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ラブラドライト  作者: 影都 千虎
記憶は失うもの
50/77

04

「助け? そうですねぇ、そのうち来るんじゃありませんか?」

 そうするように仕向けましたから、と梛は言う。まるで、セレスの呟きを嘲笑うかのように。それもそのはず。チェルカがここに来たところで、セレスを助けることなく捕まるというのが梛の計画なのだから。

「……なぎ」

 健気に梛を睨み付けるセレスを見て微笑んでいると、後ろから幼い声が聞こえた。

「椿? 外で邪魔者をズタズタにしてきなさいと言った筈ですが……?」

 まさか椿がチェルカを持ってくる筈がない。かといって、椿が言うことを聞かないなんてこともない。何が起きたのだろうか。不審に思いながら、梛はセレスから視線をはずし、ゆっくりと後ろを振り返る。だがそこには椿はおらず、椿を探して首をかしげるスイレンだけがいた。

「……椿?」

 不安が込み上げる。嫌な予感がする。背後に何かがもう一人いる気がして、梛は刀を構えつつ勢いよく振り返った。

「……ッ、ゆーー幽霊?」

 そんな馬鹿な、とは言えなかった。セレスの上に立っている黒髪の少女には明らかに足が膝の辺りから無かったのだ。

 俯き気味に梛を睨んでいるため、長い髪が顔を隠してどんな表情を浮かべているのかは分からない。だが、恨みだとか呪いだとか、そんなものが似合いそうな黒いオーラは纏っていた。

「……お待たせなのじゃ、セレス」

 言いながら、幽霊ーーフィカイアは自分の力を使ってセレスを縛るロープを解いていく。傍目からでは物がひとりでに動いているようにしか見えないが、フィカイアの意思で動く、フィカイアの力による現象である。

「フィカイア……?」

 状況を理解できないでいるセレスは、もうロープが解かれたというのに縛られたときのままの姿勢のまま首をかしげさせた。

 そんなセレスの前にきて、セレスの顔に自分の顔を近づけると、フィカイアは優しい声色で言った。

「よく頑張ったのじゃ。大丈夫、もう安心してよいのじゃ」

「あんしん……?」

「そうじゃ。もう記憶を奪われる心配は無いと言っていいのじゃ」

 来てるからの、とフィカイアがはにかんだ、その瞬間セレスの背後にあった壁が派手な音と共に吹っ飛んだ。瓦礫が飛び散ったが、それは不思議とセレスには欠片も当たらなかった。フィカイアが守ったからだと言うことにはセレスは気付いていない。

 派手な音に驚いて起き上がったセレスが後ろを振り向くと、空いた穴の外から何やら物騒な銃器を担いだチェルカがシニカルな笑みを浮かべてゆっくりと入ってきていた。

「来てやったよ、クソガキ。さて、セレスは返してもらおうか」

「……はは、遅いですよ、ご老体。そんなヨボヨボの身体で粋がらなくとも」

 その光景に梛は思わず笑みを溢した。軽口もどこか恐怖を隠すための強がりにしか聞こえないのは、きっとチェルカの背後に荒廃した土地が広がっているからだろう。梛が知る限り、この建物の外ーー壁の向こう側には森が広がっていた筈だ。それが、少し見ない間にどうしてこうなってしまったのだろうか。生い茂っていた木々は何処に行ったのだろうか。目の前の脅威よりも、そんなところに目がいってしまう。現実逃避だろうか。

「そんなに喜ばなくてもいいよ。本当に君は俺のことが大好きなんだね」担いでいたバズーカを梛に向けつつチェルカは言う。「そんな君のために今からたっぷり二人で遊ぼうか」

「はっ、こんなところでそんなものを使ったら、貴方の愛してやまない彼女まで巻き添えを食らうのではないですか?」

 だから目の前の銃器が使われることはない。実質相手は丸腰だ。梛はそう踏んで少し余裕を取り戻し、いつでもチェルカを刀で斬りつけられるよう構える。それから、斬りつけた箇所へ埋め込むための爆薬を仕込むことも忘れない。

「ああ、そんなこと?」

 梛のそんな動作を見ても尚、身体を爆破される痛みを知っても尚、チェルカは体勢を低くしてお構い無しに突っ込んでいった。

「ッ!?」

「こんなもん使うわけないじゃん」

 梛の懐直前で、チェルカはそう言ってバズーカを梛の顔面へ投げる。下投げであるため緩やかな放物線を描いてバズーカは宙を舞うが、不意討ちであったため梛にとって十分な凶器だった。なんせ、鉄の塊が突然目の前に現れるのだ。驚かない筈がない。

 咄嗟のことだったが、梛はとりあえずバズーカを切り刻むことで直撃を免れる。だが、その代わりにチェルカを見失った。それが目的だったのだろう。

「これ、なーんだ」

 ヒヤリとした感触。首に当たる刃物がいつでも喉をかっ切れると主張していた。

 バズーカを投げると同時に若干能力を使いつつ梛の背後に回っていたチェルカは、おどけた口調でそう言った。問いながら、それが何なのか梛からは見えない位置に置くあたり、中々ふざけている。否、そこまで遊ぶつもりもないらしい。

「そうやって調子に乗るから刺されるんですよ」

 喉に刃物を当てられても尚、余裕たっぷりにチェルカを挑発する梛。その左手は何処からともなく小刀を取り出していて、それを逆手に持ちチェルカの腹めがけて突き刺そうとしていた。

 梛本人は不意をついた筈だったが、それはうまくいかず、小刀は人体ではない、何か固いものに当たった。

「……新たな銃ですか。そんなもの斬ってしまえばどうということはありませんね」

「強がるねぇ。させるとでも思ってるわけ?」

 梛は刀を握り、右方向に回転しながらチェルカごと邪魔な銃を斬ろうとした。が、チェルカは勿論それをかわす。身体を斬られることもない。その代わり、梛を離すことになってしまったが、大して気にはしていなさそうだ。

「はい、お土産」

 距離をとるとチェルカは右手に持ったナイフを梛へ投げる。投げナイフ用のものではない、武骨な大振りのナイフであるため余り綺麗には飛ばなかった。

 梛はそのナイフを一度刀で反射的に叩き落としてから、その正体を見る。そして目を見開いた。

「スイレン、椿を探して来てください」

 そのナイフには見覚えがあった。そう、梛のペットである椿のお気に入りのナイフだったのだ。これをチェルカが持っているということは、椿は言いつけ通りチェルカの相手をしに行ったのだろう。そして返り討ちにされてしまった。恐らくさっきの声は、幽霊に真似させたものなのだろう。だから椿はここには来ていないーーそこまで考えると、梛は刀を握り直してあらためてチェルカと向き合った。細く開かれた双眸がチェルカを射抜く。

「へえ、良い顔になったじゃん」

 そんな梛を見てチェルカはヘラヘラと笑う。そして、いいことを教えてあげるよ、とこの状況には似つかわしくない、爽やかな笑みを浮かべて言うのだった。

「俺ね、下らない目的のために誰かを誘拐して拷問しちゃうやつ、虫酸が走るくらい嫌いなんだよね」

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