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目を覚ますと、知らない天井があった。自分が今眠っている場所も、いつものベッドよりずっとフカフカで気持ちいい。飛行船ではないことは確かなようだ、とセレスは起き上がらないまま辺りを見回した。すると、顔を右に傾けたときにチェルカの顔が間近に現れて飛び上がりそうになった。その時ベッドが揺れたのだが、チェルカは目を閉じたまま動かなかった。眠っているらしい。しかも、腕を枕にベッドへ突っ伏している状態で。
さて、どうしてこんな状況になっているのかとセレスは思考を巡らす。少女を探して走り回ったが、実はただの徒労だったというところまでは覚えている。そこから先がぷっつりと途絶えてしまっていた。今も尚襲い続ける頭痛と吐き気にも首をかしげざるを得ない。
「お、セレスが起きてるのじゃ」
考えても出てこない答えを探していると、爺言葉の少女の声が聞こえてきた。フィカイアだ。
フィカイアは起き上がろうとしないセレスの上に来るとにっこりと微笑む。否、ニヤニヤと何かを企んだような笑みを浮かべている。
「彼氏と二人でいるところを邪魔して悪かったかの?」
「かッ……!? そんなんじゃ、ない!! よ!?」
衝撃的な一言に、セレスは体調の悪さを一瞬忘れて飛び上がった。今度はこらえることもできず、ベッドは大きく揺れた。
「ふふふ、知ってるのじゃ。すでに記憶を見せてるのに、こんな冗談でそんなに驚くことかの?」
それとも、とフィカイアはニヤニヤしつつセレスの周囲を漂う。そして背後に回ると耳元でそっと囁いた。
「私から見れば、十分カップルみたいでお似合いじゃがの」
「……ッ!!」
無意識のうちに右手が動き、セレスは背後にいるフィカイアを思い切り殴ろうとした。しかし彼女は幽体だ。当然その手が当たることはなく、激しく壁に激突し痛みで顔が歪んだ。しかもその手は船に乗り込んできたチンピラのナイフによって貫かれた方の右手だ。脳まで突き抜ける激痛が上乗せされ、セレスは涙目になった。
「……なにを暴れてるんだい?」
その一連の騒ぎにより、騒ぎの原因の一人とも言えるチェルカが目を覚ましてしまう。その表情はどこか呆れたようだが、どこか楽しそうでもあった。寝起きだが機嫌は悪くなさそうだ。
そんなチェルカにセレスはう、と言葉に詰まる。まさか本人を相手に、貴方と私がカップルみたいだなんて話をしていましたよー、なんて言えるわけがない。まあ、言わずとも顔が赤くなっている時点であまり隠せていないのだが、自分の顔を鏡なしに見れるはずもないのでこれは仕方ないとしよう。
「まあ、いいや」遊ぶのはこのくらいにしておいて、話をしようとチェルカは切り替える。「体調はどう?」
まずはそこだった。本人は知らないが、セレスは倒れた身なのだ。心配しないわけがない。
「だから俺は水分補給だけはしとけって言ったんだけどね……君は熱中症になったんだよ。あんまり症状が改善してないところとか、その右手の傷がふさがってないところとかを見る限り、君は死なない限り常人と同等の回復力しかないのかな?」
セレスをみて冷静に分析するチェルカ。しかし、自分のことについての疑問を投げつけられてもセレスにはその答えがわからず首を傾げるしかなかった。不老不死になってからというものの、特に死んだことも派手な怪我をしたこともないのだ。更に、仮にチェルカの言う通りだったらどうなのかということも分からない。チェルカの意図が全く読めないでいた。
チェルカはそんなセレスに眉を下げてふわりと笑いかけると、優しくその頭に左手をおく。その突然の行動にセレスは思わず固まった。
「別に君の性能云々とかを言いたい訳じゃないんだけどね。もしそうなのだとしたら、もう少し自分の身体を大事にしようかって話だよ」
その言葉を二回ほど頭のなかで反芻させると、急に恥ずかしくなったのかセレスはチェルカの手を思い切り払った。その行為にチェルカは薄く笑いながら「傷つくなぁ」なんて言う。微塵も傷ついてなさそうだ。
「……やっぱり二人はカップルにしか見えないのじゃ」
チェルカが起きてからというものの、空間から弾き出されてしまった感のあるフィカイアが若干拗ねたように呟いた。それに反応したセレスが物凄い形相で睨んできたが、勿論そんなことで発言を撤回するフィカイアではない。
「まあまあ、遊んでないでさ、フィカイア。君は自分が気になってることを訊くんじゃなかったのかい?」
話がまた脱線して元に戻ってしまいかけてたので、チェルカがセレスを宥めながら軌道修正し、話を進める。
チェルカの言葉を聞いて思い出したと言わんばかりの表情をして手を叩くと、フィカイアは泳ぐように宙を移動してセレスの目の前に来た。そして、セレスの髪を指差して言う。
「その宝石について教えてほしいのじゃ」




