06
「水晶を取りに来る悪者ってどういうことかな?」
その『悪者』と判断されてしまわぬよう言葉選びに気を付けつつチェルカは尋ねた。ちなみに、勿論洞窟の中へはまだ入っていない。外で地べたに座り三人は話している。
「んー、なんか水晶を売って金稼ぎしようとしてるんだよー。リオはここの水晶をそういう奴から守らなきゃいけないんだよー」
「守らなきゃいけない?」
「そー、約束したんだー」
「誰と?」
元気よくテンポよく答え続けてくれていたリオだったが、『誰』と聞いた瞬間に一気に顔を曇らせた。言葉も詰まり、その問いに対する返しが中々出てこない。
「誰……だれ……だれ……」
暗い顔で呟くリオ。思い出そうと頑張っているようだが、全く思い出せなさそうだった。
「忘れちゃったの?」
「うー……でも、守らなきゃいけないのは確かなんだよー……」
そんなリオの顔を覗き込むようにセレスが問うと、困ったようにリオは言うのだった。そんなリオにセレスは少しだけ親近感を覚えてしまう。何も覚えていないけれど、やらなければならない気がするという感覚は彼女にとって身に覚えがありすぎるものなのだから。
「おねーさんとおにーさんは、水晶を取りに来た悪者ー?」
誰との約束だったのかを思い出すのを諦めたリオは純粋な瞳で首を傾けつつ二人に問う。二人の答えは勿論ノーだった。
「正直、お金なんて余るほどあるんだよね。武器屋にある一番高い装備一式を二人分揃えられるぐらいには持ってるはずだよ」
なんてチェルカが言うと、一先ず金目当てではないというところは納得してくれたようだった。こんな土地に住んでいても金銭感覚はあるらしい。驚いた顔がそれを物語っていた。
「じゃー、何しにここにー?」
「観光」
「えっ?」
チェルカの返答に驚いたのはセレスである。確かに水晶の洞窟は見てみたかったが、そもそもここに来たのは『獣人の宝玉』を探すためではなかったのだろうか。そして目の前にいる少年は明らかに獣人だ。訊いてみれば、宝玉そのものは無かったとしてもその情報ぐらいは得られるのではないだろうか。目がそんなことを訴えている。しかしこうは考えなかったのだろうか。『宝玉が欲しい』なんて言ってしまったら、折角金目当てじゃないと弁解したばかりなのに疑われることになってしまうと。
そして、喋り方からは予測できない程度にはリオは鋭い少年だった。
「おねーさんがそれだけじゃないってー。ねえ、おにーさん? 嘘つきは泥棒の始まりなんだってリオは聞いたよー」
実際セレスは泥棒だよ、と心の中で毒づきつつ、チェルカはリオの言葉に小さくため息をついた。それからセレスに「順を追って大体のことを話すよ」と拒否を認めない態度で伝えつつ話を始めた。自分のこと、セレスのこと、不死のこと。そして『獣人の宝玉』についての噂話。あくまで自分たちは宝玉が欲しいのではなく、噂の真偽を確かめたいのだということを強調して、嘘偽りなくリオに話した。これで『悪者』だと判断されてしまったら、その時は戦おうと軽く準備をしながら。
しかしそんな心配は杞憂に終わる。
リオはチェルカが話したことを信じてくれたらしく、「それのことかは分からないけど、宝玉だったら洞窟の奥にあるよー」と言うのだった。
「俺たちに見せてくれるのかい?」
「いいよー」
軽い調子で実にあっさりとリオは承諾した。これにはチェルカもセレスも思わず拍子抜けしてしまう。宝というぐらいだから、もっと色々とあると思ったのだ。だから、少ししてから「あー、でもその前にさー」と付け加えられても逆に安心してしまったのだった。
「不死ってことは強いんでしょー? だったら、リオとちょっと遊んでよー」
ここに来るの弱いのばっかだったから暇なんだよーと中々いい笑顔でリオは言った。その瞬間、セレスとチェルカはリオの評価を強い獣人の子から脳筋戦闘バカに切り替えたのだった。




