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ラブラドライト  作者: 影都 千虎
記憶は出逢うもの
76/77

10


 時は流れ、一組の男女がとある森を訪れていた。

 その森は国一つ分に匹敵するほどの巨大な森なのだが、それ以上にある一部分が特殊であるとの有名な噂が流れていた。

「ねえー、本当にここなのー?」

「ここのはず、なのじゃ。それに、噂通りなら色々納得なのじゃ」

「時間が止まってるってやつー?」

 獣人の少年ーーリオ・アンクロームの問いに、白いワンピースに身を包んだ少女、フィカイア・ソンニャーレは静かに頷いた。

 リオの言うとおり、この森は時間が止まっていると言う噂が流れている。その噂のお陰で、数年前までは『魔女の森』と呼ばれていたこの森も、今では『隔離の森』と名称を変えている。なんでも、木も草も成長せず、土を掘ることも木を斬ったり草をむしったりすることもできず、その中では天気も季節も変わらないのだとか。まるでこの世から完全に切り離されてしまったようなその森の噂が本当なのだとしたら、正しく『隔離の森』と呼ぶにふさわしいだろう。

 リオとフィカイアの二人がこの森を訪れたのは、別に噂の検証をするためではない。知り合いに会うために来たのだ。

 フィカイアは、その場所或いは其の人物に所縁のあるものがある場所にテレポートすることができる能力を持っている。その能力を使い、会いたい人の元へと飛んできたのだが、どうやらこの森、様々な魔力が渦巻いているのか分からないが、座標が乱されてしまったらしい。フィカイアとリオが飛んできたところには目的の人物は居なかった。

 仕方なく、二人は森の中を探索する。

 確かに、森の内部はずっと明るく、風は全くなかった。草木の成長は分からないが、外からこの森に影響を与えることができないと言うのは確からしい。草を踏んでも踏み潰されてしまうことはなく、また、地面に足跡がつくこともなかった。

「すごい、変な森だねー」

「世の中から隔離されているだけのことはあるのう」

 二人は口々に言って森を進む。手を繋ぎ、離れないようにしながら。


 いくらか歩くと、二人はある大木の前で立ち止まった。

「ーーーー」

 ぽつり、とフィカイアは大木の前で呼び掛ける。

 しかし返事はない。

 次に、リオがそっと大木の前にしゃがみこみ、手を伸ばした。

 しかし動かない。

 大木と、その前に座り肩を寄せあって眠る男女。その二つが動き出すことはない。

 黒をベースとして、赤や黄色、青や緑など、様々な色が混じった虹のような髪色をした男と、根元は夜のように黒く、毛先に近づくにつれ銀色に輝くグラデーションを描く髪色の女。

「二人ともーーこの森と一緒に、止まってしまったんじゃな」

 チェルカとセレス。

 二人が動き出すことは、もう二度とない。



 セレスが選んだのは死でも生でもなく、止だった。

 死んで朽ちていくわけでもなく、生きて永遠を過ごすのでもなく、その場に止まり続ける。なにも失わず、今のままでいたいという願いだった。

 そして、その意見にもちろんチェルカは乗っかった。永遠にセレスと居続けられるなら本望だ、なんて言って。

 この森の時間が止まったのは、フィカイアが予想した通りチェルカの能力によるものだ。

 自分の時間を止めても巻き戻って動き出してしまう可能性があったチェルカが、保険のために自分の限界を越える領域の時間を完璧に、永遠に止めたのだ。これで魔力を使い果たし、暴走した魔力によって巻き戻ってしまう可能性は無くなった。

 また、森ごと時間を止めたのにはもう一つ理由があった。

 セレスがこの提案をしたときに、ビアンコも一緒にそうしないかと誘ったのだ。

 もう、ビアンコは待つ必要がなくなった。それなのに、永遠に近い時間をこれからも一人で過ごし、ここを守り続けるというのは酷な話だろう。ならば、ここで一緒に止まればいいと言ったのだ。

 それに、この森ごと完全に止めてしまえば、二人の墓を守り続けることもできる。結果的に、この森は五人の墓となってしまったわけだが、まあそれはおいておくことにしよう。これもまた、新しい家族の形だ。

 この話を聞いたとき、ビアンコは貴女は父親似ですね、と言って笑った。確かに、父娘揃って自分の時を止める選択をしたのだから笑うしかない。


「……まったく、幸せそうな顔をしおって」

 寂しそうな表情でフィカイアは笑った。

 これ以上なく幸せそうな顔をして眠る二人を見ていると、それ以外の感想は出てきそうにもなかった。


ーTHE ENDー

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