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「で」やや満足げな顔のまま、チェルカはフィカイアの方を向く。「君は、どうするんだい?」
「私、は……」
「まさか、『私も恋がしたかったのう』なんて言って終わらせるわけないよね?」
「ははは……」
何処までお見通しなんじゃ、とフィカイアは苦々しく笑った。
幽体であるため重力に囚われないフィカイアは、そこから先を言わずに、誤魔化すようにふわふわとチェルカの頭上を漂う。その顔はチェルカからは見えない。だが、不思議とどんなことを考えているかは伝わった。
フィカイアは考えていた。
今までのこと。これからのこと。そして自分の身体のこと。
手を尽くしてきたが自分ではどうにもならなくてここまで来てしまった。まだどうなるか分からないが、セレスとチェルカに頼めば何かがどうにかなるかもしれない。それと同時に、その後が上手くいかなくて今より悪化するかもしれない。それを考えると、いまのほうが平和だし、今のほうがいいのではないかと思う。
でも、セレスとチェルカを見ていると、幽体であることの不便さを身に染みて感じるようになった。ちゃんとした肉体があるままで、生きていたいと強く願うようになった。
「……チェルカは、戻りたいと思うことはあるかの?」
決心をつける前に、フィカイアは問う。それを聴くと、チェルカは目を細めて寂しそうに微笑んだ。
「置いていかれると、あの頃に戻りたいとは思うよ。そうだな……子供の頃とか、楽しかったんじゃないかな。生きる目的が一番あった頃だと思うし」
そこまで言うと、セレスに目をやる。魘されている様子はなく、安らかな寝顔だ。
「セレスは……言わずもがなだよね。呪いを解きたくてこうして旅をしている。
俺も、セレスも、二人とも不死だから、上手くいかなくても今までよりは寂しくなることもないし、死にたくなることもないと思う。でも、君は違うだろう?
君の知り合いは今生きていて、そして不老不死じゃない。君はきっとその状態なら永遠にこの世にいられると思うけど……俺たちみたいな道を、辿るかい?」
チェルカの言葉には一種の圧力のようなものも感じられた。逃げて、永遠を生きる覚悟はあるのかとその目が語っていた。
その重圧に、フィカイアは思わず怯え、怖じ気づく。
「ああ、ごめん。脅かす気は無かったんだよ?」
「本当かのう……?」
フィカイアの様子に気付いたチェルカは、表情と雰囲気を緩めて笑う。そこでやっと重圧から解放されたフィカイアは深いため息をついた。こうはなっちゃいけないと、無理矢理納得させられたような気分である。
「……チェルカと、セレスにお願いするのじゃ」
決心がついたのか、やがてフィカイアは床まで降りて、チェルカを真っ直ぐに見て、その言葉を口にした。
「私を、助けてほしいのじゃ」
もう一度目を瞑り、今までのことと、これからのことを考える。そして最後に、自分の身体を思い浮かべ、一つ、深呼吸をした。そして、目を開く。
「私の呪いを解いてほしいのじゃ」
一瞬の静寂。
そして、フィカイアの言葉をしっかりと受け止めたチェルカは、口許を歪ませてニヤリと笑い意地悪そうな顔で「いいよ」と言うのだった。
「その代わり、セレスにもちゃんと自分で言うんだよ?」
「……分かっておるのじゃ。それに、チェルカよりもセレスのほうが、私のことを知っておる」
そうだったね、とチェルカは笑い、フィカイアは笑わなかった。
「じゃあ、君がいるところへ案内してもらおうか?」
「……もう、向かっておる」
フィカイアは目を細めて窓の外を見た。外には真っ暗な空が広がっており、遥か下の方では転々とした小さな明かりが見えた。
「私がいるのは、二人が向かう途中にある島……図書島じゃ」
逆方向じゃなくてよかったの、とフィカイアはやっと笑みを見せた。




