05
セレスが落ち着くとフィカイアは「さて」と言い、『図書館の何処かにいるチェルカをここへ』と呼び出した。
すると、セレスがここに飛ばされてきたときと同じような風が吹いて、チェルカが上から勢いよく降ってきた。風に飛ばされてきたため、抵抗することもできず空中でもみくちゃにされたらしいチェルカは、無様にぐしゃりと床に潰れるように着地する。ついでに、どうやら読んでいたらしい大量の本もチェルカの上にドサドサと落ちた。
「……だ、大丈夫?」
大量の本に埋もれたチェルカにセレスは控え気味に尋ねる。すると奇跡的に本に押し潰されなかった右手がピクリと動いて、親指を突き立てた。大丈夫、ということらしい。
「読んでたところ、急に呼び出して悪かったの。でも、二人をここに留めすぎるのも何となく気が引けたのじゃ」
ゆるしておくれ、とフィカイアは苦笑しつつ本の山に話し掛ける。自力では上手く脱出できないようで、チェルカはフィカイアの言葉に対して「とりあえず助けてくれない?」と、うめきつつ言うのだった。許す、許さない以前の問題らしい。
そんなチェルカの助けを聞いて、慌てて動いたのはセレスだった。 本を傷めて仕舞わないよう丁寧に扱いつつ、チェルカの上に山を築く本を別の場所へ積み上げていく。途中、タイトルにある見知らぬ地名等が気になったが、歴史を調べていたのだろう、と適当に納得して疑問を口にすることはなかった。
「ああ、ごめんね、セレス。ありがとう、助かったよ」
本が取り払われたことで自由になったチェルカが、痛む箇所をさすりながらセレスにお礼を言う。それから、セレスの目が気になったのか、「俺の故郷みたいなところを調べてたんだよ」と困ったように笑いながら答えた。
「故郷……みたいな?」
「そ。みたいなところだよ。厳密には俺の故郷じゃないし、俺に故郷はないんだけどさ。ただ、一時期住んでたことがあって、少し思い入れがあるんだよ」
そう言ってから、チェルカは顔を動かしてフィカイアを見る。
「ここの図書館は凄いね。こんな本まであるとは思わなかったよ」
「一応、世界中にある本でこの図書館に無い本はないはず……だからの。納得のいく資料はあったのかの?」
「んー……どうかな。知りたいことは知れたよ」
やや自慢気に言うフィカイアの質問に対するチェルカの顔は、何処か晴れやかなものだった。まるで、長年のわだかまりを解すことが出来たような、そんな顔。知ることができなかったことを、今知ることが出来たのだろうか。そうなのだとしたら、きっとその表情の裏にはほんの少しの後悔も含まれていることだろう。もっと早くに知りたかった、という部類の。
「そんなことよりも」話を本題に戻すため、チェルカは切り出す。それは、あまり自分が調べていたことに対して触れてほしくないのか、逃げるようにも見えた。「今は、君のことだろう? 君のお願いを聞くために俺たちはここまで来たんだから」
「……そうじゃな」
フィカイアはチェルカの逃げを追及することなく、素直に頷く。そして『ホワイトボードとセレスの髪飾りに関する資料を元の場所へ』と言って場を片付けると、机について未だ尚眠る、フィカイアの肉体の方へ寄った。
「チェルカには改めてお願いすることになるの。私がしてほしいのは……私にかけられた、呪いを解くことなのじゃ」
「呪い?」聞き返すように、セレスが首をかしげさせる。
「そう、呪いなのじゃ。セレスは一度視てるから、私にかけられた呪いを知ってる筈なのじゃ。覚えて、おるかの?」
「フィカイアの呪いを?」
何のことだろうかとセレスは頭をひねった。残念ながら、フィカイアの本体がここにあるお陰でセレスはフィカイアの記憶を読めたことがない。しかし、フィカイアが視たと言った以上、セレスは視たのだろう。彼女はセレスの記憶を視たのだから。
聴いたのではなく、視た。
「あっ」
暫く考えているうちに、セレスは一つのことを思い出した。
ここ最近、バタバタし過ぎて忘れかけそうになっていた、忘れてはいけないこと。
図書館にいる、眠ったままの少女。そして、それを待つ少年のこと。
「……もしかして、リオの……?」
セレスが導きだした答えに、フィカイアは寂しそうに頷いた。
「そうじゃ。水晶の洞窟で待ってる、リオの所へ私は帰りたいのじゃ。……だから、私にかけられた呪いを……肉体に魂が入れなくなってしまったこの封印を、二人に解いて貰いたいのじゃ」




