02
彼女は名をスイレンと名乗り、見た目の話し掛けづらさとは打って変わって、とても気さくに会話に応じた。お陰で、大通りへの道がなかなか楽しいものになった。会話している時間が案外長かったため、二人がかなり遠くまで来てしまっていたことが判明したのは笑い話としておこう。
「二人はこの町に来るの初めてかしら?」
どこか楽しそうにスイレンが問うと、チェルカは素直に頷いた。それを見て「そうよね」とスイレンは更に笑う。
「だって二人とも、この町に来てるっていうのにそんなに暑そうな格好をしているんだもの。私みたいに慣れているならまだしも、慣れていないんでしょう? 随分と暑そうだわ」
「そうだね。暑そうってよりも、溶けそうって感じかもしれないけど」
チェルカは苦笑して言った。隣を見れば、うんざりしつつも頑張って歩き、今にも暑さにやられてしまいそうな憐れな少女が目に入る。「大丈夫?」と声をかけると無言の頷きが返ってきた。若干意地になっているような気がしなくもない。チェルカにはどうしてあげることも出来ないのだが。
「二人は何処から来たのかしら?」
「何処からって訳でもないんだけど」言いながらチェルカは周囲の風景を見渡したが、目当ての山が見えなかったため断念した。「『宝石の山』を越えてきたんだよ。山にもちょっと入ってた」
「ああ、なら納得だわ。『宝石の山』ってどういうわけか涼しいのよね。だからか、どうしてもこの『夏の町』に来ると暑さのギャップにやられちゃう……ちょっと待っててくれるかしら?」
スイレンはそう言うと、目の前にあった店に突然消えていってしまった。まだ大通りに出ていないため、下手に動くこともできない二人はスイレンの言葉通りその場で待つことになる。そんな理由がなくとも、待てと言われたのだから待つのだが。
「お待たせ。セレスちゃん、ちょっとこっちに来てくれるかしら? チェルカ君はもう少しここで待ってて」
それから数分でスイレンは店から出ると、暑さでボーッとしているセレスを強制的に店の中へ引っ張った。
さらにそこから数分待つと、セレスとスイレンはようやく出てきた。太陽が燦々と照る中外で待機させられていたので、もうチェルカの頭は湯立ってしまいそうである。しかし、店から出てきたセレスがそんなチェルカから暑さを消し飛ばすような威力を持っていた。
白と水色のグラデーションが綺麗なふんわりとしたデザインの見た目も涼しげなキャミワンピに、恐らくそれとセットなのであろう同じ色をしたキャペリンハット。普段のアクティブな印象とは打って変わった大人しそうな雰囲気はとても新鮮で、チェルカは思わず目を惹かれた。既に寝るときの為に白いキャミワンピをプレゼントしており、それを着た姿はあれから毎日見ているのだが、同じキャミワンピと言えどデザインは全く違っているため印象が全く違ったのだ。
「どう? 気休めだけど、少しは違うんじゃないかしら」
「……風通しはいいけど暑いのは変わらなかったよ……でも、ありがとう」
セレスはそう言ってスイレンに少しだけ微笑んだ。それを見たチェルカがどういうわけかセレスから視線をそらしてしまう。
「何? その反応は」
「い、いや別に……」
「……変なの」
そう言って首をかしげてからセレスは頬に手の甲を当てた。汗を拭おうとしたのか、手の甲が冷たくて気持ちよかったのかは分からない。丁度その時視線を戻したチェルカが崩れ落ちそうになる程のものであったのは確かである。本人は「暑さにやられたかもしれない」と誤魔化したけれど。
慣れない暑さでセレスの顔は少し火照り、赤くなっている。先程まで風通しの悪い服装をしていたため、蒸し暑かったのかもしれない。それに加えて、突然の露出の高いキャミワンピへの着替えだ。キャミワンピの可愛さと、露出と汗による色気、それから頬に手を当てる仕草の可愛さでチェルカはノックアウトされてしまったのでたる。
そう、何度も言うようだが、彼だって男なのだ。




