02
「ええっと……、花言葉の話だったっけ」
沈んでしまった空気から逃げるようにセレスは話題を切り替えた。それから、白い花をつけたユリにそっと触れながら言う。
「別に、詳しいって訳でもないと思うんだよ。ただ、何か良く分からないけど記憶にある、みたいな……。誰かに教えてもらったのかな? とは思ってるけど、特に気にしたこともなかったよ。まあ、だから……あのダリアもただの偶然、かな。たまたま知ってただけ」
「……なるほど、ね」
セレス自身があまり解っていないことをチェルカが理解するのはほぼ不可能だろう。だから、チェルカは曖昧な返事をして適当に分かった振りをして終わらせることにした。その代わり、近くに咲いているリコリスに手を伸ばす。
「……俺は全然花言葉とか知らないけど、これのことなら少しは知ってるよ。えっと……『マンジュシャゲ』だっけ。それとも……『ヒガンバナ』? 花言葉は、『悲しい思い出』とか……」
「うん? 全部あってるけど……なんでそこだけピンポイントで?」
過去を探るようにしながら言うチェルカにセレスは首をかしげた。本当に、深い場所から絞り出すように言っていたので、何か特別な思い入れでもあるのだろうかと思ったのだ。
しかし、チェルカは特になんでもないような素振りで言う。
「たまたま知ってただけだよ」
それからチェルカは立ち上がると、石造りの道を進み始めた。「こっちに行けば何かしらありそうだね」なんて言って、迷いのない足取りで。
建造物の残骸が多く残っているからなのだろう。この森はどういうわけか二人をとても懐かしい気分にさせた。それから、こんな町並み知っているかもしれない、と二人の記憶を徐々に甦らせる。
進めば進むほど、二人は過去の記憶が頭の中に広がって口数が減っていった。そして、妙にしんみりしてしまった。
「……昔話を、しようか」しんみりしてしまった空気を払拭するためなのか、それとも別の意図があったのか、チェルカら突然口を開く。「俺の、過去の話をしてあげるよ」
正しくは、してあげる、ではなく聴いてほしい、なのだろう。そこだけは汲み取ることができたセレスは黙って続きをまつことにした。
すると、ぽつりぽつりとチェルカが語り出す。
「……俺の両親はさ、俺が小さい頃に……殺されたんだよね。誰が犯人だとか結局曖昧なままなんだけどさ、原因はわかってて……禁忌魔法のせいだったんだ」
「禁忌魔法……なんらかの生け贄にされた、とか?」
「んー、そっちじゃないかな。俺の両親は、それの発動したあとのもののせいだよ。殺されたって言っても、自殺だったんだけどさ」
そこまで言うと、チェルカは一度足を止めた。そして、皮肉げで悲しげで爽やかな笑みを浮かべて「ここは本当に似ているね」と言う。
道の脇に並ぶ建物の残骸の中には、たまに未だ家としての形を保っているものもある。それらは総じて至るところに蔓が絡まり、それのお陰で残っているのかもしれないと思わせるようであったが、壁の色などはまだしっかり見えた。その、壁の色などが自分が不死ではなかった頃によく似ていると言う。
「十四のときかな……俺、その時からずっと根なし草状態でさ。凄くここに似てる町で過ごしたことがあったんだよ。今思えば、その頃が一番楽しかったんじゃないかなぁ……」
目の前の男から十四歳の頃の姿を想像するのはとても難しい。なんせ、何処かの変態に老体扱いされていた程の男だ。その頃が何百年前なのか分かったものではない。まあ、セレスも似たようなものなのだが。
「……オチも何もない話でごめんね。何となく、話したくなっただけなんだ」
「いいよ、別に。ちょっと興味深かったし……ねぇ、その話は『近所の性悪おにーさん』と、何か関係ある?」
話しながら、ふと記憶の片隅に残っていたチェルカの温かな笑みを思い出してセレスは言った。確か、あのときチェルカは『近所の性悪おにーさんに教わったことが生きるなんてね』と言っていた。ずっと根なし草状態だったのであれば、『近所の性悪おにーさん』が出てくるときは限られてくる。朦朧とした意識のなかでの出来事であったため定かではないが、恐らくあの発言は銃器に関することを指していたのだろう。となると、それより小さいときに教わるにはいささか物騒すぎる。
なんて、そこまで色々とごちゃごちゃと考えたセレスに対し、チェルカはへらりと笑って「そうかもしれないね」なんて曖昧に言うだけだった。




