08
「お待たせ。出来たけど食べれるかい?」
緩んだ涙腺がどうにかなってから、タイミングを見計らったかのようにチェルカが部屋に入ってくる。左手には盆が乗っており、その上にはバケットで作られたサンドイッチが二つ乗っていた。
「作ってるうちになんかボリュームたっぷりになっちゃってさ……無理なら残していいから」
こくりとセレスが頷いたのを確認してから、チェルカはセレスにサンドイッチを手渡した。持ってみると、その重量感がよくわかる。
バケットの中央に入れられた深めの切り込みにはレタス、スライスオニオン、パストラミ、クリームチーズがたっぷり挟まれている。所謂、カスクートと呼ばれるものだ。クリームチーズにはバジルとペッパーとオリーブオイルで味つけられていて、ちょっとした手間も感じられた。
一口、大きく食べる。
想像していたよりもずっとバケットの外側はパリパリしており、内側はとてももちもちで、バケットだけでも十分美味しく戴けそうだった。流石にこの船には釜は無いから出来ないとは思うが、まるで焼きたてのような食感だ。もしかして、時間を操作して作ったのだろうか。まさか、とは思うが。
「お味はいかが?」
「……美味しい」
「ん、そいつは重畳だ」
一言だけ言って再びカスクートにかじりつくセレスをにっこりとした表情で見つめながら、上機嫌そうにチェルカもカスクートを食べるのだった。
「……こんなことなら私も生きていればよかったのじゃ」
そんな二人を羨ましそうに見ながらフィカイアは拗ねたように呟いた。
フィカイアは幽霊だ。だからものを食べることなんて出来るわけがない。今まではそれを特になんとも感じていなかったわけだが、いざこういう場面に出くわすと、羨ましくなってしまうらしい。或いは、この二人と一緒にいてそういう気分になってしまったのか。
その呟きを拾ったチェルカは、少し意地悪そうに目を細めて言った。
「生きていればって、君には肉体があるんでしょ? 確かに、ここに急いで呼んだから今は幽霊してるけどさ」
「…………」
「何かな? 言いたいことがあるならはっきり言えばどうかな」
分かっているのじゃな、と意地悪く言うチェルカに、フィカイアは低く唸るように呟いた。逆に、二人の会話についていけないセレスはキョトンとした顔でカスクートを食べ続けている。
そこから暫く無言が続いた。相変わらずチェルカはニヤニヤと笑っているし、フィカイアは理由を言えないのか膨れっ面でチェルカを睨んでいる。黙っていてもらちが明かないとは分かっているようだが、それでもまだ口にしたくはないらしい。お陰でもどかしさと苛立ちを味わっていた。
「ごめんよ」やがて、膨れっ面のフィカイアをみて噴き出しそうにになりながらチェルカは言うのだった。「分かってるよ。だから、約束を果たしに行こう。道案内を頼めるかな?」
「……約束とまでは言ってないのじゃ」
「でも最初から頼む気だっただろう?」
「…………」
今度こそフィカイアは黙り込み、そっぽを向いた。それからいたたまれなくなったのか、その場から逃げるように消えていく。
「フィカイア!?」
驚いたセレスが慌てて呼び掛けるが返事はない。本当に何処かへ行ってしまったようだ。
「ちょっと、ねえ、行っちゃったよ!?」
「あはは、苛めすぎたみたいだね」
「笑ってる場合じゃないよ!」
悪びれもせず笑うチェルカにセレスは怒鳴るように突っ込んだ。どうしてこいつは何時もこうなのか。若干呆れている。
「いやぁ、ごめんって。でもそうするしかないっていうのも分かってほしかったりするな」
「そうするしかないって……」
確かに、フィカイアにとってそのことは言いたくないことのだったようだ。しかし、だからって煽るようなことを言う必要はなかったはずだ。一応、本人は場を茶化すつもりであんな言い方をしたようだったが、場を茶化すどころではなくなっている。もう少し対人スキルを磨いてほしいところだ。
「まあ、セレスにもそのうちわかるよ」
訳がわからないといった顔をしたセレスに、チェルカは、そう言って困ったように笑った。そういうことを言いたいんじゃないんだけどな、と内心思いつつ、セレスはそこでこの話題をやめることにした。




