08
フィカイアが町全体を見渡し、ぼやける部分と、怪しいと感じた場所をセレスが走って見に行く。そんな役割分担で二人は誘拐犯を探していた。しかし一向に誘拐犯が見つかる気配はない。
「むぅ……外にはいないってことなんじゃろうか……仕方無い。奥の手を使うのじゃ」
数十分ほどしても全く成果があげられないことを不満に思ったのか、フィカイアは頬を膨らませた。そして唐突に姿を消してしまった。
「……フィカイア?」
呼び掛けても返事はない。どうやらここから別の場所にいつの間にか移動してしまったらしい。幽霊ならではのフットワークなのだろうが、速すぎるにもほどがある。フィカイアの気配は特徴的であるため、セレスが探ればすぐに見つけて追うことができるのだが、セレスはそれを諦めた。
「速すぎるよ……」
呆れたようにセレスは呟いた。
フィカイアの気配は町全体の至るところに次から次へと移動している。その動きは瞬間移動のようで、同じく瞬間移動でも出来ない限り追い付くことは不可能だった。そして、セレスには瞬間移動が出来ない。ここに戻ってくるのを待つしかなさそうだ。
「ただいまなのじゃ!」
待つしかない、と思ったばかりだったが、フィカイアはすぐに戻ってきた。待つまでもない速さだった。
「何をして来たの?」
「ちょっとその辺で暇してる連中に協力を呼び掛けたのじゃ! これで町全体の情報がもっと早く手に入るし、見つけ次第誘拐犯を足止めすることも可能なのじゃ!」
どうだと言わんばかりにフィカイアは胸を張りどや顔をした。その姿は背丈や童顔も相まって、正しく小さな子供のようだ。
「暇してる連中?」
ふんぞり返っているフィカイアにセレスは突っ込みをいれずに気になった部分を訊ねる。この短時間で暇な人間をどうやって見つけたというのか。
その疑問には、考えようと思えばすぐに出てくるであろう答えが返ってきた。そう。彼女が何者であるのか考えればとてもシンプルなのだ。
「ここにいる幽霊のみんななのじゃ! 地縛霊以外はみんな動いてくれるって言ってたから百人力なのじゃ!」
一人の誘拐犯を探すため、幽霊たちが奮闘する光景など誰が想像しただろうか。しかも見つけ次第、セレスが到着するまで幽霊たちが足止めを担当するとは、どこのホラーだろうか。幼い少女を誘拐して、少女たちに恐怖心やトラウマを植え付けた報いのために、幽霊に襲われる恐怖とトラウマを植え付けるということなのだろうか。否、目の前の幽霊少女はそこまで考えて行動などしていないだろう。
フィカイアの行動のせいなのか、それとも暑さによる体調不良のせいなのかは分からないが、痛む頭をセレスは片手で抑えつつ今後どうするかを考える。椿は無事に見つかるだろうか。今も無事でいてくれるだろうか。見つかり次第、どうやってチェルカと連絡を取ろうか。
「あー……うん、いいや、面倒臭いや」
色々と考えた結果、面倒臭くなってセレスは考えるのをやめた。誘拐犯を捕まえたあとのことはその時に考えればいいだろう。今はとにかく、誘拐犯を見つけて捕まえることだけに集中したらいい。
「セレス! それっぽい男が見つかったのじゃ!」
頭を押さえたままのセレスにフィカイアが叫ぶように言う。その声に応じるように手を外すと、セレスはフィカイアにその男の位置を訊ねた。
「ええと……あそこで幽霊たちが噴き出してる建物なのじゃ!」
説明に困ったフィカイアはそう言ってある一点を指差した。その先にある小さな家は、フィカイアの言う通り幽霊やら何やらがまとわりついていて、そこだけ霊界のような雰囲気を醸し出していた。
「あはは、近付いたら仲間にされちゃいそうだね」
笑いながら、セレスはその建物だけに魔法を使い、記憶を探る。すると少女を拐う快感等の記憶が流れ込んできて若干笑えなくなりつつ、「ビンゴ」と呟いて立っていた屋根を強く蹴り跳び出した。
空中へ身体を投げ出す解放感。それを一瞬だけ味わった後、近くの屋根へ着地し一気に駆け出す。屋根が途切れればまた跳び、目的の家まで一直線に向かう。
そうしている間に勢いはどんどん増していき、セレスにも制御不能なほどになってくる。
「フィカイア」止まらない足をさらに加速させ、力を込めつつセレスは静かに言った。「このまま突っ込むから誘拐犯以外保護しといて」
聞こえてるかどうか、そもそもフィカイアが隣に居るかどうかすら分からない。しかし、きっと彼女はお願いを聞いてくれるだろうとどこかで信じて、セレスは小さな家を破壊し尽くす勢いで足から突っ込んだのだった。
そして、勿論その足は狙い通り誘拐犯の顔面に直撃し、勢いよく誘拐犯をぶっ飛ばして地面に叩きつけたのだった。




