01
図書島。
大陸からやや南に離れたところに位置する小さな孤島だ。面積は〇.三八平方キロメートル程で、海のなかにぽつんと小さな山が現れた印象を受ける。
この図書島の最たる特徴は、この島にある建物全てが図書館であるということーー山の中にいくつも頭を出す四角い箱はすべて内部で繋がっており、島全体が一つの図書館であるということだ。故に、図書島。
本来は恐らく別の呼び名があり、ここもかつては人々の暮らすごく普通の島だったのだろうが、いつからかこんなことになってしまった。
「ーー図書島の他にも、幽霊島……幽霊の図書館とも呼ばれておるがの。まあ、生きてる人間が誰もいないからそう呼ばれるのも当たり前なのじゃ。この島に住んでいる生き物はない。強いて言えば植物くらいじゃな。それ以外は、野性動物も、モンスターも居ない。そう管理しておる」
図書島を前に、フィカイアがそんな注釈を加えた。
しかし、空も海も真っ青で、生い茂った緑の中に白い壁や空を反射するガラスが点々とある島をみながらそんな注釈を加えられてもぴんとこない。明るすぎて、綺麗すぎて、幽霊なんて言葉が全く似つかわしくない。これが荒れ果てた海と雷の鳴り響く黒い空の中だったら納得できたのかもしれないが。
「飛行船は何処に停めても大丈夫じゃ。何処からでも入れるからのーー逆に言えば、何処から入ってもこれから歩く距離は変わらないのじゃ」
これから二人を最深部へ案内するのじゃ、と子どもっぽく、悪戯っぽく笑ってフィカイアは言うのだった。
「えーっと……入る前に一つ、訊いてもいい?」
「何じゃ? この島に関することなら私がなんでも答えるのじゃ!」
図書島が近くなってからずっとこんな調子のフィカイアに若干戸惑いつつ、セレスは自分の疑問をぶつけることにした。
「なんでそんなに詳しいの? なんか、言い方も……」
説明が一々細かすぎる。それに、説明に使っている言葉が、この島を運営していると思わせるようなものばかりだ。そう。まるでこの島が、この図書館がフィカイアの所有物のようだ。
「んー……まあ行けばすぐわかるけど……そんなにもったいぶるものでもないかの」
セレスの質問に、図書館へ入る扉を開けながらフィカイアは考える。それから、腕を元気よく振って遅れてやってきたセレスとチェルカを待つと、とびきりの笑顔で言った。
「セレスの疑問通り、この島は私の所有物じゃ。私は、この図書館の司書なのじゃ!」
扉から中に入るとこの図書館の広大さがよく分かる。何処まで続いてるか分からない高さと深さの本棚には本がみっちりと詰まっており、所々にある本棚一つ分のスペースから続いた廊下にも本棚と本がつまっている。ここからでは見えないが、廊下の先にもここと同じような光景が広がっており、それかがいくつもあるのだろう。
そんな、図書館の司書。そして所有者。
「…………」
「…………」
胸をはって鼻高々に自慢気な表情を浮かべる少女を前に、セレスとチェルカは絶句するしかなかった。思わず目を疑うし、開いた口が塞がらない。
「むー? その顔は二人とも信じてないようじゃな? だが今に見ておれよ、直ぐに認めさせるからの!」
なにもコメントをしない二人に頬を膨らませると、フィカイアは少し後ずさりした後、自分の力を使い始める。対象は勿論セレスとチェルカで、二人の背中を軽く押して図書館への一歩を強制的に踏み出させる。
「案内は後にして、先に最深部へ連れてくのじゃ!」
悪戯っ子のような笑みを浮かべてフィカイアは元気よく言う。若干、意地を張っているのかもしれない。そして自分のことを凄いと認めさせたいのかもしれない。
だが、セレスとチェルカはそれどころではない。
「え」
「え」
フィカイアによって強制的に踏み出させられた一歩。それにより、二人は図書館の内部へと足を踏み入れることになったのだが、なんということだろうか。そこには床など存在せず、足場も存在せず、遥か下に黒い闇が見えるだけで壁は一面の本棚という空間に放り投げられた状態となった。
二人は空を飛ぶことはできない。
そして、フィカイアたち幽霊のように、空中に留まることもできない。
「……あ、床のこと忘れておったの……」
フィカイアの呟きはとても遅く、二人は何かを叫びながら図書館の奥深くへまっ逆さまに落ちていった。




