04
魔力と言うものは遺伝する。
両親のどちらかが人間で、どちらかが魔法使いだった場合は魔力が遺伝しないこともあるが、大抵は遺伝する。そして、その魔力の特異点や属性等も遺伝する。
炎を扱う親だったのなら、子も炎を扱えるようになる。水なら水。風なら風。闇なら闇。光なら光。
「記憶を遣う能力も遺伝するのかと訊かれたら微妙じゃがの。まあ、セレスの場合は呪いも関わってるから例外かもしれんの」
ホワイトボードを裏返して、そんな説明を綺麗にまとめて書きながらフィカイアは言った。
しかし、その原理でいくとチェルカはどうなるのだろうか。両親のどちらかが時間を操ることが出来たのだろうか。そうなのだとしたら、それは中々稀有な血だと言えるのだが。
「さて、話を戻そうかの」ある程度まとめたところでペンを置き、フィカイアはセレスと向き合う。「その髪飾りに使われた魔力。それはセレスと似通ったものだと言ったのじゃが……具体的に言えば、セレスの両親、どちらかのもの、と言っていいじゃろうな」
遺伝するのだから当然似る。そしてセレスは記憶と言う分野の魔法を使うため、特殊な魔力を持っている。赤の他人がここまで馴染むほどに似た魔力を持っているとは考えにくいだろう。
「宝石擬きについてはここまでじゃ。次に、その髪飾り自体の話をするのじゃ」
身体を半回転させ、フィカイアは山積みにされたセレスの髪飾りに関する資料として集められた本に向かう。そこから一冊を取り出すと、あるページを身体の前で開いた。端から見ると、本が浮いてひとりでにページが開いたため、これからフィカイアが魔術を使おうとしている魔術師に見えなくもない。少し、不思議な光景だ。
「その髪飾りは恐らく手作りなのじゃがな、似た形をした魔具を見つけたのじゃ。もしかしたら、これを模したのかもしれんの」
「魔具……」
「そう。魔術が込められた道具じゃ。魔具さえあれば、それに込められた魔術は誰だって使える。たまに、適性があったりするがの。……まあ、今はそこについてはどうでもいいのじゃ。重要なのは、その似た魔具がどういう性能なのか、なのじゃ」
セレスは考えることを放棄して、ただただフィカイアの言葉を脳に刻み受け止める。
恐らく親の魔力の塊が使われた髪飾り。それが何を意味するのか。未だセレスには皆目検討もついていない。
「その髪飾りは、呪いの身代わりになる性能を持っていたのじゃ」
「呪いの身代わり?」
「そうじゃ。つけたものが受けた呪いを、この髪飾りが代わりに受けるのじゃ。セレスの髪飾りがそれと同じ性能を持っていた場合、生き返るときに代償にさせられる記憶を肩代わりしてくれてたのかもしれないの。魔力を吹き込んで、もっと呪いを肩代わりできるよう、強力になるよう祈りながら」
「呪いの、肩代わり」
セレスは同じ言葉を反復する。
信じられないような話だが、フィカイアの推測は妙にしっくり来た。セレスが生き返る度に、セレスが失う記憶をこの髪飾りが代わりに失っていたのだとしたら、この髪飾りが全く記憶を持たないことに説明がつくのだ。セレスは、致命傷を負ったときだけ死んで生き返っているのではない。常に、緩やかに死に、そしてすぐに生き返っているのだ。誰にも、自分にも、身体ですら感知できない勢いで、呼吸するように死と生を繰り返している。その間ずっと、この髪飾りが身代わりとなり記憶を失い続けているのだとしたら。当然、記憶をもったそばから消えていき、すっからかんになってしまうだろう。それを、ずっと繰り返していたのだ。
「……私の推測が正しければ、それはセレスの両親からセレスへの贈り物なのじゃ」
セレスの奥底に眠っている、『親に愛されていなかった』という思いをフィカイアは静かに否定する。
「セレスがそんな呪いを受けてしまったから、せめて記憶を失い続けることが無いように、守れるように……そう、思ったんじゃないのかの」
『親に捨てられた』という思いを切り捨てられるように、フィカイアはさらに畳み掛けるように言う。
ほんの少しだけ、セレスを今、抱き締めてあげられないことを悔しく思いながら。
「セレスは、愛されてなかったなんてことも無かったんじゃないのかの。むしろ、ずっと守られていたんじゃないのかの」
その言葉を引き金に、セレスは崩れ落ちるように手を床につき俯いた。座っているのがやっとの様子で、今にも倒れてしまいそうである。そして、小さく震えていた。
「……そんなの」
震える声で、フィカイアに聞こえるか聞こえないかギリギリの小ささで、嘆くように、吐き出すように、セレスは言った。
「……そんなの、今更言われたって……よく、分かんないよ……っ」
その声は、涙で濡れていたかもしれない。




