとか嫌だったから、道の真中を歩くようにしてた。瓜田に履を納れず、ってやつだな。
前方にある街を見る。低い壁に囲まれた町みたいだ。家屋が壁より上に顔を出してる。
壁の幅は200mくらいかな?版築ってヤツだろうか、板で挟んで上から土を入れ杵で突き固めて作った様な壁だ。
門らしき所の横に立ってる人よりやや高い程度だから2m程だろう。
たぶん、そんなに人口いないんじゃないかな。
航空写真を更新した地図で見た感じは、日本の住宅地みたいにギッチギチに家が建ってるわけじゃなく、多少余裕を持って建てられてる感じだった。
そろそろ鉈は仕舞った方が良いだろう。角うさぎなら蹴りでもなんとかなる。たぶん。
そう思い鉈を鞘に納める。そのまま歩き門の手前まで進む。
門の角の所に人が立ってる。槍らしき長柄を持って草臥れた革鎧を来てる男性だ。
男の顔なんてどうでもいいから、普段は観察することなんて無いんだが、異世界初の第一村人発見なので十数m手前から歩きながら、よく観察する。
門番だろうか。地球で言う白人かな。前頭部が薄くなっていて茶髪、イケメンではない40くらいのおっさんだ。
タレ目がちで鼻筋は通ってる、やや面長で中肉中背。1mmくらいの短さか、濃い髭面で、肌は日光で焼けてはいるが、元々白い人が焼けたって色をしている。
怖そうではないな、門番というよりも農家でもやってそうな、のほほんとした雰囲気がある。あくまで俺の勝手な印象だが。
革鎧は使い込んであるのか黒ずんでいる。
まぁ、異世界だからな、黒ずんで草臥れた皮が取れる動物がいて、新品でもあんな状態だって言われても、別に不思議ではないんだが。
皮鎧の下に来てる衣服も、装備も、年期が入ってる感じがする。
相手もこちらが珍しいのか、観察されてる気がする。余り警戒されてないと良いんだが、無理な話なんだろうか。
やっぱり迷彩柄なんて見たいことがない文化だったら、珍妙な服を着てる奴に見えるんだろうか。陸自のレプリカだから、遠目に見たら緑の服着た汚れた奴って感じか?
会話の主導権を取る為に、自分から話しかけよう。積極的に話して敵意がないことをアピールしよう。笑顔で。いや、初対面で逆に不気味か?やっぱ普通に行こう。
5mほど手前で門番に話しかけながら近づいていく。
「すみませーん。町に入りたいんですが、大丈夫ですか?」
「身分証を見せてくれ。アンタは森人かい?」
身分証なんて無い。門番の反応には特に険はない。
森人ってなんだって思うが、考えてる時間を取ると不審がられるだろう。
一瞬で判断し、咄嗟に適当に言う。どうせ服装でそう思ったんだろう。
「いえ、私は森人ではないんですが、やっぱりこの服だとそう見えちゃいますかねぇ?身分証を持ってないんですがダメでしょうか?」
門番の前まで来たので立ち止まる。
「身分証がないなら、入町税が銅貨三枚だ。払えるなら問題ないよ。
アンタはどこの人だね。森人は葉っぱや草を体に巻きつけて服にしてるって聞いたことがあるが、他にそんな格好してる人なんて聞いたことがないよ。」
銅貨か。当然持ってないんだが。三枚が高いのか安いのかわからない。
「すみません。お金も持ってないんです。でも売りたいものはあるので見てもらってのいいですか?」
「いいよ。見せてみな。」
許可を取ってからバックパックをゆっくりと肩から下ろす。異文化と接触する時はどんな些細な行動で敵対と取られるかわからない。素早い行動は厳禁だ。たぶん。
この辺は来る途中で色々注意点を自分なりに洗い出していた。でもこのおっちゃんの雰囲気からすると考えすぎだったかもしれない。
まだ安心するには早いが。
そう思いつつ下においたバックパックを開け、角うさぎを取り出しながら話しかける。
「遠いトコから、森や山を中心に旅をしながらココまで来ましてね。
この服は途中で出会った森人から教わりました。
周囲の景色に紛れることで狩りで獲物にコチラが気が付かれなくなって、それで成功しやすくなるんです。
それを聞いて真似して草の汁や泥で服を染めたんですよ。
よっ、と。コレです。」
そう言って角ウサギの耳を掴んで取り出し、掲げる。門番はそれを見ながら。
「あぁ、ホーンラビットだね、それなら入町税にはなるよ。
そうかい。森だと目立たなくなって狩りが成功しやすくなるのか。
しかし町では逆に目立つな。
狩人には良いかもしれないが、若いのにフラフラしてるようだし、アンタも変なことをする物好きな人だね。」
笑いながら、そう呆れたように言われた。誤解ではあるんだが、うまく誤魔化せたようだ。
ホーンラビットっていうのか。容姿に比して似合わないな。狩ってはいけない動物だったとかそういうオチもないようだ。言われたら正当防衛を主張する予定ではいたが。
立ち上がりつつ話す。
「では、コレを売って入町税にしたいのですが、私はどうしたらよろしいですか?中に入って売ってから、こちらに持ってくればいいですか?」
「いや、町のこともわからないだろうし、ついていくよ。それが仕事だからね。
肉屋でいいかい?身分証を持ってないなら、冒険者でもないんだろう?」
冒険者!そういうのもあるのか。聞いてみよう。
「冒険者ではありませんね。肉屋でお願いします。冒険者に成れば身分証が貰えるんですか?」
「ああ、登録して発行されるのが身分証だね。ちょっと待ってな。」
そう言って門の内側に入り見えなくなった。覗き込んで見てみると壁の内側の、少し入ったとこにある小屋に入っていったようだ。詰め所だろうか。
待っているうちにバックパックを担ぐ。取り出したホーンラビットはそのまま耳を掴んで持っている。ワザワザ仕舞うのもなぁ、と。
持っているのはそんな気分で、だ。
大して待たないうちにおっさんが、おっさんを連れて門に戻って来た。
とりあえず眼と眼が合った瞬間目礼しておいた。
そういった文化がないのか無反応だったけど。
っつか、こういった何気ない仕草が侮辱されたとかになると怖いな、しないほうが良いかもしれない。
でも、やらなきゃやらないで、やらない事が無礼に成ったりするから怖いよな。
追加されたおっさんは、三十代くらいだろうか。やっぱり白人系だがコッチは髪がふさふさというかボサボサで、体つきは骨太で背がやや低い。厳しい顔つきで俺のことをジロジロと上から下まで見ている。
敵意があるわけではなく『何だコイツ?』的な感じだ。
第一村人のおっさんと似たような装備をしている。
「じゃぁ頼むわ。」
「ああ。」
オッサン同士が会話している
のほほんとしたおっさんが第一村人でよかった。コッチのおっさんは愛想が悪そうだ。すんなりと町に入れなかったかもしれん。
「じゃぁ、行こうか。コッチだ。」
おっさんがそう言い、前を歩き出す。
「はい、よろしくお願いします。」
そう返事をし、おっさんに付いて歩き出す。
さぁ、いよいよ異世界の町に入る。
評価・ブクマありがとうございます。この場をお借りして感謝を。
結構嬉しいんですよね。見てもらった反応があるのって。