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第一幕 百貨店  第一場面 女装A  

No.101

登場人物


作家

編集者/無明

仏陀


高校生A

高校生B

店員


女子高校生A

女子高校生B

大学生

女子大学生



第一幕 百貨店


第一場面 女装A


   百貨店の中。

   店舗の前に休憩用ベンチが二基ある。

   作家は帽子を目深にかぶり、上手ベンチに、客席側を向いて座っている。


作家 (客席に語りかける)これは夢であり、彼が実際に起こした事件ではありません。けれど、いつか起こすかもしれません。彼には願望があり、そして、それは決して満たされる事が無いのです。(立ち上がって客席に自らのコートの前を開いて見せる)見てください、これがこの夢の舞台における私の役回りですよ……。これではまるで変質者だ。彼には、歪んだ性癖と妄想があるのです。そして、それは、被害妄想の形をとっているのかもしれません。(コートの前を閉じ、ベンチに座る)


   大学生、下手から登場し、店舗の商品を見ている。

   続いて編集者、下手から登場する。

   編集者は女装をしている。白く薄いシャツに、もの凄く短いスカートを穿いている。

   それを裸の上に着ており、下着の類は穿いていない。

   かつらは被っていないため、男性の髪型のままで、短髪である。全身の毛を脱毛している。


編集者 (大学生の後姿をじっと見ている)


   突然、店内に女性ボーカルの甘ったるい歌が流れてくる。二〇〇五年の流行歌である。


大学生 (商品を物色している)

編集者 (商品を物色している大学生をじっと観察している)


   高校生A・Bが、話しながら上手から登場し、下手ベンチに店舗の方を向いて腰かける。

   二人は制服を着ている。


高校生A (女装した編集者を見て)うおっ、すげー格好をした女がいるぜ! 見てみろよ、高校生B!(と言って、高校生Bの肩を叩く)

高校生B (女装した編集者に気づく)あ、本当だ。すげーな、スラッとしていて、モデルみてーだな。高校生A!

編集者 (下段の商品を物色して、前かがみになる)

高校生A・B (女装した編集者のスカートの中が見える)おお!(と歓声をあげる)

高校生A 見たか、今の?

高校生B 見た見た。サイコーだな。

高校生A 今日は人生で、最良の日だ。

高校生B だな。


   商品を見ていた大学生、買い物をして、上手へと退場する。


編集者 (大学生を追いかける)


   編集者、上手へと退場する。

   かかっていた歌が止む。


高校生A 行っちまったな。

高校生B どうする?

高校生A そりゃお前……、追いかけるに決まってんだろ。あの人は、俺達に見て欲しいんだよ、決まってんだろ!

高校生B (神妙な面持ちで)そうだな、うん。決まってるよな。

高校生A・B (固い握手をする)


   高校生A・B会話しながら上手へ退場する。


作家 (一連の事を、チラチラと見ていた)凄く不自然だ……。凄く不自然です。(少しムスッとして)皆さん、これが夢というものなのです。不自然極まりないものが夢なのです。


   間。


作家 (片手で帽子を触っている)僕は、彼に――彼らと言うべきかもしれませんが――目を覚ましてもらいたいのです。そして……。(立ち上がって、客席に向かって、コートの前を開く)まずこの役割を止めさせてもらいたい。……皆さん知らないかもしれませんが、僕は作家なのですよ、そして、彼は、僕の担当の編集者なのです……。結構良い大学を出て、大手出版社に就職した、将来有望な人物なのですから。

 (思案して歩き回る)皆さんはどう思っているのか分かりませんが、人間の脳には、一定以上の刺激、まあ、快楽でも苦痛でもいい。取りあえず、刺激や情報を与えると、ですね、その人物は、必ず、その行為を為す事が決定付けされるのです。(客席の観客を見渡して)これは本当ですよ……。本当……。


   作家、頭を振り振り上手に退場する。

   暗転。

   照明が点く。

   編集者、上手から登場する。


編集者 (キョロキョロしながら、歩いている)あの人……、何処に行ってしまったのだろう……。こんなに好きなのに……。愛しているのに……。気持ちが伝えられないなんて……。(上手側のベンチに、店舗側を向いて座る)


   店内に女性ボーカルの甘ったるい歌が流れてくる。二〇〇五年の流行歌。

   作家、下手から何かを振り払う仕草をして、早足で登場。


作家 (呟くように)やめろ、やめろ。歌なんて、今すぐやめろ。気味の悪い演出をするな。(下手側のベンチに、客席側を向いて座る)どうしようもないな……。

編集者 (独り言を言っている作家の方をチラチラと見ている)

