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ラブラドライト  作者: 影都 千虎
記憶は甦るもの
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10

「君はこれからどうするんだい?」

 車椅子のフィカイアに、チェルカはそう問う。

 どうするもなにも、これからリオの元へ行くのだろう。だが、質問の意図はそこではない。どうやって行くのか、だ。

 長年肉体を使っていなかったため、フィカイアの筋力は極限まで衰えていた。そのため、長時間たつことも、それどころか、歩くこともままならない状況だった。だから車椅子に座っているのだ。

 リオがいるのは、『宝石の山』にある水晶の洞窟。チェルカとセレスだから軽々と辿り着いて見せたが、常人であればかなり難関とされる山だ。こんな状態では行けるわけもない。

「いや、一応転移魔法があるからの。セレスが洞窟の一部を持ってきてくれたお陰で、直接的水晶の洞窟に行くことはできるのじゃ」

 チェルカの懸念を、フィカイアは眉を下げて否定した。

 どうやら、セレスやチェルカとは違って、フィカイアは一般的な魔法を使うことができるらしい。本人曰く、この図書島にいる以上転移魔法が使えなければ何も出来ないし、居ればその内勝手に出来るようになってしまうし、幽霊生活の中で更に磨きがかかったものを取得できたのだとか。二人とは違って、素晴らしく適性があったのだろう。適性がなければ、魔法は使えない。

「でもその言い方ってことは未だ行かないってことなのかな?」

「そうじゃな。未だ、もう少しリオには待っててもらいたいと思ってるのじゃ。私には、やらなきゃいけないことがあるからの」

「やらなきゃいけないこと?」

 セレスもチェルカも首をかしげる。未だ何か探しているのだろうか。もしかして、リオの獣人となってしまった禁術を解いて人間に戻そうとか考えているのだろうか。

「流石にそんなことなしないのじゃ。確かに、リオは人間ではなくなってしまったがの……それでも、リオはリオじゃろう? 私は、リオに会えればそれでいいのじゃ」

 はにかみながらフィカイアは言う。ついでに、リオがやったことを否定するようなことはしたくないようだ。リオを思ってのこととはいえ、禁術を解くことは否定とそう大差無い。フィカイアを守るためにやってくれたことなのだから、そのままでいいんだと、フィカイアは笑った。

「じゃあ、やらなきゃいけないことって?」

 急かすようにチェルカが尋ねた。リオを待たせてまでやらなければいけないようなことがなかなか思い浮かばないのだ。

「あー、それはの」質問に対し、フィカイアはやや恥ずかしそうに言った。「リハビリ、じゃの」

 ちゃんと元気な姿で会いたいからの、と痩せ細った足を触りながらフィカイアは苦笑した。



「それじゃあ、二人とも気を付けての」

 図書館内部を離れ、飛行船の前でフィカイアはそう言った。

 慣れない肉体での移動はとてもハードなものだったのだが、どうしても外に出て二人を見送りたかったらしい。

「ん、ありがと。いってくるよ」

 そう言ってセレスは手を差し出し、二人は握手をした。これから、しばらくの間お別れである。次にいつ会えるかは、分からない。会うことがあるかもどうかも分からない。

 だから、二人は一つ、約束をするのだった。

「宝石の山で待っておるからの」

「わかった。会いに行くよ。その代わりフィカイアも、私たちを探して会いに来てね」

「分かったのじゃ。これを頼りに会いに行くのじゃ」

 フィカイアの手には小さな丸い宝石のようなものが握られている。セレスの魔力を固めて作ったものだ。恐らく、セレスの親が作った髪飾りの宝石を真似て作ったのである。

 フィカイアの転移魔法は行きたい場所、人に関係する何かが無いといけないらしく、そのための措置である。


 少しの沈黙が流れたあと、二人はやや名残惜しそうにしながら手を離す。

 セレスは船に乗り込み、フィカイアはその背中を見つめる。そして、セレスが乗ったのを確認したチェルカが船を操作して動き出す。

 別れは、さよならもまたねもなく、静かに終わった。

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