第3話 小さな襲撃者
本日更新二回目。
少し腰を下げ、膝への負担を減らすようにして丘を下る。鶏行歩だ。
コレ、足音も下がるんだよな。
肉の誘惑を誤魔化すように飴の味に集中して、町についてからの自分の行動をシュミレートする。
今自分に足りないものは何だ?いや、こう思った時にまず、顔の良さって思い浮かぶのが俺のしょうもないところなんだが。
・・・金だな。逆に豊富なのが肉と調味料と飲料と野営道具だ。キャンプの予定だったから当然だ。
町に行ってどうする?街中で野宿するか?住民がいるのにテント張れないだろう。そんなことしたら悪目立ちする。
宿を取って安全の確保。コレが最優先だな。
で、それには金がいる。手っ取り早く何か売るか。とりあえず今日を何とかして、考える時間が欲しい。
何が良い?売れそうなものは・・・色々有るな、消耗品から売ればいい。
女神様のリストを見てみないことには詳しい所はわからないが、見なくても推測は立つな。
・・・物を売る。売れるかどうかは問題ではないな。補給は祈れば出来るんだ、一日なんとかなる程度に叩き売ってしまえばいい。
考える、自分の行動に問題がないかを。今の自分は誰も助けてくれない、一人ぼっちの非力な日本人だ。
危険を先に予知して回避しなくては。仕事をしてて身についた、先に問題を洗い出す癖。後になって取り返しの付かないことになっては遅いからな。山の上で怪我をすれば、最悪降りるまでに死んでしまう。
前提として、俺の問題点は自分の身を守れる自信がない事だ。襲われたら終わりだ。
そして懸念が有る。女神様が俺を小汚い小汚いと言っていたことだ。
女神様が俺の顔のことを言っていた、とかじゃなければだ、この世界の人は俺の服装を見て、小汚い、みすぼらしいと勘違いする可能性が高いということだ。
金を持っていると思われるよりは良さそうだが、金を持っていなさそうな奴が、金になりそうな物や、珍しい物を持っていたらどうだ?
与し易いと思い込まれて、脅してくるぐらいなら良い。バックパック以外は差し出してしまえばいい。どうせ女神様に祈れば全部再生成できるんだ。
問題はとりあえず殺してから考えればいい、なんて考えるバカだ。
そんなやつは地球でも居た。自分の欲望に忠実で歯止めが効かない奴だ。
この世界は日本よりも治安が良い可能性はある。でも日本人の心情としては、この世界をまだよく見てもないのに、日本よりも治安がいいとは思えない。
そしてわざわざ危ない橋を渡る必要はない。焦らずじっくりと行けば良いんだじっくりと。
とにかく目立ってはいけない、その観点から見れば、だ。
コーラとかはダメだな。売る時にペットボトルごと見せなきゃいけない。
この世界の工業が発達して無くて、コレはなんだって探られると困る。
そういった意味では石油製品が絡むのは全滅だ。缶もダメ。電気関係も。
塩とか砂糖とか売れそうだし、無難なんだが、ビニールで包装されてる上に移す袋がないからコレもダメ。
そうなってくると、肉をタオルにでも包んで売るか、野菜をタオルに包んで売るかなんだが、コレも微妙な所だな。
肉はスライスしてしまってあるやつはダメだな。細切れになってるやつを持ってっても相手が不思議がる気がする。
精肉して、客の要望に合わせて客の使いたいサイズに切るのが肉屋の仕事だからな。
カルビとか、ロースとかの焼肉用に切った肉を持ち込んだら怪しいよな。それに、肉は切り口から酸化して悪くなるから、痛みやすくなる。うん、ダメだな。持ち込んだら完全に変な客だわ。普通ブロック単位で持ち込むだろうからな。
逆に言えば肉屋を外して、個人経営の料理屋とかに持っていけば良いかもしれんが、飛び込みでいきなり持っていって買い取ってくれるとも思えん。仕入れはすでにしてるだろうしな。
野菜も、数が微妙な上に売っても大して金にならなさそうだしな。コッチの世界に存在しなかったりして、どこで手に入れたとか、どういう調理で食べるんだとか、そういうこと聞かれても困るしな。
逆に一般的でも、少量を持ち込んで盗んできたんじゃないか、とか疑われても怖いし。
籠いっぱいにあるとか、20kgの袋いっぱいに有るとかそういうんじゃなきゃ、野菜って売れないんじゃないか?イメージだけど。
あれ、コレ八方塞がりじゃね?俺ってもしかして詰んでないか?コレ。
意外と俺が貰ったチートは、かなり潰しが効かないんじゃない?
