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ラブラドライト  作者: 影都 千虎
記憶は甦るもの
59/77

03

「ん? セレスだけ来たのかの。それはある意味丁度よかったのじゃ」

 眠るフィカイアを見て戸惑うセレスにそんな声が掛けられた。声の主は、眠る身体の後ろにいる。

 幽体と本体。二人のフィカイアが今、セレスの前に現れたわけなのだが、やはりこうして並べてみると二人の間にはどういうわけか年齢の差が生じていた。明らかに本体が大人びていて、明らかに幽体が幼い。

「私のことは……まあ、今は気にしないでくれるかの。後で、話すのじゃ」

 気にしないでほしいと言われてしまえば気になっても話題に出すことはできない。それよりも先に話したいことがあるようだし、それを優先するしかあるまい。セレスは自分の疑問を飲み込んでフィカイアの言葉の続きを待った。

「ふふふ……ありがとうなのじゃ。それで、話なのじゃが」

 にっこりと笑ってフィカイアは言うと、言葉をそこで切り、代わりに「セレスの髪飾りに関する資料を」と、誰かに呼び掛けるようにいった。

 すると、何処からともなく本がひとりでに動きだし、フィカイアの隣に山を築く。その光景にセレスは目を丸くした。

「おや? ここにきたってことはこの図書館の仕組みは理解したのかと思っていたのじゃが……そうじゃなかったようじゃの。なら、先にこの図書館の簡単な説明をするのじゃ」

 首をかしげつつ、どこか楽しそうにフィカイアは言って、今度は「ホワイトボードを」と言った。するとやはり、先程の本と同じようにホワイトボードがひとりで動いてフィカイアのところまでやって来る。

 やって来たホワイトボードには、この島を簡単に描いた絵と、この図書館のものであろう見取り図が描かれていた。

「まあ、あんまり必要ないんじゃが……雰囲気の為じゃな。さて、この図書館の使い方について説明するかの。

 まず、この図書島じゃが、来るときに説明した通り幽霊島とも呼ばれておる。これは、この島に生きた人間が誰一人いないからで、図書館内も例外ではない……というか、この島イコール図書館なのじゃがな?

 そして、入ってきたときに分かったと思うが、この図書館は底が見えない。この最深部である司書室以外、床が見えることはないじゃろうな。だから、普通であればここに踏み入れば最後、出ることは叶わない。

 じゃが、この図書館は違う。この図書館に関することだったら、口にした願いを図書館が叶えてくれるのじゃ。

 例えば、司書室に入りたいと言えばここに来れるし、図書館の外に出たいと言えば出口に行ける。何か読みたい本があればそのタイトルを言えば出てくる。ざっくりとした、何かに関する本、でも候補の本が出てくるのじゃ。

 故に人が要らない。貸出期日も、この図書館の外に本を持ち出すことが出来ないルールがあるから必要ない。そんな、図書館なのじゃ。分かったかの?」

「だ、だいたいは……」

 どうやらセレスはこの図書館を『とにかく便利な図書館』として理解したようだ。フィカイアがかなり簡単な説明をしてくれたのだが、それにも関わらずざっくりとした理解である。

「さて、それじゃあ本題なのじゃ。私はこの図書館で、これらの資料を参考にしながらセレスの髪飾り……主に、その宝石について調べたのじゃ」

 フィカイアは指差す。その先には、セレスの髪を結う、髪飾りの漆黒の宝石があった。その何もかも飲み込んでしまいそうな宝石は、セレスが何百年と調べても正体が分からなかった。そして、この宝石に記憶が宿ることも一度もなかった。正真正銘の正体不明である。

「結果を言うと、まず、それが宝石だと言うのがそもそもの勘違いだったようじゃ」

「えっ」

 軽く息を吸うと、フィカイアは特に長々と前置きをするわけでも、小難しい説明をいれるわけでもなく、淡々と結論を話始めた。

「あくまで私が調べた結果じゃが、それは宝石ではなく、結晶と呼ぶ方が正しそうじゃ。結晶も、化合物が云々とかそういうのではない。誰かの魔力で作られた、魔力の塊だったものじゃ」

 だから石などではなかった。調べ方が違った。と、フィカイアはため息混じりに笑った。そして、混乱気味のセレスに追い討ちをかけるように言う。

「魔力の塊である以上、魔力を失ったとは言え分かりやすいと思うんじゃがの。まったく分からなかったってことは、多分、それはセレスと似通ったものなのじゃ」

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