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ラブラドライト  作者: 影都 千虎
記憶は使うもの
38/77

04

 武器をなくした剣士は最早セレスの敵ではなかった。拳や脚でセレスにダメージを与えようにも、速さが違う。ダメージを与える前にセレスに吹っ飛ばされていた。剣さえ無ければ斬られる心配がないのだ。安心して相手の懐へ突っ込んでいける。セレスは縦横無尽に駆け回り、剣士たちとの肉弾戦に応じた。

 地を蹴り、斜めに跳びながら空中でコマのようにくるくると回り、遠心力を利用した蹴りを放ったかと思えば、着地と同時に深く沈み込み、下から相手の顎めがけて重い掌底を放つ。そこから一気に振り返り、後ろに迫ってきていた一人に肘を突き刺す。

 セレスの勢いはまだまだ止まらない。

 魔術師が何か迂闊にも魔術を放ってしまえば、そこにセレスが剣士を飛ばして自滅を誘う。だから魔術師は上手く魔術を発動できずにいた。あまりにもセレスがうごきまわるため、狙いが定められないのだ。それはどんな飛び道具も同じだろう。

 実は、この後ろにある木の影には弓兵が潜んでいるのだが、ずっとセレスを撃てずにいた。弓兵たちが到着したときには既に砂嵐が吹き荒れており、やんだかと思えばセレスが止まることなく動き続け、剣士たちを殴り飛ばしているのだ。味方に矢が当たってしまうリスクと、セレスに当たる確率の低さを考えれば、矢を放てないのは当然である。

 ある程度剣士たちを殴り飛ばし、その体力を消耗させると今度は魔術師たちにも襲い掛かる。いつ放たれるか分からない飛び道具は早めに潰しておいた方が安全なのだ。いくら自滅を誘わせて、魔術の量を制限させたとしても。この時間の間に何らかの用意が進んで、特大魔法なんて使われたらたまったものではないのだし。

 こんなとき、敵から見て何が一番恐ろしいのかと言えば、その無尽蔵とも思える体力だ。木を倒し、相手の武器を無力化してからのセレスの動きは、とても激しいものなのに衰える気配がない。対して、剣士たちはそんなセレスの動きについていけず、次々と動きを鈍らせ、セレスの重い一撃をモロに喰らい、意識を飛ばしていった。普段鍛えているにも関わらず、だ。そして今度は剣士ほど体を鍛えているわけではない魔術師たちが次々と蹴散らされていく。魔術を使わせる暇も与えないセレスの猛攻は、魔術師たちを成す術なく気絶させていった。

「……ふう」

 剣士と魔術師を倒しきったところで、セレスはようやく動くのをやめて一息つく。首筋などの汗で髪が貼り付いており、一応それなりの消耗があったことを示していた。更に、病み上がりということもありセレスは身体の重さを感じていた。それでもこの動きだったのだが。

 無尽蔵に見えるだけで無限ではない。ただ、今までの何百年という無茶な生活のお陰で鍛えられ、ここ最近のちゃんとした生活のお陰でスタミナがあると考えれば、多少体調が悪くたって大きなハンデにはならないのかもしれない。亀の甲より年の功と言うべきなのだろうか。

 さて、と呟いて、セレスは収まりつつあった砂嵐を再び巻き起こす。恐らく弓兵に気付いたのだろう。これで彼等はセレスを弓で打つことは出来なくなった。攻撃するには、自らの手で直接やらなければきっと砂嵐にかき消されてしまうだろう。セレスがそれを目論んで砂嵐を起こしたのだから、きっとそうだ。

 そしてセレスは考える。弓兵をどう倒そうかと。

 砂嵐が起こっている限り、この場にいるのが攻撃を受けることなく相手に干渉できるので最も安全だ。しかし、その干渉する手段が此方にもない。

 飛び道具を使えば砂嵐に消されてしまうのはこちらだって同じだし、万が一砂嵐に影響されずに飛ばすことが出来たとしても、木の影に隠れているであろう相手にぶつけるのは至難の技だ。

 となると、ここから抜け出して相手に接近しなければならない。出来れば気付かれず、ずっとこの砂嵐の中心に居ると思い込ませて。

「……ちょっと魔術師さんたちの記憶をコピーさせてもらおうかな」

 どうやってここから抜け出すかを考えた結果、セレスはまず武器を増やすことを選択した。人間の記憶を解析しなければならないため、大きな隙が生じてしまうが、この砂嵐の中ならきっと平気だ。それに魔術師が二人ほど砂嵐の中で倒れている。これは好都合だ。

 時間短縮のため、二人の頭に同時に触れ解析を始める。その時間は数十秒。思ったよりも速いが、戦闘においてこの時間は致命的だろう。

「よかった。これでダミーが作り放題だ」

 解析してコピーした記憶を右手の指輪の中に入れてしまうと、セレスはそれを撫でながら少し微笑みをもらしてそう呟いた。それから魔術を発動させる。

「『創造(クリエイト)』」

 発動と同時にセレスの足元が真っ白な光を放つ。そしてセレスの目の前に、土で出来たセレスと同じ大きさの人間のようなものが出来上がった。代わりに、その隣に出来上がったものの体積と同じ分の大きな穴が空いてしまったが、関係無いとしよう。

 セレスはその出来上がった穴を落とし穴にしてバレないようカモフラージュを施すと、砂嵐はそのままに一気に飛び上がった。そのときに砂嵐の範囲を上へ伸ばすのも忘れない。

「『暴風』」

 空中でそう呟けば、暴風が吹き荒れる。これで木の上に着地してもバレ難くなった。おまけに、風を調節しつつ乗れば無駄な着地を増やさずに横移動ができる。

 そんなセレスの目論み通りに移動は完了し、セレスは木を伝って土で作られた囮が待ち受ける砂嵐へ弓を構えた兵士の後ろに立つ。そこから先は魔術師や剣士たちよりずっと簡単で、後ろから弓兵の頭にそっと触れるだけで意識を奪える。これで一人片付いた。

 さて、次に行こう。

 セレスが振り返ろうとしたその時だった。響くようで鋭い痛みが左腕を襲う。見ればそこには小さくて細いナイフが上腕部に刺さっていた。

「……っ」

 痛みに顔をしかめる。同時に一瞬視界が歪み、ガクンと膝の力が抜けた。どうやらナイフに毒が塗ってあったらしい。激しい動きをした後だったため血の巡りがよくなっており、直ぐに回り始めてしまったようだ。身体が徐々に明らかに異常な熱を帯び始めている。

 眉間に思いきりシワを寄せ、唇を噛みながら腕に刺さったナイフを抜くとセレスはキッと前方――恐らくナイフを投げたであろう地点を睨んだ。

 するとそこには、手錠と足枷、さらに首輪までつけた赤い着物で黒い髪の少女が、セレスの腕に刺さっていたものと同じ細いナイフを四本、両手に持って無表情で立っていた。

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