町、意外と安全じゃないんじゃないか?食い物にも生活にも困らないから、町の外が安全なら野営したほうが良くね?
よくよく考えると、宿の中で肉焼くのってアレだよな、油の跳ねる音って意外と大きいし、匂いもあるから壁が薄かったりすると、隣室の住人から苦情が行きそうなんだよなぁ。
そんなことを考えてると、右手の方から、ザサザサっと音がする。
咄嗟に鉈を持った右腕を振り上げ、右方向に体ごと向きを変え、目を凝らす。さっき聞こえた音はまだ距離が有りそうだった。
よく見ると15m程先をこちらに向かって草が揺れてくる。速度は遅い。
左足を前に踏み出し、右足を後ろに引き、胸を張り気味に、右腕横に開きは肩よりやや上に振り上げて、上半身に飛びかかってこられたら鉈を叩きつけようと身構えて、揺れる草を見ると、茶色い影が動きに合わせてたまに薄っすらと見える時がある。膝丈の草に隠れれる程度の動物なのだろう。
5m程までに近づいてきた、速度はやや上がっている。タイミングを図って蹴りを入れる為上半身を右に捻り左前足のつま先を軽く浮かせ、右太ももを軽く開く。
2m半まで近づき、来る!と覚悟を決め右足に力を溜める。茶色い動物は2mほどの距離から膝丈の低い軌道で飛び出してくる。
右に捻ってた上半身の力を、肩から回し腰を入れ下半身に伝える様に左に大きくねじりながら、左足はつま先を強く踏み込み、右足はつま先の力で一度足を軽く跳ね上げ、ムチを振るうように、下に叩き付けるようにして振り抜く。
タイミングよく、自分の足首の上辺りにあたってくれたようだ。茶色い動物は地面に叩きつけられ、3mほど先の所に横たわる。
小学校・中学時代に同級生に嫌われながらも、ムカついた奴に蹴り込んだ経験が生きたな。
追撃を加えるため、駆け寄り大きく振り被って全力で鉈を叩きつける。
地球に居た頃なら絶対にしない、地面を叩くと鉈が欠けるから。
でも女神様の加護で、壊れるのは気にしなくて良くなったから地面を叩くつもりでやる。
ガツンと強い衝撃が腕に響く。あぁ、これ刃先イカれただろうな~、と物体から鉈を抜き、刀身を見るとに血に濡れた刃先は案の定大きく欠けていた。
「ですよね~。」
そう呟きながら、物体を軽く蹴り、仰向けにさせる。
蹴った時にはすでに死んでいたのかもしれなかった、斬りつけた所は首だったらしく半ばまで断たれてた。切り口からは血が流れてる。
物体の顔を見る為、手でひねってこちらを向かせる。
ウサギ?ウサギに似ている。でも地球のウサギではない。
「可愛くないな。」
地球のウサギに比べると耳が微妙に短く全体的に太い。寸胴にしたような、ヘチャむくれにしたような。体格はふたまわりは大きいだろう。
デブ猫を見たような残念感が有る。向かってくるのが遅かったわけだ。
致命的なのは顔が可愛くない。ブルドッグを足したような面構えだ。コレなら殺しても罪悪感が沸かない。
地球のウサギと決定的に違うのは額に角がある。完全に違う生き物だ。
でも角が特徴的なのにブルドックうさぎ略してブルうさぎとか、デブうさぎとか豚うさぎとか呼びたくなる。
「外は安全じゃァないのか~。」
残念なお知らせだった。野営は出来ない。町に行くしか無い。
「この角うさぎどうしよう。」
現地産お肉である。結構デカイ。8kgくらいないかコレ?売れるかもしれない。って言うか、角うさぎが売れてくれないと厳しいかもしれない。
