06
因果というべきか、それとも運命だったというべきか。
元人間で、あることをきっかけにヴァンパイアになった父親と、不老不死の魔女で、あることをきっかけに人間になった母親から生まれた、元人間の娘。それがセレスだった。
ビアンコ曰く、昔、国中に降り注ぎ国中を呪った『呪いの雨』によってセレスは呪われたのだという。その『呪いの雨』に打たれたものは、大抵が死の呪いにかけられたというのだが、セレスは幸か不幸か死の呪いにはかけられなかった。代わりに記憶を生命力や魔力に強制的に変換するという呪いを受けてしまったわけなのだが。
「生命力に変換するというのは、母親の影響かもしれませんね。貴女の母親は生命を司る魔女でしたから」
懐かしむようにセレスを見ながらビアンコは言った。どうしてもセレスのそばにいたいらしく、その身体は徐々にセレスへと近付いている。
「記憶を操るとから父親の影響だろうね。セレス、君の父親は『影遣いのヴァンパイア』と呼ばれていてね。影と記憶を操ることに特化したヴァンパイアになったんだよ」
チェルカもまた懐かしむように言う。ただ、微笑むビアンコとは打って変わって、チェルカの表情は苦々しいものだったが。
「まあいいや、話を続けるよ」一つため息をつくとチェルカは話題を変えた。「どうしてセレスがその二人の娘かと思ったかって話の続きだ」
ここでやっとチェルカは表情を少し崩して笑みを漏らす。
「と言ってもさっきの話がそっくり二つ目の理由なんだけどね。生命を司って、記憶を操る。妙に二人の能力に一致する点が怪しいには怪しかったんだよ。
このことから一つ見えてくることもあってね、夏の町でセレスが暑さに弱かったのはヴァンパイアの遺伝子を受け継いでるからじゃないかな。基本的に太陽に弱い種族だからさ。暑さに弱かったっていうよりも、太陽の日差しに弱かった、みたいなね。
あとは……そうだな、ここに来るときの会話かな。花言葉に詳しいってやつ。君の母親……『花畑の魔女』は、花言葉に魔術を乗せる魔女だったみたいだからさ。花言葉には勿論詳しかったんだよね。
セレスが小さいときに花言葉を教えてもらってたんだとしたら、今セレスが花言葉に詳しいのも何となく頷けるかなぁって。
まあ、花言葉は花屋の娘でも詳しくなれるから勝手なこじつけと理想だけどね」
カラカラと笑ってチェルカは言う。そんなチェルカの推理をビアンコは微笑みながら頷いていたわけで、あながち間違いでも無いようだ。
「まぁ、でも……この森が元フィネティアっていうのはさすがの俺でも驚いたかな」
「フィネティア?」
「そ。フィネティア王国。昔ここにあった国で、君の母国だよ。この場所は多分、トリパエーゼかな。君の、故郷だった町の名前さ」
勿論トリパエーゼもフィネティア王国も滅んでいる。だからこそ、こんな遺跡じみた森になっているのだ。
チェルカは辺りを見渡して少し寂しそうに微笑んだ。根なし草だったとはいえ、この町にはやはり特別な想いがあるらしい。
「……みんな、いなくなっちゃったのか……」
「そりゃそうですよ。あれなら何百年経っていると思っているんですか?」
「さあね? 時間の感覚なんてとっくの昔に忘れたよ。そんなことよりも、俺はビアンコさんがまだここにいることの方が驚きだけどね」
そう言えばそうだ。セレスの父親の分身だったということは、ビアンコも当然ここが町だった頃から住んでいるということである。滅び行く町で、あるいは滅んでしまった町で何百年という気の遠くなるような時間を一人で過ごすというのは想像を絶するものだ。それとも、本当はどこかちがう場所にすんでいて、たまたま今日、ここにやって来たのだろうか。
「……立ち話もなんですから、私の家にいきませんか? そうすれば、リヴェラ君の驚きや疑問は解消されると思いますよ。大丈夫、おもてなしぐらい出来ますよ」
二人に背を向けて、ビアンコはチェルカの言葉を無視したような発言をする。そして二人の返事も聞かずに歩き出してしまった。
このまま森に置き去りにされても困る二人は仕方なくビアンコの背を追う。そして、珍しくセレスからビアンコへ問い掛けた。
「家ってどこにあるの?」
「山の麓ですよ。昔、リヴェラ君が思いきり入り口のドアを蹴破った家で……昔は貴女だって住んでいた、今は主たちが眠る墓のような場所です」