作家 (編集者の事を見る)

編集者 (恥ずかしそうに、縮こまる)


   編集者、もじもじしている。

   ベンチに座りながら、前屈みになり、尻が見えるようなポーズをとる。


作家 (それを見る)

編集者 (さらに変化を付けたポーズをとる)

作家 (顔が険しくなる)おい……。


   舞台上暗くなり、編集者にスポットライトが当たる。

   悲しげなBGMが流れる。

   編集者、ベンチを使用して、様々な苦悩のポーズを客席に披露する。特に下半身を披露する。

   編集者の朗読する音声が流れる。


編集者の声 『恋する女子高生の苦悩』


  あこがれ、あの人に届けたい、

  この私の心と体。

  私が、こんなに熱く思っているこの事実。

  この本当の内なる渇望。

  ああ、何で私は、

  もっと男性に好かれる容姿を

  選ぶ事ができなかったのだろう。

  高鳴る、胸の鼓動。

  もう、どうしても抑える事ができない。

  できるわけがない!


   照明元に戻り、BGMも止む。

   編集者、急いで服を着て、上手に足早に去って行く。退場。

   下手から、百貨店店員(以下店員)が登場する。


店員 (作家に近付く)ここら辺に、女装した方、見ませんでしたか? 白いミニスカートを穿いた。

作家 ええ、見ました。(上手を示し)あっちに向かって行きましたよ。

店員 ありがとうございます。(頭を下げる)


   店員、上手に退場する。


作家 (立ち上がって、客席に)この後、彼は捕まるでしょう。変質者として、露出狂として、軽犯罪者として。(ため息を付く)

 (客席を見回して)……しかし、これは夢なのです。そして、私は作家であり、作家という者は、夢を改変する事を許されているのです。ですから、納得のいくまで、この夢を変更する事にしたいと思います。では、取りあえず、彼をここに連れて来る事にしましょう。


   作家、上手へと退場する。

   舞台上、照明がピンク色になる。

   作家、女装した編集者を連れて上手から登場。


作家 (上手のベンチに座る様に促す)

編集者 (上手のベンチに座る)

作家 (帽子を取り、コートを脱いで、下手のベンチに座る)


   二人は、舞台中央で、向かい合って座っている。


作家 俺は、変質者じゃないし、警察官でもない。ただの一般人でもあり、夢の医者でもある。

編集者 (作家の方を見る)

作家 君の事を責めるつもりはない。だが少し確認したい事がある。

編集者 (落ち着いた声で)何ですか。

作家 君は、いくつなんだ?

編集者 十七歳です。

作家 なるほど。じゃあ性別は?

編集者 (ムッとする)ちょっとそれは、失礼なんじゃないですか。セクハラですよ。いくら私の見た目が男っぽいからって……。

作家 ああ……。すまないね。じゃあ確認しよう。十七歳、え~高校生、女性でいいかな。

編集者 ええ。そうです。

作家 そして、性的倒錯があり、露出狂である、と。

編集者 (誰に向かってではなく)情熱です。熱い胸の想いです。これは愛です。全てを愛する心の表現なのです。

作家 (髪をかく)ああ……。そうか。(思案する)しかしなあ、現実には、君の行為は、犯罪にあたるであろう。

編集者 別に構いません。この行動は、私において正しいから。

作家 (話題を変える)さっき君が追いかけた人、なかなか格好良かったな。君の知り合い?

編集者 ……知り合いというわけでは……。私の一方的な片想いです……。

作家 なるほど、君は、彼を振り向かせたかったわけだ。

編集者 そうです。

作家 そして、だんだん、過激なアピールになっていった、と……。

編集者 はい。

作家 これ以上のアピールになると、後は裸しかないな。

編集者 そうです。もはや、裸になるしかありません。私には、性的な魅力がないのです。

作家 やっぱり、始めは、制服を着てアピールしていた?

編集者 始めは、制服を、セーラー服を着ていました。

作家 (うんうんと頷く)そうか、分かった。きっと彼は、年下の女性に興味が無いんだ。きっと君は、彼にとっての理想のお姉さんならなくてはならない。(だんだんと早口になる)年上の魅力で、大人びた、仕事の出来そうな、女性会社員とならなければならない。君は、スーツを着なければならない。そして、もう一度、あの場面をやり直さなければならない。そして、正しい夢を構築しなければならない。(念を押す)いいね。

編集者 (押し切られ)う……うん。……はい。分かりました。


   暗転。


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