02
大群を目の前に、一人突っ込んでいく虹色の頭。敵を足場にして跳んだり、自分の能力である時間操作を活用して重力に従い落ちていく速度を調節したりして群れに戦いを挑んでいくが、どう考えたって数で不利だ。否、不利なんてレベルじゃない。勝負にもならない。
跳んだり蹴ったりして敵の攻撃を回避しつつ敵を飛ばして船から遠ざけるよう攻撃しているが、一人を相手している間にその他無数が船やチェルカに襲い掛かる。
「ッ!!」
一瞬、チェルカの左腕がドラゴンに乗った男の槍によって身体から切り離され、宙を舞った。それはすぐにチェルカの身体へと戻り、再び動いているが、見たものは事実。セレスは操縦室で一人顔を青くした。そして見ていられなくなった。
船をなんとか操作して、近くの島を探して停める。幸か不幸か船が飛んでいたところから島は近い場所にあり、それほど時間はかからなかった。
船が確実に止まったことを確認すると、セレスは船のエンジンを切り、外へ飛び出していく。操縦室から見えただけではどのくらい敵が居るのかは分からない。でも、自分がいった方がチェルカが無駄な傷を負わずに済む筈だ。ただ、それだけを考えて。
外に出て、助走もなしに地面を思い切り蹴り、跳ぶ。目指すはチェルカが戦っている上空。恐らく、一回の跳躍ではチェルカの元へ届かないから、一度近くの木を足場にしてもう一度跳ぶ。その時に勢いを殺してしまわなければきっと届く筈だ。
イメージ通りに木を足場にして空へと跳んでいくセレス。その威力により足場にされた木がへし折れてしまったのだが、そんなことはセレスは知らない。関係のない話だった。
跳んでくるセレスに気付いた性別不詳の一人がこちらへ向かってくる。そいつは天使のような真っ白な翼が生えていて、空を自由に飛べるようだった。だからこそ、セレスにいち早く気付き向かってきたのだろう。
性別不詳の先、やや上には時間を操作しながら三人を相手取っているチェルカが見える。そして、その後ろからチェルカを貫こうとしているドラゴン遣いも見えた。
「ッ、チェルカ!!」
思わず叫び、セレスは向かってきた性別不詳の攻撃を跳びながら身体を回転させることで避けつつ踵で思い切り蹴りながら足場にして更に跳び、チェルカの真後ろまでやって来る。そこでまた縦に一回転すると、チェルカを貫こうとしていたドラゴン遣いをドラゴンごと海めがけて蹴り落とした。
そこまではよかった。しかし、そこから先は足場がなかった。
空中での回転と先程の蹴りで勢いを失ったセレスは、そのまま空中にとどまることなど出来るわけもなく、海へ向かって重力に従い落ちていく。
その身体をふわりと掬い上げる腕があった。
「……ったく、なんで来ちゃったかなぁ……!」
苦々しい顔をしてチェルカは言う。どうやら心の底からセレスに参戦してほしくなかったようだ。
そんなチェルカに、セレスは口を尖らせながら「こんなところに一人で突っ込む奴の方が悪いんだよ」と言い返す。チェルカは反論しなかった。
「取り敢えずその島に逃げるよ。空中戦じゃ飛べない俺らは不利だ」
言ってチェルカはセレスを抱き抱えた状態で、どういう原理かは知らないが空中を歩き(走り)船を停めた島へと向かう。
「これどうなってるの?」
「空気抵抗の時間を弄ってるだけだよ。あとは重力による落下時間もかな。さ、下ろすよ」
「わかった」
チェルカのざっくりとした説明をどこまで理解したのか分からないが、セレスは頷きチェルカの腕から飛び降りる。そしてきれいに着地を決めると、森の方へ一気に走り出した。
森は着地地点からそう遠くはない。そして、森であれば木が邪魔になり空からの攻撃はある程度抑えることが出来る筈。流石に森ごと焼き尽くす手段にはでないだろう。そう考えての行動だ。
確かに、その考え方のお陰で空からの攻撃が無くなり、届かない範囲に敵がいるということは無くなったかもしれない。
だが、その行動がよかったとは決して言えなかった。
「ッ、うわわッ!?」
身の危険を感じたセレスが跳んだと同時に先程までいた場所が爆発し、その衝撃に煽られてセレスは転がった。それから息をつく間もなく水でできた槍が容赦なく降り注ぐ。セレスはそれをゴロゴロと地面を転がり最終的に跳んで体勢を建て直すことで回避することに成功したが、跳んだ後の着地地点が失敗していた。
「……いつの間に、囲まれちゃってたのかなー」
苦々しい顔でセレスは呟く。
周囲の木の影から顔を出したのは、セレスに対して敵意と悪意と殺意を思う存分ぶつけまくる魔術師と剣士達だった。その数は軽く十を越え、セレスが気づかないうちに囲まれていたと言うよりも、待ち伏せされていたポイントにまんまと来てしまったと言う方が正しそうだった。
チェルカの姿は見えない。きっとどこかでセレスと同じように囲まれてしまっているのだろう。
つまり、セレスはこれから気だるさの残る病み上がりの身体で、この四面楚歌を何とかしなければならないのだった。