とりあえず内蔵を抜こう、と胸から腹、股までをバックパックから取り出した包丁で切り裂き、内臓を掻き出し、食道を引っ張りながら切り、大腸を引っ張って付け根で切り落とす。
足を持って逆さにし、血をある程度出し切ったらバックパックに入れて急いでこの場を離れる。
血の匂いで他の獣が来たりしたら怖いからだ。
足早に移動する、考えるのはヤメだ。道まで警戒しながら行こう。考え事してて不意打ちくらいましたではシャレにならない。
道にたどり着いた。ペースは上げたが時間はむしろ余分にかかった感じだ。
何故か?あれからも角うさぎが襲ってきたからだ。簡単に蹴り殺せたが、モツ抜きと血抜きに時間がかかった。
血に誘われてもっと恐ろしい何かがこないかと怖くて仕方がなかった。
肉は更に二匹分増えたが、簡単に蹴り殺せるので、コイツ売れないんじゃないかと、逆に不安になる。
「ハァ~~。」
タメ息を吐きながらバックパックを肩から外し、とりあえず水を出し、ゴクゴクと飲む。やっぱりひんやりと冷えてる。冷たさは固定か?
空になったペットボトルを仕舞い、代わりにタオルを出し、蹲踞して両膝合わせてる状態の太ももの上にタオルを広げ、その上に鶏もも肉三枚を広げ、タオルで包む。包んだらバックパックに戻す。
同じことを豚ヒレ肉にもした。食品トレイとラップはビニール袋に入れてコレもバックパックに入れた。
もも肉とヒレ肉を売る事にした。それしか無いかなぁと、消去法でだ。
一番言い訳が効きそう。ヒレ肉は一番おいしそうな部分だけ取ってきたとか、残りは持ちきれないから食べてきたとか。もも肉の骨が外されてるのも解体のついでとか、三枚なのも一枚食べたからとか。
コレが無理なら厳しい。一応キャベツのラップも外しておこう。一玉売った所でどれ程にもならなさそうなんだよなぁ。
うさ肉が売れれば一番いいんだけど、売れなかった時の覚悟は大事だわ。
生活資金も稼げないようなら最悪は、多少目立っても強硬手段に出ないと生きていけなくなるし。
うさ肉売れて、狩場が安全ならローキックの鬼になる道もある。
でも、売れて狩場が安全なら人がいっぱいいて、狩りまくってるはずだからさ。期待できない。
「ハァ~~。ちょっと憂鬱だわ。」
不安しか無いわ。俺を見た時の反応も怖いし、うまく立ち回れるかも不安だ。
鉈を見る、最初の戦闘で地面を叩いて欠けた刃先が、多少は戻って来ているが、完全には治っていない。ついでに装備の再生成をやっておこう。
鉈をイメージし、神様再生成お願いしますと祈る。
手に持った鉈を見ていると一瞬光り、弾けて光の粒子となり消えていった。
バックパックに手をツッコミ、鉈を念じると、柄らしきものが手に触れる。そのまま引き抜くと新品同然の鉈が在った。一旦鞘に収める。
よし、手紙の通りに再生成はちゃんと出来る。実は出来ませんでした、とかシャレにならんからな。バックパックの重さが減っていたからガチだとは思ったが、確認は大事だ。売った後に再入手不可とか泣ける。
遠くに街が見える。バックパックを担ぎ、バックパックのベルトをパチンパチンと止める。
ココからは道の真中を行きましょうかね。後ろから何かこないか警戒しながら。車に惹かれた~とか馬車に轢かれた~とか馬鹿らしいし?
そうしてまた鉈を抜いて右手に持ち、道の上を町に向かって歩き出す。
次回辺りから書くのに苦労しそう。