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ラブラドライト  作者: 影都 千虎
記憶は探すもの
31/77

09

 誘拐犯を捕まえるのにそれほどの労力はかからなかった。というか、最初の屋根を突き破り家を倒壊させながら放った蹴り一撃だけで誘拐犯の男はのびてしまったのである。一応、一般人相手なので当たり前と言えば当たり前の結果だ。

 むしろ、大変なのはそこからだった。

 誘拐犯はなんと少女たちを五人も誘拐し、この家に監禁していた。これがもう少し成長していてしっかりしている子達であれば解放して終わり、という手段を選んでもよかったのかもしれないが、目の前にいる少女たちはおよそ六歳程の幼さである。こんなところで勝手に解放できるわけがない。

 つまり、五人の少女たちを親の元へ送り届けなければならないと言うことだ。誘拐された恐怖で見知らぬ人間への警戒が最大になり、かつ混乱で正常な精神なのかどうかもわからない状況の少女を、だ。しかも、この場にいるのはセレス以外全員幽霊と来ている。幽霊の皆さんは少女たちに触れることができないので、送り届けることができない。

「…………ねえ、フィカイア」

 部屋の残骸のすみに寄って、恐怖と警戒を露にした表情でセレスを見上げる少女に目をやりつつ、セレスはフィカイアに訊ねた。

「私ね、今後一切ものをとっちゃいけないって言われてて、この前もこっぴどく怒られたばっかなんだけど――」

「知ってるのじゃ」

「……うん。じゃあ訊くけど、この場合は盗ってもいいんじゃないかな」

「……私は何も知らないのじゃ。彼女たちに起こったことも、全部」

 そう言ってセレスに背を向けたフィカイアに微笑みつつ「ありがとう」と小さな声で言うと、セレスは一歩少女たちに近づいた。すると警戒が一段と強くなり、肌に突き刺さるような痛ささえ感じる。その痛みは精神にじわじわとダメージを与えていくようだ。

「……痛いのは、嫌だなぁ……」

 ぽつりと漏らすように呟きながら、セレスは少女たちに近づく。部屋のすみによってしまったのが運のつきで、彼女たちは逃げられない。セレスの後ろに大量の幽霊たちが構えていることも要因だろう。もっとも、逃げたところで直ぐセレスに捕まってしまうのだが。

 突き刺さる警戒心をなるべく無視して、セレスはとうとう彼女たちに触れられるところまで来る。そこでセレスは膝をつき、座って震えてる彼女たちに目線を合わせるよう腰を曲げ、両の腕を広げて彼女たちを思いきり抱き締めた。彼女たちの恐怖が最高潮に達したのが直接肌で感じられる。

「大丈夫だから」

 五人全員をまとめて抱き締めるのは無理があったな、と苦笑しつつ、手前側の二人の顔を自分の両肩に乗せさせ、その後ろにいる二人の頭を撫で、自分の目の前に来た一人とおでこを合わせ、そっと囁く。

「もう、心配要らないし、家にも帰れるから」

 震える彼女たちにセレスは更に囁く。すると段々に彼女たちに張り巡らされていた緊張の糸がほぐれ、感情が溢れ出す。

 その溢れ出した感情から順に、セレスは五人の記憶の中へ少しだけ入った。そして、拐われた記憶、男の記憶、トラウマとなり得る部分、体に残るものすべての記憶をゆっくりと吸い出していく。同時に彼女たちの意識を奪ってしまうことになるが、誘拐の恐怖が今後も残り続けることを考えたら許容範囲だろう。怖いことはすべて忘れて、彼女たちお互いのことだけが残るように調整する。

 やがて記憶をすべて吸い出し、彼女たちの意識がなくなると、五人分の体重がすべてセレスにかかり倒れ込んだ。そして下敷きにされ、押し潰されそうになる。

「……フィカイア、助けて」

「……ちょっと憑依するのは許されるかの?」

「……わかったよ。自力で頑張るよ」

 困ったように首をかしげたフィカイアに深いため息が漏れた。

 自力で、と言いつつ、たった今彼女達から貰った記憶を魔力に変換して、彼女たちの身体を少しの間だけ浮かす。その間に身体を起こし、彼女たちの下から抜け出すと、セレスは一人をお姫様だっこした。他の四人は丁寧に地面に下ろし、「見てて」と言うと地面を強く蹴ってその場を離れる。勿論、向かう場所は抱き抱えた彼女の家だ。彼女の記憶を元に家を探す。

 家の前、彼女の両親の目の前に辿り着いたら、泣き崩れられる前に簡単に事情を説明し、直ぐに立ち去る。誘拐犯だったと勘違いされるのも厄介だったし、何より誰かの記憶にあまり残りたくなかった。

 そんなことを残りの四人分、同じことをして、また誘拐犯の家だった場所に戻ると、今度はこの町の警察まで走っていって、事情を説明し、誘拐犯の家だった場所を教える。流石に男を運ぶ力は無かったのだ。

 警察への引き渡しが終わり、幽霊たちも解散し、フィカイアと二人だけになるとセレスはがっくりと項垂れた。

「……椿ちゃん、居なかった……!!」

 そう、誘拐された少女の中に着物の少女は居なかったのだ。つまり、振り出しに戻ったのである。

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