05
昼飯を食べ終えると、梛のために手分けをして椿を探すことになった。チェルカとしては、本当はあまり別行動をとりたかったのだが、セレスがそうしたいと言うのだから仕方ない。町が入り組んだ構造をしているため地面を歩くのが面倒くさいらしく、屋根の上を走りたいらしい。心配ではあったが、流石にそれに同行しようという気は起こらなかった。
しかし一人で知らない町を歩くのは不安だ。さっきだって迷子になっている。結果、仕方ないので、チェルカは梛と行動を共にすることにした。あまり変態とは一緒にいたくなかったようで嫌そうな顔をしていたが。
「……あっついなぁ……」
屋根の上、建物が重なり日陰となった部分へ避難しつつ、セレスは町を見渡して呟いた。こんな暑さは初めての経験だ。普段の服装だったら、とっくに頭が湯だってしまっていただろう。そう考えると、この町を歩くのに適した新しい服を買ってくれたスイレンには感謝してもしきれない。
「さて、どうやって探そうかな」
そんなスイレンの為にも、椿という少女を探そう。セレスはそう考え、緩く町の記憶を視ていくことにした。暑さのせいで大分体力を持っていかれているため、しっかりと見ることはできない。このあと少女を追いかけて走るかもしれないことを考えると、ここは極力節約していくしかなかった。
「うー……ぜんっぜんわかんないよ……」
力を緩く使ったせいで入ってくる記憶はとてもぼやけたものであり、何がなんだか分かったものではない。ぼやけたものの中でも赤い着物の少女ぐらい見つかるだろうなんて淡い期待を抱いていたのだが、残念ながらぼやけすぎて色んな赤いものがごちゃごちゃになり、着物かどうかすら判別できなかった。第一、赤い服を着た人が多すぎるのだ。
「…………走ろう」
ため息をひとつつくと、セレスは嘆くようにいい屋根を強く蹴り走り出した。中心部から走り回って赤い着物を探す、そんな地道な手段に出ることにしたのだ。だったら屋根でなくてもいいのではないかと思うが、高い場所の方が視界が広がるためこちらの方が効率がいいと考えたようだ。
走り、跳び、屋根から屋根へ飛び移り、時に道を挟んだ向かいの建物の屋根までへの大ジャンプも軽くこなして見せるセレス。だが、暑さが確実にその体力を奪っていた。いつもなら落ちるはずのない速度が徐々に落ち、疲労が見え始めている。
「……っは、これは厄介だよ……」
日陰を見つけ足を止めると、セレスはそこで荒い息を吐き、苦々しく笑った。汗が止まらない。体力の回復なんて到底見込めなさそうだ。むしろどんどん体力を奪われている気さえする。
「休憩は意味ない、か」
だったら早く赤い着物の少女を探してしまおう。
セレスは再び走り出した。
そして、その足はすぐに止められた。
突然放たれた強い殺気にセレスは思わず飛び退き、バック転をして距離をとった。相手の姿は見えない。何がいるかもわからない。屋根の上だから、人がいたら多少遠くても見えるはずなのだが。
全身に気を張り巡らせつつ相手の出方を伺う。これが杞憂に終わればいいのだが、残念ながら殺気は止まらない。むしろ強くなっている。
「――う!?」
油断していたなんてことは有り得ないのに、セレスはいつの間にか相手の攻撃を受けていた。右肩に殴られたような痛みが走り、バランスを崩して左に倒れそうになる。
それをなんとか左足を踏み込んで堪えると、セレスは自分の右側に腰の捻りを加えた拳を放った。記憶の塊をそこに感じたので、それが相手だと考えたのだ。しかし、その拳は空を切る。
だが、予想通り相手はいた。
「……!? ……ゴースト?」
セレスの目の前には長い髪の少女がいた。
突き出された拳は少女を確かに捉えている。否、それどころか突き抜けている。すり抜けていると、いった方が正しいだろうか。
実態のない相手。しかしそれは確かに存在していて、こちらに攻撃することができる。ゴーストという言葉がしっくり来た。
「…………かえして」
「え?」
幽霊少女はその虚ろな目をセレスに向けて、痛いほどの殺気を放ちながら、低く恨むように言う。
「……かえして」
「何を?」
先程よりも強く言う少女に、セレスは思わず首をかしげた。何かをとった記憶はない。記憶を奪った可能性もなくはないが、生憎目の前の少女の記憶を奪ったことはなかった。初対面なのだから当たり前だ。
「かえしてって、言ってる!!」
首をかしげたセレスについに幽霊少女は激昂した。それと同時に鈍くて重い一撃がセレスの鳩尾に入り、動いた様子はないのにどうして? という思いと共にセレスは吹き飛ばされた。




