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チェルカが微妙な視線を向けていることを知ってか知らないでか、梛は「一先ず腹ごしらえをしましょうか」なんて言って微笑む。「この暑さでは、ちゃんと食べないとすぐに倒れてしまいますから」とも言った。その言葉に、チェルカは隣でぐったりしているセレスを見てなるほどと思う。少しでも体力を回復させてあげたいところだ。
チェルカとセレスの方が先に注文していたため、勿論二人の料理が先に運ばれてきた。セレスの前には冷たいつけ麺が、チェルカの前には冷麺が置かれる。どちらも見るからに涼しそうな料理で、この町の名物らしいことがわかった。
セレスが慣れない箸で慣れない麺をつつき、苦戦しているのを微笑ましく見ていると、そのうち梛にも料理が運ばれてくる。それは、チェルカと同じ冷麺であったが、その見た目はチェルカのものとは全く違った。
見るからに赤いスープ。何かを練り込んだらしい真っ赤な麺。恐らく唐辛子と見られる赤い具材。挽き肉とおぼしき物体が混ざった赤黒いソースのような塊。皿にぶちまけられた一面の赤。赤。赤。赤。一目見てその赤の刺激と危険さを感じさせる一皿はどう考えても常人が頼むようなものではなかった。
「……えっと、それは」
「これですか? 貴方と同じ冷麺の辛さを究極にしてもらったものに、コチュジャンをトッピングしてもらったものですよ。辛くて美味しいんです。食べますか?」
「嫌だよ」
露骨に嫌そうな顔をしたチェルカを見て梛は遠慮なさらなくても、と言った。遠慮なんてものじゃないとチェルカが返すと、ふふふと笑う。それから麺を一口啜った。尚、表情が微笑から変化することはない。
「辛くないの?」
「このレベルになると辛い、というよりは痛い、の方が的確ですよ」
「……痛くないの?」
「勿論、痛いですよ。それが癖になるし心地良いんです」
その言葉にチェルカは言葉を失う。どうやら変態もマゾヒストの方だったらしい。いや、しかし少女に首輪を付けて飼っているような男だ。サディストの方かもしれない。実際のところどうなのだろうか? チェルカの脳内で大混乱が起きていた。
「興味が出てきましたか?」
「いいや全く」
「それはそれは、残念です。他人が辛さに悶えている姿は見ていて楽しいのですがね」
どっちだ!?
チェルカは余計混乱したのだった。
と、ここでチェルカはずっと黙ったままのセレスが気になり、そちらに目を向ける。料理が来てから今まで、それなりの時間があったはずなのだが、つけ麺はほとんど減っていなかった。
「……大丈夫? 麺は嫌い?」
チェルカが心配そうに声をかけるとセレスはゆるゆると首を振った。麺が嫌いということではないらしいことに一先ず安堵するが、逆に不安を煽る回答でもあった。
「……なんか、食べる気しない……」
ぐったりとした様子で言うセレス。慣れない暑さにかなり弱らされてしまったらしい。
「困ったな……じゃあせめて、飲み物だけは飲もうか」
そんなセレスにチェルカは食べることを強要出来るはずもなく、トロピカルジュースをひとつ注文してセレスに飲ませるのだった。




