六話 朝の騒動と兵長
太陽がまだ完全に上りきる前。人々が目を覚まし起きる中で事件が起る。幸運亭の一階フロントにて主であるランドとティム。そして私の三人が深刻な顔をしていたのだった。
「本当かいティム……ルナが居ないと言うのは?」
「本当なんだ!! だって、昨日の事謝ろうとして家に行ったのだけど……ルナも、おばさんも居ないんだ……それにロブさんも……」
ルナ親子の姿が消えた事に疑問を思っていると、ティムから聞きなれない人物の名が出て聞く、ロブと言う男はどうやら病気で体の調子が悪いルナの母親の手伝いをしていた人物でランドもティムも面識があるそうだ。
「とにかく、詰所の兵にこの事を……例の噂は耳にしていたのだが、そんなまさか……」
「例の噂? 何それ?」
「アンさん知らないんですか? 最近、城下町だけでなく一部の貴族の者が行方不明になる事件が度々起こっているのですよ……どんなに探しても見つからず今も探索はされているのですが……」
ティムが焦った様子で説明してくれ、直ぐに詰所の方へ走って出て行ってしまった。ランドは大きなため息を吐いて、起きて来た客の対応に追われていく。
……人が消えた、ねぇ?
胡散臭い気がしつつ、自室に戻り端末を開き端末を出す。一応取り扱いの所は読んでおり、大体は普通のスマホと変わらず、アドレス帳にある名前にEと書かれた電話番号を出し通話ボタンを押し数回コールが鳴った後、相手が電話に出た。
「やぁ、おはよう……目覚めはいいかね?」
声を変える機械を使い、男か女か判別できようにしてきた。恐らくメールで書いてあったEと言う人物だろうが、今は詮索する気はない。
「まぁ、子供の親切でいいところで寝れたわ」
「そうか……で、改めて自己紹介を、私がEだ。まさかいきなり電話をしてくるとは思わなかったが、オーブの場所を聞ききたいのかい?」
「それもあるけど……それよりもこの町で起こっている事。何か知らないかしら? 教えてくれれば助けるんだけど?」
「ほう? もしや人が消えて行く事件の事か? 何故聞きたがる? 君には関係ない事だろうが?」
確かに、言う通りだ。私がこの世界にいるのはオーブを集める為で、わざわざ便利屋をやる必要はない。それよりも、元の世界に帰れる可能生があるオーブの回収の方をしていた方が賢明のはずだ。
「もしや、放っておけないなどと自己満足な正義のつもりか? だとしたら愚かな事だ、君は今私と父上の依頼を受けてそこにいるのだぞ? それとも、たかが一泊の礼で貴重な時間を費やすか?」
「まぁ……確かにそれは馬鹿なやり方ね?」
「では、その通りにせよ。今後の行動について追って通達するそれでは」
そこで電話が切られる。冷徹人間が 悪態をつぶやいて端末をしまう。
「何があったんだ? 昨日おまえさんが寝ている間に送られてきた番号を出して……ん? 昨日の嬢ちゃんがいなくなった? それで、あいつに?」
「結局無駄だったけどね? ん?」
一階の方から何か大きな音がして部屋から出て降りる。食堂ではランドを三人の男が責め寄っていが、その男達を見てすぐさま昨日麻酔で眠らせた奴らだと気づいた。
「てめぇ!! こんな飯で金とるだと?」
「こっちは、兵から逃げてきて疲れてんのに」
「やんのか?」
手に短い剣や棒を持ち脅し始め、周りの客達は怯えて目をそらしていた。このままだとランドが危ないため、男三人に気づかれないように後ろから近づいてーー
「そんなもの振り回すな」
真ん中にいた短髪の男の首に軽い振動を与え気絶させ、残りの二人。大きな体型の奴と、細身の奴にもそれぞれ手刀をして気絶させてからランドの方を見る。どこか怪我した様子もないようだった。
「あ、アンさん?」
「大丈夫でしたか? 何なのです? こいつら「バァン! 」 ?」
扉が突然開けられ、店の中に気絶させた三人と同じ黒い外套を来たのが複数入ってきて私を睨み付つける。おいおい、仲間まだいたの?
「おい!! 俺の部下に何しやがった!?」
「いや、営業妨害してたから……」
一応説明するが聞き入れてもらえず、奴らは凶器を構え囲んで来る。マズイな……今銃は部屋に置いてきてたし、端末あるけど素直に出させてくれないよね?
体から力を抜き脱力する。まず一人目が混紡を振り上げて来る。振り落とした混紡を後ろに下がり躱し、顔に蹴りを入れ飛ばす。倒れた仲間を見て次に、二人目と三人目がナイフで切りにかかるが近くのテーブルからナイフとフォークを取り投げる。
「があ!!」
「手が!!」
二人の手にナイフとフォークが刺さり、手から剣が離れ床に落ち。痛がっている所を悪いが、皿を顔面に投げつけ倒し落とした二本のナイフの剣を拾って残り四人になった敵に構える。
「な、なんだこいつは!?」
「と、とにかく一気に片付けるぞ!!」
今度はさっきみたいにバラバラに攻撃してではなく、テーブルを乗り越えたりして囲んできた。左右から来たのを二刀流でさばき、後ろや前から来たのを躱しつつ壁際の方に移動する。
「いいぞ、そのまま追い込め!!」と一人が叫び他の連中も追い詰めたと思って余裕の笑を浮かべていた。
一端全速で走り、壁を強く蹴って飛ぶ。追いかけて来た一人の頭を蹴り倒し、気絶させ、着地と同時に手に持つナイフを投げ二人の男の腕に刺さり、血を流し腕を抑える。
「ぎゃぁ!!」
「ああぁ!!」
叫び声を出して、店から出て行ってしまう。そして最後に残ったリーダらしき男が怯えた目でこっちを見て手から剣を落とす。
「はぁ~こんな朝一から面倒な事させやがって……おい!!」
「は、はい!!」
残った男に、声をかかると。私に怯え体を震え上げる。倒れたこいつらを連れて行けと言おうとしたが、すぐに自分だけ逃げ出した。
「はいはい~そこまで~」
と軽い口調で、突如男が倒れ気絶する。入口にはピンクの背が低い少女と兵士達が入っていてすぐさまゴロツキ共を縛り上げてきた。そしてピンクの少女が私の前まで来る
「はい、貴方も逮捕です」
と剣を引き抜く。おいおい……私もかい!?
「ま、待ってください!!エーレ!! その人は悪い人ではないんです」
さっきまで黙っていたランドがピンク髪で軽い鎧を着込んだ少女……エールに事情を説明し、剣を収める謝罪してきた。本当、助かったよ……
「すみません このお店私のお気に入りだったのでつい……危うく刺す所でした!!」
本当危ないなこの子!! 本当に兵士かよ!?
「兵長、あの者達ですが……」
一人の兵がエーレを兵長と呼び何か小声で話す。少し離れてて聞こえないが二人の口元を……読唇術で話しの内容を知ることができた。
(屋敷に出入り……メダ伯爵?)
「分かりました、ではこの者達は私達が連行しますので……それと。貴方のお名前伺ってよろしいですか?」
立ち去ろうとしていた彼女に名前を聞かれ、一瞬本名を言って大丈夫か? と思ったが今更だしと思い名前を伝える。そして今度こそ帰ろうとしたエーレに声をかけ情報が集まる所を聞くと
「ここから暫らく行った先の酒場が情報が集まる」
と言われ自分の部屋に戻り準備して早速酒場まで行く。
果たして、どうなる事やら……
一抹の不安をかかえ外に出るのだった。