04
チンピラたちを捨てた場所からやや移動すると、チェルカは「到着だよ」とセレスに言った。甲板に出てみると、一面の虹色が見えた。それはチンピラたちを捨てた場所よりも鮮やかで、とても美しい光景だった。
「これが、『宝石の山』?」
「そう。山の殆どが鉱物で出来てるらしいんだよね。どうしてこうなったのかは分からないけど。で、この山の中に水晶で埋め尽くされた洞窟があるらしいよ」
「へぇ……」
手すりにつかまり、やや身を乗り出しながら感嘆の声をあげるセレス。『獣人の宝玉』を探しにここに来たのだが、もしここに宝玉も獣人もそれに関する情報が無かったとしても、この景色を見れたのだから十分なのかもしれないと少しだけ思うのだった。たとえ何百年生きていようと、世界の全てを知り尽くしているわけではないのだ。むしろ、知らないことが多くあるからこそ、新たな発見にこうして純粋に喜ぶことが出来るのだった。表面にはそれを全く出していないけれど。
「取り敢えず、降りて『水晶の洞窟』だけでも見てこようか。獣人を探すのはそのあとでもいいだろう?」
「いいけど、なんで?」
「純粋に俺が見てみたいんだよ」
どうやらチェルカもセレスと同じようだ。この二人なら、そのうち旅の目的が『セレスの呪いを解くこと』ではなく、『不死であることを最大限生かした観光』に変わってしまう可能性が無くもなかった。
飛行船を降りると二人は虹色の大地を歩く。チェルカの虹のような髪色もここでなら自然に見える気がした。気がするだけだが。そしてセレスの黒と銀のグラデーションはどうやったってここでも不自然だった。
「うん、歩きづらいね」
どんなに綺麗だろうと、結局は石だ。全く整備のなされていない岩場であることに変わりはない。歩きながら、セレスはその事実を改めて知らされたように言った。それに対し、チェルカは軽い様子でこう返す。
「そりゃあそうさ。常人だったらこんなところ普通来ないよ。中々険しい環境なんだからね」
例えば。そう言ってチェルカは立ち止まった。二人の目の前には虹色の岩壁が立ちはだかっていた。
「この山を探索するんだったら、この程度の壁は余裕で越えられなきゃいけないんだよね。命綱無しで」
「必要ある?」
越えなきゃいけない、と聞くなりセレスは岩壁に手をかけた。そしてひょいひょいと登っていく。
「いや、まあ。だから俺たちだったら楽勝だねって話なんだけどさ」
既に壁を半分ほど進んだセレスを見上げると、チェルカは呆れた様子でため息をついた。それから、「身軽なのはいいけどスカートの中身は少しぐらい気にかけたらどうなのか」という思いを心のなかに仕舞いつつ、セレスの後に続くのだった。勿論、セレスのスカートの中身が見えてしまわないよう注意を払いながら。
何百年と生きていようと、チェルカは男だしセレスは女なのである。
それから幾つか壁を登ったり、逆に飛び降りたりということを繰り返すと二人はようやく洞窟の入り口に辿り着いた。決してここまで苦労することはなかったのだが、飛行船を止めた場所から大分動いたことにセレスは不満を感じているようである。
「絶対最短距離だったらこんな回り道しなかった」
「仕方無いだろ? 俺だって洞窟の場所を知らなかったんだから」
「だったらせめて、飛行船で上から位置ぐらい知っとけば良かったじゃん……」
セレスの言う通りである。飛行船に乗ってるときに思い付かなかったのだろうか。思い付かなかったからこんな険しい道を突き進むことになったのだけれど。
「まあ、いいじゃん」チェルカはそう言ってセレスの不満を軽く受け流す。「取り敢えず中入ってみようよ」
水晶で埋め尽くされた洞窟とは一体どんなものなのだろうか。なんて若干期待を膨らませつつチェルカは洞窟に足を踏み入れた。次の瞬間、内側からとてつもない力で吹っ飛ばされた。




