02
野菜炒めを作り終わった後、「んー……やっぱりパン作ろうか」なんてチェルカの一言をきっかけに二人はパン作りにかかり始めた。寝かすなど時間を要する行程はチェルカの能力を使えばどうとでもなることからこの提案だ。
しかし、結論から言うと残念ながらこの提案はあまり意味を成さなかった。それどころか、折角作った野菜炒めも食べる前に冷めきってしまうこととなった。
「う、わッ!?」
小麦を水で練っている最中で飛行船がガクンと大きく揺れ、セレスはバランスを崩し後ろに倒れ込みそうになった。それを後ろでレクチャーしていたチェルカが抱き止める。
「……何かあったのかな。残念だけどパン作りはここまでみたいだね」
その顔からは先程までの楽しそうな表情はすっかり消えてしまっていて、代わりに真剣な表情が宿っていた。心なしか、眉間にシワもよっている。
そんなチェルカを見て、本当にパンを諦めなければならないことを悟ったセレスは残念そうに眉を下げ、こんな状況をつくった飛行船の揺れの原因に密かに怒りを募らせた。現状は、そんなことを考えられるほど呑気なものではない筈なのだが。
チェルカが飛行船の操縦をオートモードにしてキッチンに来ていると言うことは、突然天候が変わってしまわない限り何事も起こらない確証を得られたということだ。だから、何か障害物にぶつかったということはあり得ない。
「うわッ……と、と……」
再び大きな揺れが襲い掛かる。一度揺れれば暫くおさまることから、チェルカは突然の天候の変化という可能性を捨てた。すると浮かび上がるのは厄介な可能性になる。即ち、何者かがこの飛行船を襲っているということだ。
「え!? だ、大丈夫だよ! 下ろしてよ!」
「五月蝿い。最悪君には戦ってもらわなきゃならないんだよ。だったら俺がつれてった方が速いだろ? じゃないとその辺で転がってるわけだし」
飛行船が揺れる度に転びそうになるセレスを抱き抱えると、チェルカはそう言って階段を駆け登り甲板に出る。
「おーおー、どんな金持ちかと思ったらカップルのお出ましかァ!」
するとそこには、三人のチンピラが立っていた。上を見上げてみれば、チンピラたちが乗ってきたらしい小汚い船が見える。どうやらあれから飛び降りてきたようだ。
「ご用件はって聞きたいところだけど、シンプルに盗賊かな?」
「ごめーとーだぜにィちゃん! そんなら話は早いよなァ! 取り敢えず有り金全部オレたちに差し出しな!」
ギャハハハハ、とチンピラたちは下品な笑い声をあげる。チェルカとセレスしか出てこないのを見て、気が大きくなっているのだろう。恐らく、チェルカとセレスを温室育ちの金持ちカップルだと勘違いしてる筈だ。その証拠に「なんだったらそこの女の子も貰っちゃおうかなァ!?」なんて言って上機嫌にバカ笑いしている。
「ねえ」チェルカはそんなチンピラたちに冷たい視線を送りながら、セレスを下ろして言う。「船の操縦と、あいつらの片付け、どっちがやりたい?」
セレスはその質問の意図を読めずに首をかしげつつ簡単な方を選んだ。「片付け」
「うん、そりゃそうだよね。じゃあ、俺は適当に捨てられる場所に運ぶから、その間に君はあれを片付けといてくれるかな? 記憶を奪わずに、暴力のみで頼むよ」
「ん、おっけー」
素直に頷くとセレスは軽く跳んで三人の間に突っ込んでいった。勿論、何もせずに突っ込んでいったのではなく、跳んだ勢いを利用してしっかりドロップキックをかましている。ドロップキックは綺麗に決まり、セレスの両足はチンピラの一人の腹に突き刺さり甲板の端の方までチンピラを吹っ飛ばした。
「貰っちゃおうとかよくわかんないけど」
着地すると、手をつきカエル倒立の要領で身体を浮かせ、浮かせた身体を横に捻ると曲げていた膝を一気に押し出して唖然としている残りのチンピラのうちの一人を蹴り飛ばした。
「出来るもんならやってみればいいよ」
蹴りの勢いを利用して立ち上がると、セレスは残った一人にはシンプルに上段蹴りをお見舞いする。こちらも勢いよく飛んでいった。
「こ、こんのアマァ……!!」
「テメェ、ナメたマネしてんじゃねェぞ……?」
女であるセレスにこんなことをされて当然チンピラたちのプライドが傷つかないはずかなく、なす術なく蹴り飛ばされたチンピラたちは三流っぽい言葉を吐きながら立ち上がる。そんな三人を見てセレスは少し困ったように苦笑すると、まるで狼型のモンスターを相手にしたときのように腕を広げて遊んでやると言わんばかりに言うのだった。
「おいで」
チンピラたちがこの発言に激昂したのは言うまでもない。




