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ラブラドライト  作者: 影都 千虎
記憶は出逢うもの
67/77

01

 フィカイアと別れ、図書島を離れ、飛行船で飛び続けること三日。予想を遥かに越える速さで二人は目的地である『魔女の森』に辿り着いた。

 否、速く着いたと言うよりは、予想を越えて近かったというべきか。いや、きっとこれも語弊があるだろう。

 何故ならば。

「流石に森の中にははいってけ無いからここから徒歩だけど、いける?」

「平気だよ。陸地なら慣れてるから……多分、平気」

 自信がなさそうに言うセレス。それもそのはずだ。目の前の広大な森は余りにも大きすぎる。

「ははは……森だけで国ひとつ分あるって言われても納得しちゃうね」

 あまりの広さにチェルカも苦笑するしかなかった。

 噂は本当に噂でしかなかった。魔女の森が山間部に位置するなんて嘘っぱちだ。確かに山間部にまで森は広がっているが、しかし海から山までずっと森なのだから何も言えない。

「ここに魔女がいるってことなのかな?」

「んー、そうみたいなんだよ。その魔女が呪術に精通してるとか、人を襲って記憶を奪うとか、そんな噂があって」

「記憶を、奪う……」

 引っ掛かったのかその部分だけを復唱するチェルカ。セレスの意図したことが伝わったようで、セレスはこくりとうなずいた。

「もしかしたら、私と同じように記憶を操ることもできるのかなって」

 それに呪術に精通してるなら、私の呪いも解けるかもしれないから、とセレスは付け加えるように言うのだった。


 それから数時間して、ある程度の荷物を揃えると、二人は飛行船を降り、森の入り口に立った。出来るだけ山間部に近い入り口を探したため、森を見つけてからかなり時間がたってしまったが仕方あるまい。それに、二人には腐るほど時間があるのだから問題もあるまい。

 何故山間部に近いところから入っていったかと言えば、ただ単に少しだけ噂話を信じてあげることにしたからだ。山間部に森があるなんて話だったのだから、山間部に魔女がいる可能性が高いんじゃないかな、とチェルカが適当なことを抜かしたのである。

 なにより、この森を魔女が見つかるまでしらみ潰しにしたくなかったのだ。この広大すぎる森をくまなく捜索していたら、どれだけの時間がかかるかもわからない。何泊も野宿することだけは断固阻止したかった。

 だから、一泊して探して、何もなければ一度飛行船まで戻り、また次の日に今度は別の位置から探す、というルールを決めて森の中へ入ることにしたのだった。

 これから、どれだけ長期戦になるのかわからないが、ある程度の覚悟をして一歩、森の中へ踏み出す。

「…………」

「わぁ……」

 森の中へはいるなり、二人は目の前の光景に絶句した。

 森の中はまるで遺跡だった。あるいは、まるで花畑だった。

 地面には石で造られた道が草の影から何となく見え、その脇にはかつて建物として存在していたのであろう、石で造られた四角い枠が点々と存在していた。そして、それらを彩るように様々な花が咲き乱れている。

 勿論、森なのだから至るところに木が生えているわけなのだが、花と建造物の残骸が余りにも強烈な存在感を放つため、ただの背景と化し、その存在を忘れそうになる。

 上も木の葉に遮られ、太陽の光はまばらにしか届いていない。否、ほとんど届いていない。それなのに、暗さは全く感じられずそれどころかとても明るい。とても、不思議な森だった。

「……リコリス、ユリ、タンポポ……」

 季節とは関係なしに咲き乱れる花を眺めて、知ってる花の名だけをチェルカは呟く。それから少し間を置くと、思い出したようにセレスに訊いた。

「そういえば、君は花言葉詳しいのかな?」

「? 急に、なんで?」

「んー……覚えてるかな、君と俺が初めて会った時のことなんだけど……女の子を、助けた……」

 そこまで話すと、チェルカは己の失敗を悟った。セレスはもう、出会ったときの記憶を失っているのだ。梛のアジトでその事に気づいたセレスが酷く傷ついたような顔をしていたというのに、それをまた繰り返すというのか。

 ごめん、と謝ってから遅いとわかっていてもチェルカは話題を変えようとした。自分のせいでセレスが傷ついた顔をするところはみたくなかった。

 だが、セレスの顔を慌てて振り返ると、そんなことは杞憂だったと知る。

「殺された女の子のこと? えっと……ダリアのこと、で合ってる?」

 首をかしげるセレス。合っている。その記憶は正しい。

 記憶があるのはいいことだが、しかし何故なのか。確かにあのとき、セレスの記憶は無くなっていた筈なのに。その日の記憶はセレスの命と引き換えになったのではなかったのだろうか。

 そんな疑問を抱えたチェルカに気付いたのか、セレスは少し困ったような顔をしながら、自分の記憶について言うのだった。

「なんていうか、な。印象に残る強い記憶って消えていくんだよ。すぐに思い出せる記憶って言うのかな……? 代わりに、言われなきゃ思い出せないような記憶は残ってることが多いんだよ。だから、一応その日のことが全部消えちゃった訳じゃないんだよ」

 ごめんね、と小さく謝ってセレスは悲しげな表情で笑った。

 それが何にたいしての謝罪なのかさっぱりわからなかったが、チェルカはなにも返さなかった。

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