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ラブラドライト  作者: 影都 千虎
記憶は綺麗なもの
19/77

07

 リオの要望により、三人の戦闘が始まった。決してセレスとチェルカが組んだわけではなく、三人が三人とも敵同士というルールだ。そうでなければ、リオが圧倒的に不利になってしまうためである。このルールはチェルカとはまだ一度もちゃんと戦ったことのなかったセレスにとって、いい機会であった。と、本人は感じていた。

 チェルカに蹴りを放とうとしたリオの足が唐突に止まった。チェルカの時間固定だ。だが、その後ろからやって来たセレスにチェルカが気をとられた瞬間、時間固定は解けリオの足は動き出した。そのワンテンポ遅らされた(自分でやったものだが)蹴りを、チェルカはギリギリのところで回避する。

「うん。固定されても気を散らせれば解けるんだね。だったらそこまで怖くないや」

 リオの蹴りに巻き込まれないよう宙返りをして距離をとったセレスは、体制を整えつつそんなことを言った。その考察に、チェルカは心底嫌そうな顔をしつつ抗議する。

「ねえ、さっきから俺が集中砲火食らってるんだけど?」

「当たり前だよ。時間を操れるなんて厄介すぎるんだよ」

「やりにくいねぇ……」

 なんて会話を呑気にしていれば、リオの拳が飛んでくる。会話に気をとられて反応が若干遅れてしまったため、流石に避けることはできない。チェルカはある程度のダメージを想定しつつその拳を右手で捕まえた。

「はは……捕まえた」

 ビリビリと痺れ、痛みを訴える右手に苦い笑みを溢しつつも、あくまで余裕を装いつつチェルカはそう言った。すると嫌な予感がしたのかリオの背筋がぞわりと粟立つ。

 それからリオの拳を捕まえたまま、今度は後ろから奇襲を仕掛けてきたセレスの回し蹴りを左腕だけで受け止めるチェルカ。腕が折れそうな程の衝撃に思わず声が漏れそうになったが、唇を噛んでなんとか堪えることが出来た。

 そして次の瞬間、セレスとリオは仲良く投げ出され、地面に背中を強打していた。

「んッ、ぇ!?」

 自分の身に何が起きたのか解らず、背中の痛みに顔をしかめつつ目を白黒させるセレス。リオも同じような表情を浮かべており、チェルカはそれを見て少しだけ満足そうな顔をした。

「対策考えるって言われてまた集中砲火されても困るからネタバレしてあげるよ。俺の能力は、対象者から俺に触ってくれないと発動できないんだ。つまり、攻撃を肉弾戦で必ず一撃は貰わないといけないってことね」

 使い勝手が中々悪いんだよね。とチェルカはため息を漏らした。

 しかし、逆に言えば一撃をもらったあとは時間を止め放題ということである。集中を散らされてしまえば解けてしまうという欠点があるものの、ほぼ彼の独壇場にすることができる。そしてたった今、その独壇場は完成したのだった。

「時間破りなんてバカな真似は流石の君たちでも出来ないよね?」

 チェルカのそんな声が聞こえると、立ち上がった筈のセレスとリオが再び地面に寝かされている。時間を止めているのがどれくらいの長さなのかは分からないが、セレスたちにとっては一瞬の出来事なので、攻撃を受ける度に驚かざるを得ない。いつの間に、という反応を嫌でもしてしまう。

「むー……ちょっとこの展開は気に食わないよ」

 自分が絶対的な状態になったことで、やや調子に乗り始めているチェルカを睨みつつ、セレスは不満げな声を出した。それにリオが「リオもやだー」と賛同する。

「んー……リオ、手伝ってほしいんだよ」

 少し考えた後、セレスはそう声をかけた。勿論、その考えている間にもチェルカにやりたい放題にされている。二人の苛立ちは着実に溜まっていた。

「わかったー!」

 リオはセレスの考えを一言も聞かず、元気いっぱいに返事をする。「聞かないの?」とセレスが訪ねると、「リオが注意を引けばいいんでしょー?」という返事がきた。その通りだった。

「頑張って」

「頑張るー!」

 二人は短く言葉を交わすと、二手に別れて動き出した。リオは正面からチェルカに突っ込み、セレスは高く跳んで二人の視界から消える。

 ここからセレスがどう動くかはリオにも分からない。もしかしたら自分も一緒に攻撃されるかもしれない。そんな可能性を抱えつつも、リオはそんなものを一切気にせず、セレスを信じてチェルカに立ち向かうのだった。

 何故かチェルカが敵という構図が出来上がっている。リオが不利にならないように、というルールはなんだったのだろうか。

「流石に興醒めだから全身固定なんて技には出ないけどさ、君たちは何を企んでるんだい?」

「リオは何も知らないよー」

 時間が止まった一瞬のうちに地面に叩きつけられるというのを何度繰り返したところで立ち上がってくるリオに、チェルカは呆れたように言った。『何も知らない』と言いながらチェルカに拳や蹴りを当てようと何度も挑んでくるリオはとても楽しそうな表情を浮かべていて、自分が勝てるという確信があるにも関わらずチェルカには恐怖があった。結局、何事も楽しめた奴が一番強いのだ。自分がそういうタイプだからこそ、その怖さを彼は一番よく理解している。

「楽しい?」

「楽しいよー!」

「俺に一撃も当てられなくても?」

「これから当てるんだ」

 よー! と元気よく言おうとしたところでまた地面に寝かされる。これで何度目だろうか。だが、今度立ち上がるときのリオは今までとは明らかに違った。

「お待たせ」

 リオがニヤリと笑う。チェルカの後ろから、ずっと視界から消えていたセレスの声が聞こえた。そして、チェルカはいつの間にかセレスに後ろから頭を掴まれていた。

「私だって、それなりに強いことは出来るんだよ」

 意地を張っているようなセレスの声。次の瞬間、チェルカは膝から崩れ落ちるように倒れ込み、全身を殴打されたような痛みを覚えながら気を失ったのだった。

 気を失ってしまったのだから勿論、その後のセレスの「あ、やり過ぎちゃった」という全く可愛くない悪魔のような呟きは聞こえていない。

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