03
スイレンと別れ食堂にたどり着いたチェルカとセレスは、スイレンの『お願い』に頭を抱えていた。
チェルカが道案内をしてくれたこと、セレスに服を買ってくれたことへのお礼をしようとしたら、これは華麗に断られてしまった。そして、その代わりに人を探して伝言をお願いされてしまったのだ。
『梛って男を探しているの。変な格好をしてるから、変に目立つのがいたらそれだと思っていいわ。刀も持ってたかしら?
勝手にフラフラ歩くからはぐれちゃって……もし会ったら夜、中央の噴水で待ってるわって伝えてくれればいいから』
とは、スイレンの言葉である。
二人とも初めて来た町で人探しなんて至難の技だ。しかも相手は全く知らない人物と来ている。挙げ句の果てに待ち合わせ場所として指定された噴水すらわからない始末だ。
しかし悩んでいても仕方がない。一先ず腹ごしらえをしつつ、店で涼みながらどうするか考えようという結論に至り二人は食堂に入り各々注文をした。その直後、二人の頭を抱えさせる出来事が起きたのだった。
糸目が特徴的な中性的で柔和な顔立ち。黒くて襟足だけ伸ばした髪の毛は一つに縛り後ろに垂らしている。身長はやや高くチェルカと同等くらいで、体つきは細いが腕から確かな筋肉を感じる。そんな男が二人の隣の席に座った。
問題なのはその男の格好で、男は着物に袴……所謂和服に身を包んでいた。この辺ではまず見ない格好であり、勿論食堂の中にもそんな格好をした人物はこの男しかいないため変に目立つ。それなのに、男は腰に刀を下げており、更に目立っていた。
そして、その特異的な部分が、スイレンが言っていた梛という男の特徴と完全に一致していることに気付くのにそう時間はかからなかった。
「えっと……梛、さん?」
「ん? ええ……確かに私は梛ですが、貴方はどちら様ですか?」
戸惑いつつもチェルカが話し掛けると、男は困惑した様子で答えた。しかしまあ、突然知らない男に話し掛けられたら困惑するのも無理はない。そこでチェルカはスイレンのことについて説明しつつ、伝言を預かっていることを伝えることにしたのだった。
「ああ、そういうことでしたか」スイレンの名を聞くと梛の表情が一気に柔らかくなった。「それはありがとうございました。……しかし、困りましたねぇ」
困りました、と言う割には梛の表情は大して困っているようには見えない。チェルカに話し掛けられたときの方が困っていただろう。今はどちらかと言えば楽しんでいるように見える。一方で、チェルカには何か嫌な予感がしていた。
「私は今ペットを探していまして。そのペットが見つからない限り彼女との合流は出来ないのですよ……だから、彼女に断っといていただけますか? 或いは、私のペットを探してはくれませんか?」
ああやっぱり、とチェルカは心のどこかでため息をついた。それと同時に、これを受ける義理はないと気づいていたのだが、断る理由もないことに気づいてしまった。そしてそれはセレスにも伝わったらしく、二人して頭を抱えるはめになったのである。
「……ふふ、適当に時間がないからとかそんな理由で断らない辺り、貴殿方が相当時間をもて余しているように見える」
ありがたいことです、と頭を抱えた二人を見て梛はふわりと笑った。
そう、時間はあるのだ。それも永遠に続くと思われるほど途方もない時間が。腐ってしまうほどに。
「……わかったよ。それで、そのペットの特徴は?」
断りそびれてしまったようだ、と諦めたチェルカは仕方なくペット探しの方を引き受けることにした。見つかるという確証は無いが、スイレンに断りの伝言をするというのはなんだか気が引けてしまったのだ。お人好しである。
「私のペットは女の子で、『椿』という名前をつけています。赤い首輪をつけているので、見つければすぐにわかるかと……静かで、基本的に大人しい子ですよ」
梛の説明をもとに、チェルカはペットの想像を膨らませていく。が、次の一言でその想像は一気にぶち壊された。
「あとはそうですね、彼女は赤い着物を着ていますから目立ちますよ、きっと。帯は黄色です」
着物を着ている。それが示す『椿』の姿とは。
「……ねえ、確認だけど、その椿ちゃんって人間、だったりする?」
チェルカは若干声を震わせて尋ねた。
人間の女の子で、赤い着物を来ているのに赤い首輪をしていて、そしてペット扱い。もしそうなのだとしたら。
「ええ、勿論そうですよ」
「…………」
あっさりと認められ、チェルカはとんでもない変態と関わってしまったのかもしれないということを思い知らされるのだった。




