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ラブラドライト  作者: 影都 千虎
記憶は綺麗なもの
20/77

08

 チェルカが目を覚ますと、そこには一面の水晶に覆われた世界が広がっていた。

「う……お、お!?」

 予想だにしていなかった視界に、チェルカは自分が今まで気を失っていたことも忘れて思わず飛び起きた。それから辺りを見回し、景色を目に焼き付ける。

「……水晶の、洞窟……」

 ため息と共にそんな声が漏れる。その光景は水晶の洞窟と呼ぶに相応しく、青白い光を放って幻想的な空間を作り上げていた。きっと、今後何百年生きようと、二度とこの場所以上に青白く幻想的な景色を見ることはできないだろう。彼が今まで何百年と生きて見てこれなかったのだから、きっとそうだ。

 しばらくの間景色にみとれ、ようやく冷静さを取り戻すと、チェルカは自分が気絶させられていたということを思い出した。そして、確か自分が気絶したとき、全身を殴打されたはずだと思い直す。しかし今は体のどこにもその痛みは残っていなかった。気を失うくらい殴られたのだから、痛みぐらい残っていていいはずなのに。痛みだけではない。傷や痣も何一つ残っていなかった。これは明らかに不自然である。

「……いくら俺が巻き戻るからって、すぐには消えないよなぁ……?」

 頭を捻り、チェルカはポツリと呟く。しかしどれだけ頭を捻ろうが、答えは出てきそうになかった。

 チェルカの不老不死の仕組みは『巻き戻し』だ。何年生きようと、何年重ねようと、全てが巻き戻ってしまう。戻されてしまうせいでゴールにたどり着くことができず、それどころか永遠にその場から動くことができないから、彼は不老不死なのだった。あるとき、瀕死のところを自力で何とかしようとしたところ、魔力が暴走してしまったのが原因であると本人は考えているようであるが、確証はなかった。

 全てが巻き戻るのだから、当然傷を負っても勝手に元に戻る。恐らく、首を切られても少し時間をかければ元通りになるだろう。木っ端微塵にされてしまうとどのくらい巻き戻すのに時間がかかるか分からないが。

 しかし、そんな回復力を持っていてもこの回復の速さには流石に疑問を持たざるを得なかった。本当に、回復したのだろうか? と新たなる発想まで浮かんできてしまう程度には不自然だった。

「あー、やっと起きたよ」

 頭を捻り続けるチェルカにそんな声が掛けられた。チェルカを眠らせた張本人の声だ。自分でやったことだというのに随分な物言いである。

「君は、俺に何をした? あの一瞬で俺を袋叩きにしたよね?」

 セレスの言葉はこの際無視をして、チェルカは率直な疑問をそのままぶつけた。そう、まずは『何が起きたのか』が重要なのだ。それに対するセレスの答えは全く予想外のものだった。

「殴ってないよ?」

「は?」

「私は、頭に触っただけだよ」

 その言葉のお陰でチェルカの脳内は大パニックだった。じゃあ、あの全身の痛みはなんだったのか。ただの勘違いだったのか。そんな馬鹿な。なんて考えが脳内を駆け巡る。

「んーと、私は記憶を操れるんだよ」

 そんな混乱しまくりなチェルカを見てセレスはやや困ったように笑いながら言った。

「それは知ってる」

「知らないよ。だって解ってないんだもん。記憶って、過去に感じた物も全部含まれるんだよ。匂い、味、音、光景、それから痛み。私はただ、記憶の中にあった痛みを再生しただけなんだよ」

 そう言ってセレスは再びチェルカの頭に触れた。すると、数日前に食べたパンナコッタの味と食感が口の中に広がり、チェルカは目を見開いた。

「こういうこと」

 セレスはそんなチェルカの反応を見て満足げに言った。随分と楽しそうだ。

「へぇ……じゃあ、こんな能力あるんだったら、俺に調子に乗らせることもなかったんじゃない? 性格悪いよ」

「性格が悪い訳じゃないんだよ。私だって出来ることなら最初からそうしたかったよ。ただ、これは相手の頭に触らなきゃいけないし、やる前に相手の記憶を解析しなきゃいけないんだよ。時間がかかるから、リオに時間稼ぎをお願いしてたんだし」

「なるほどね」

 チェルカは納得して見せたが、決して『性格悪い』を撤回しようとはしなかった。記憶を読み込み、再生するなんてエグい反則的な技を使う時点で十分性格が悪いと言いたいのだろう。

「まあいいよ」セレスは自分の話は終わったと言わんばかりにそう締め括り、リオに向き合った。「チェルカも起きたんだし、本題に入らせてよ」

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