05
何時まで経っても離そうとしないビアンコにセレスは困惑するしかない。一体どうしたというのか。そもそも、初対面なのに何故会えてよかったと泣かれているのだろうか。
困ったように視線をさまよわせると、チェルカと目があった。どういうわけか、チェルカはとても優しく微笑んでいた。何か知っているらしい。
「チェルカ……?」
「状況が掴めてない顔してるね。他人の俺でも分かったのにさ」
微笑みながらチェルカは言う。顔は優しいのに言っていることはいつも通り意地が悪い。
「まあまあ、そんな顔しないでよ。分からないセレスにもわかるように教えてあげるよ」
他人から言われた方が良いこともあるよね、といって、まずはビアンコをセレスから離すチェルカ。「後で好きなだけくっついていいから」と言うのも忘れない。セレスのことは完全に無視だ。
「さて……ビアンコさんとセレスの関係だけど……まあ、単純に言えばビアンコさんはセレスの父親だよ」
本物の、血の繋がった父親だよ。とチェルカは言う。セレスはその言葉を一瞬そのまま納得しかけたが、一点おかしい場所に気付き飲み込みかけたものを吐き出した。
「おとう……さん?」
いくら親の顔を見たことがないセレスだって、父親が男であることは知っている。だが、どう見ても目の前のビアンコは女だ。声も女だ。いくら凝視しても喉仏らしきものは見当たらない。僅かながら、女性らしい胸の膨らみもあるような気がする。ローブで隠れてしまっているが。
「まさか、性転換を……」
「ある意味合ってますが違いますね。というかリヴェラ君、誤解しか招かない言い方はやめてください」
混乱が止まらないセレスをみて冷静になったビアンコが口を尖らせながら言う。そしてチェルカの代わりに説明をするのだった。
「私は貴女の父親の分身だったものですよ。諸事情で私は女ですが、貴女の父親はちゃんとした男ですのでご安心ください」
だったもの、という表現に引っ掛かりがあったが、色々あったのだろう。まあまず、分身であるならば本体が何処かにいて、その指示で動いてるはずなのだから。見たところ彼女は自分で意思をもって動いている。分身であるようにはとても見えない。
「それよりも私は何故リヴェラ君が気付いたのか気になりますね……セレスは、セレス・アフィニティーとは名乗っていないのでしょう?」
そもそも自分の両親の事を全く知らないんですから。とビアンコは首を傾げていった。セレスが自分の両親を知らないという話はまだビアンコにはしていないはずなのだが、こちらも諸事情があり分かっているようだ。なんだか、初対面の相手に知らない自分を色々と知られているというのは気味が悪い。
「俺? 俺はべつに……強いて言うなら勘で分かっただけだよ。ヒントは一杯あったからねーーあのときみたいに騙すような適当な演技もなければ、場を掻き乱す要素もなかったからさ。推理は簡単だったよ」
『あのとき』とはきっと、子どもの頃の話なのだろう。セレスは自分が仲間はずれにされているような気がして、妙につまらなくなった。チェルカを突然現れた魔女にとられて、嫉妬にも近い感情を抱きそうになった。しているのは、自分に関する話だというのに。
「出来ればセレスも聞いといてほしいんだけどーーいいかな?」
そんなセレスに気付いたのか、チェルカは曖昧な笑みをセレスに向けた。困っているようにも見える。
しかし、チェルカにそうお願いされてしまったのだから聞かないわけにもいかず、話に何となく参加することにする。
「ーーまあ、まずは最初の印象かな」セレスが聞く姿勢になったのを確認すると、チェルカは眼を閉じ記憶を探りながら話し始めた。「セレスがすごく『花畑の魔女』に似てるって思ったんだよ」
『花畑の魔女』。また聞いたことのない単語が出てきてしまったセレスは首をかしげつつ解説を待つ。すると、チェルカではなくビアンコが解説をいれた。
「ここから少し行くと山があるんですがーーその山には、今のこことは比べ物にならないほど花が咲き乱れた……本当に綺麗なお花畑があったんです。
昔、山の花畑に不老不死の魔女がいるっていう噂話がありましてーー実際に、その魔女はいたんですけれど。その魔女と、貴女の顔がとてもよく、似ているんですよ」
不老不死の魔女。
また不老不死だ。
一体、セレスの人生はどれだけの不老不死と関われば気がすむのだろうか。
「因みに、その魔女が貴女の母親です」




