五話 宿屋「幸運亭」
「もうすぐそこですアンさん!!」
赤髪の子に手を引かれ、夜の街を案内される。
この子……ルナが兵に対して宿のお客で、襲われていたのを助けてくれた と説明してくれたおかげで、すんなりと信用され難を逃れた。恐らく兵や街の住人と面識があった為ルナの言葉を疑わなかっただろうけど。
それからルナから逃げる事が出来ず(ずっと私を捕まえていて)今はこうして宿に連れてこられていた。
城から逃げてあんまり休めて無かったので、まぁいいかと思っていると。やがて小さな青い屋根の建物の前にルナが止まり私を見て腰を下りお辞儀する。
「ここが、私がお手伝いさせてもらっている幸運亭です。どうぞ、お入りください」
礼儀正しくお辞儀し、ルナは玄関口を開ける。中に入ると小さなカウンターにカンテラが置かれ、ルナが壁に置かれたロウソクに火を灯し明るくなり、青い壁に植木が置かれ、絵画など置いてあるのが見えた。
「あれ、誰かいるのかい?」
奥から男性の声が聞こえ、メガネをかけ、緑で長い髪を後ろで一つにまとめた優男が出て来る。
「ランドさん、お客さんです!!」
「お客さん? おぉ、これは、これは今晩は……こんな小さな宿にようこそ」
私を見て会釈し、こちらも会釈を返しランドと呼ばれた男を改めてを見る。
何かの作業をしていたのか、白い作業着服みたなのを着て、手には金づちを持ち顔には汚れが着いていた。
「そうですか……ルナがそんな目に……アンさん。本当にありがとうございました……ですが、あいにく今、空いてる部屋の湯浴み場が故障してまして……現在、全部屋が祭りが近づいているため満席なんです……食事とベッドなら可能ですが……」
何て間の悪いだろうか…… まあ、どうせ日が登ればこの街から出るから今は寝床と食事さえあれば良し。
ランドにその部屋でいいから使わせてくれと言うとルナが
「そんな!! 体綺麗にしないと!! さつきからアンさん……その……」
後半の所は声が小さくなって聞きづらいが、言いたい事はわかる。正直下水道の匂いがさっきから気になっていたけど、消臭スプレーじゃダメだったかな?
「う~ん………そうだ!! なら……」
ランド突如何かを思いだしたこのように私の方を見て。ある提案を上げて来た。
「あぁ~きもちぃ……」
満天の星空を見て、暖かい湯に浸る。木で作られた風呂に入り、言わいる露天風呂を満喫していた。まさか異世界でこんな風呂にはいるとはね~ これまで一応は風呂屋に行った事があるが、ここまで星空が綺麗な中で見た事は無かったため気分が良い。
頭にタオルを巻いて、髪を隠しているが。今いるここは、宿屋の裏手にある小さな庭で客室から見えないように壁も作ってある。
「さて、そろそろ……」
「アンさん、湯加減はいいですか?」
突如、ルナが入り込んできて慌てタオルを強く巻きなおす。板の壁が少し動き体にタオルを巻いたルナが出ていた。
「あの~どうしたの?」
「え、えっと……一緒にどうかなって思い……だめですか?」
目をうるわせ、私にお願いしてくるルナ。そんな顔されて断れるわけないよ……
白髪を見られるリスクはあったが、仕方なく彼女を受け入れ、湯船に入る。
「気持ちい~星も綺麗!!」
「こらこら、今人寝てるから声出さない」
深夜と言う事を忘れ大声を出すルナをたしなめて、素直に謝るルナを見て何時の間にか笑を浮かべていた自分に気付く。私はとっとと自分の世界に帰らないといけないのに……こんな所で何やってだか。
「あの、どうかされたんですか?」
考え事をしていると、ルナは私を心配そうに見つめてきて。なんでもないと言い湯から出よう……としたが。傍に置いてある護身用に持って来ていたナイフを持ち。壁に投げ刃の部分を貫通して突き刺さる。
「誰だ!?」
慎重に壁の向こう側に移動し、壁のあちら側を見ると。
「ご……ごめんな、さい……」
一人の少年が怯えて座り込んでいたのだった。
「本当にすみませんでした……」
湯から上がり着替えて、フロントの床に座る男の子……ティムを見た。茶色の髪に緑の上着と茶のズボンを着た少年は下を向いてさっきから謝罪を繰り返す。
「その……あそこって普段使ってなかったから。てっきりランドさんが、修理か何かしてると思って……み、見る気は無かったんです!!」
ティムは顔を上げて、私と隣りに抱きついて来ているルナを見る。さっきからこの子は頬をふくらませ、ティムを睨んでいる。そうとう怒っているのだった。
「……最低」
一言つぶやき、ティムから顔を背けた。それを見てティムの方もショックを受けて肩を落とす。……がんばれ、少年。
「その……この子も悪気があったわけじゃ、無かったので……」
ランドが私に何か言いにくそうにしていたが、別に気にして無い事を伝え安心したが。ルナはそうでは無かった。
「だって、裸見られたんですよ!? 許せません!!」
と言いそのまま建物から出て行った。乙女の怒りはすごいねぇーーあ、私も乙女か、もうすぐ二十だけど。
一方で心身ボロボロ(貫通したナイフ見て腰が抜けて。乙女の怒りを買ってしまい)の彼は目に涙を浮かべ、どうしたらいいのか分からず私の方を見た。彼も悪いが流石に見捨てるわけにも行かず、まず椅子に座らせて私は気にしてない事を伝えるといきなり私に抱きついて泣き出した。
「ぁぁ……男の子でしょうが? 女の私に抱きつかない!!」
その後、ティムをなだめ泣き止んで後にやっとベッドに寝る事ができ。暫らく爆睡する事になった。
○
「ぁぁ、もう……私ったら……」
同じ宿でお手伝いをするティム君に腹を立てた事を後悔しつつ。急いで母の所に薬を届ける相当心配してるだろうな……はぁ、私の馬鹿……。
急いで走り、目の前まで家が見え息を切らせながらも走り中に入るが……誰もいない……
いつもなら食事の準備をして椅子に座っているのに? それに、いつも来ているロブさんもいないなんて……
「ぐぅ!! ふ、ふぅ!!」
突然誰かに後ろから口を塞がれた。必死に抵抗しても離れず。徐々に意識がなくなり。
「あ、んさん……」
そこで私の記憶が途切れるのだった。