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ラブラドライト  作者: 影都 千虎
記憶は使うもの
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11

 取り敢えずこの島にいる限り自分は無敵だーーなんて考えは捨てなければならない。

  すべての記憶を弄くれないのと同じように、すべての記憶を再現することもできない。例えば、チェルカの能力。時間を操作するということはまず無理だし、ああいった個人専用のアビリティみたいなのはまず再現ができない。個人の能力は記憶より前に身体が動くからだ。自ら学んで身に付けたものではない場合、それはその身体に染み付いたものでありその身体でなければ使うことができない。セレスが空を飛べないのも同じ原理だ。

 次に、梛の札のように道具を使うタイプ。これも再現不可能だ。道具に何らかの細工を仕込んでいる場合、記憶を持っているのは道具ということになる。そして、その道具はその能力を使うために生まれている。つまり、先程の個人の能力と同じ扱いとなるのだ。セレスには、誰かの音声を受信し、発信することなど出来るわけもない。それができたら、恐らく人間ではない。

 不老不死であろうと、ダメージを受けないわけではない。現に受けている毒のようなタイプはもっとも有効な手段だろう。殺し続ける。ダメージを与え続ける。身体そのものを動かなくする。そうすれば、死んでも生き返るなんて関係ない。それに、セレスにだって痛覚はあるし、精神もあるのだ。そして、精神は不老不死ではない。


 三ヶ所に打たれた毒は血と共に全身を巡っている。

 いくらか走ったところで、セレスはガクンと膝をついた。もう、左腕と右足が痺れて動かない。呼吸をするのもなんとなく辛くて、心臓が止まってしまうのもそう遠くはなかった。

 なんて事情を敵は好機としか捉えない。セレスによる魔法攻撃が止んだのをいいことに、敵たちはここぞとばかりにセレスを叩く。矢の雨が降り、焔の竜が身体を包み、雷が何度もセレスを撃った。

「うっ、ぐ……あぁっ……」

 それらを何とか何処からか貰ってきた記憶の中にある魔法障壁で防ごうとしたのだが、凌ぎきれずに喰らうことになった。直撃は免れたからいいものの、相手も特大級のものを寄越してくるためかなりのダメージになった。しかし死んではいないため、回復はしない。身体はもうボロボロだ。

「い、いたい……いたい……っ」

 泣きそうになる。白い肌は焦げて黒くなっているし、至るところに矢が刺さったりかすったりしていて血に汚れている。絶え間なく身体が痛みで絶叫していて、生きるのが嫌になってくる。

 それでも諦めるわけにはいかない。チェルカが自分を守ろうとしてくれているのだ。現に、梛がまだこちらに来ていない。なら、この場を脱出して飛行船に乗るまでは諦めずに戦うしかない。自分をそう鼓舞するしか道はない。死んでつかまれば、梛に道具にされる未来しか待っていないのだ。

「う……もう、知らない。全部吹っ飛べばいい……」

 痛みのあまり自棄になったセレスは段々と今までおさえていた部分を表に出すようになってきた。誰かの記憶の奥底に眠っていた魔法を引っ張り出して、この島に置かれている魔方陣を利用して詠唱を始める。

「『破壊の音楽で光は全て堕ち闇は全て失せ完全なる無の世界を創造するだろう。現は幻。夢は現。幻と夢は相成れず混沌を築く。今宵の贄は全て成。宴と共に終焉へ誘え。闇夜を照らす星たちよ我に従い永久なる破壊をもたらせ』」

 覚えの無い呪文の筈なのに、それはとてもよく馴染んだ言葉のようにすらすらと口から出ていく。

 向こうが何を警戒しているのかは分からないが、近くに寄らず遠距離攻撃でまずどうにかしようとしているのは好都合だった。お陰で、途切れることなく詠唱が完了し、いつでも発動することができる。

 足から順に身体が凍っていっているが関係ない。口さえ動けば、問題ないのだ。

 セレスはまだ動く右腕を高くあげて、薄く笑いながら最後の言葉を口にした。

「往けーー『流星の奏でる破滅』(スターダスト)」

 それを切っ掛けに、空から島めがけて星が降り注ぐ。星、というより岩と言った方が正しいだろうか。流れ星は隕石なのだから正しいには正しいのだが、中々凶悪である。

 対象物を破壊し尽くすまで止むことの無い、特大無差別魔法。それがこれだ。

 今回の場合対象物はこの島そのものに設定してある。環境破壊なんてレベルではない。島の存在を丸々一つ消し飛ばして、敵を一掃すると考えたのだ。自棄になりすぎである。

「……ああ、動けないや」

 毒と氷によって動かなくなった身体にため息をつきつつ、セレスは諦めたように笑った。

 その数秒後、地面が割れ、動けないセレスはそのまま海へ落ちていく。

(その後のこと、考えておくの忘れちゃったなぁ…………)

 なんて呑気に考えながらセレスは沈んでいく。島を出たら、水にぬれたら、身体が動くなんてそんなことはない。動かない身体はまるで鉛のようで、どんどん沈んでいった。

 息が出来ない。それが毒のせいなのか、海のせいなのかは分からない。


 息が出来ない。苦しい。

 寒い。

 くらいくらいくるしい。


 ごぽり、と口から空気の泡が出ていった。代わりとばかりに海水が大量に口の中へ入ってくる。

 ああ、死ってこういうことなんだ。

 セレスは全てを諦めて、そして目を閉じた。

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