二話 魔獣と姫
ブロロォォ!!
森の中をバイクで走り、うるさいエンジン音がなり響く。暫らく走り、誰一人どころか影も見当たらない事に不安を感じつつ走る。
目的地であるガイストと呼ばれる町までまだ距離があり、下手をしたら今日はどこかで野宿する事なるけど、端末使えばテントぐらいは出そうかな……家は流石に出ないよね?
いくらスパイとかしていても、やっぱり家の中で寝たいし暖かいごはんも食べたい、仕事中は仕方ないけど、もしできるなら出したい!!
……とわがままな事を考えていると、お腹の音がなり一旦バイクの速度を落とし完全に止まってから端末を取り出す。この世界と連動しているかどうかは分から無いが時刻はちょうど零時を表していた。
ぐぅ~
「おい、そろそろ休むか?」
ぅう、そういえば建物から出てアイスしか食べてなかったよ……今度は大きな腹の音がなり、どこか休む所はないか端末のマップで辺りを見ると。
「お、近くに川があるみたいだな? ここで休むか?」
「そう? だったら……」
相棒のナビで再び走らせてたーー
▲
山のふもとにて馬車を中心に何人もの鎧を着た者達が移動し、山を離れるように移動していた。
「それにしても、何も収穫ありませんでしたね? ファイ副隊長?」
馬に乗る短い黄色髪の青年が、隣りの同じく馬に乗った短い赤髪の女性に、声をかけるが
「任務中だ、静かにしろテール」 と冷たく言い放ち黄色髪の男性テールは肩を小さくし小声ですみませんと謝罪をする。
「だけど、テールの言う通りだ。姫様をこんな所までお連れして結局何も無かったなど、王女にどう報告したらいい?」
今度は二人の前にいる馬に乗っている人物から声がした。装飾のされた鎧を付けた青髪の端麗な男性だった。彼がこの兵達の上に立つ人物らしく、テールとファイは背筋を正して「ネロ隊長」彼の名を口にした。
「それに、二人共。馬車の近くでそんな話しをするな、よもや姫様の力を疑っている訳ではないな?」
「い、いえ」
「そのような事は!!」
ネロは最初は二人を睨むが、直ぐに穏やかな笑を浮かべテールとファイは安心した。
「なに、収穫がなければ誰だって気持ちが沈む物だ……あと少しで国に帰れるのだから辛抱だ、がんばっ」 ガォォン!!!!
突如、進行方向から先に何かの叫び声が聞こえ。いくつもの影が忍び寄った。
▲
「はぁ~ごちさそうさま!!」
川に足を付けたまま、メールを送信して出したごはんを食べ終えて大きく息を吐いた。うん、川が冷たくて気持ちいい!!
鳥の声や、木々の枝が風で揺れる音が聞こえる。さらに、太陽の暖かい光で段々と心地良くなり眠くなってきた……
異世界に来てまだ半日だけど、こんなに平和なら大丈夫だよね? 焦って町に行って途中で事故したらいけないし、ゆっくりしていこう……そうしよう……
「おやすみ」
ドォォン!!
いきなり激しい音が鳴り響き、眠りからいきなり覚醒し裸足のままバイクの方に走る。
「なんだ!? 地震か?」
「な、何なのよ!! もうぅ!?」
平穏がいきなり壊されて、私は叫ぶがまた激しい音にかき消される。
ズドォン!! ズドォン!! グァァ!!
続けさまになる地響きと何かの奇声……それは、まるで巨大な何かが移動しているような音だった。
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「くっ!! なんで何故ウルフ共が!?」
ネロは手にした剣で、犬より大きく黒い毛をし鋭利な牙を持った生き物を切り裂き、返り血を浴びるが彼はそれを気にせずに仲間の方に顔を向け叫ぶ。
「なんとしてでも、馬車には近づけさせるな!!」
ファイが二刀流で次々とウルフ達を切り裂き。槍や楯を持ち馬車を中心として守るが、ウルフと呼ばれた獣達の方が数が多く、既に足である馬はウルフ達の餌食になっていた。
「なんで、こいつら!? 隣りの山に住んでいるはずなのに!?」
「私に聞くな!!」
槍を持つテールとファイは互に背を合わせる。本来この地域にいないはずの生き物がいる事に彼らは動揺するが、戦闘になれているらしく彼らは陣形を崩さない。
「? 何か可笑しい?」
ファイは襲ってくるウルフ達を見て何かに気づく。ウルフ達の大半は馬車や兵士を無視しどこかに行ってしまうが、一部の……まるで獲物に飢えたのだけが襲って来ていた。その事を考えていると、さらに複数のウルフが襲いかかりテールとファイはその場から散って後退し、ファイの後ろから一匹のウルフが飛びかかり彼女にのしかかった。
「っ!? しまった!! ファイ!!」
テールがファイの元に駆け寄ろうとするが、別のウルフ達が邪魔をしていけない。そしてウルフが鋭く、女性の体など直ぐにでも切れそうな牙を押し付けてくる。
ファイも抵抗するが、先ほど体勢を崩した際に剣を落とし、細腕でウルフの顔を抑えるが、余りにも力の差があり牙が首元に当たり血が少し流れた。
「くぅ……うぅ……」
牙が食い込んできて涙を流し、覚悟を決めて目を閉じるファイ。周りにいる仲間達が彼女の名を必死に叫ぶ中。馬乗りになった獣は一度顔を上げ大きく口を開き、ファイの首を食いちぎろうとした。
「ファイ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
テールが叫び、ウルフが彼女の首を噛みつこうとした瞬間。僅かに風を切る音がしウルフが力なく倒れ込む。
「え?……」
体の上に乗っていたウルフが突如倒れこみ、ファイだけでなく周りの兵まで何が起こったのかわからない。さらに異変はそれだけでは無かった。
バシュン バシュン バシュン
次々と風を切る音が鳴り、兵を襲っていたウルフ達が同じように倒れて行く。ほんの数秒間、同じ音が鳴り続け辺りにいたウルフ達は謎の攻撃に血を流し倒れる。
「い、一体何が?」
テールが混乱し、ファイが剣を拾い辺りを警戒する。すると後ろの馬車から扉を開ける音がし、そこには
「あ、あの……大丈夫ですか?」
小柄で軽装をし銀髪を腰まで伸ばしたまるで人形のような可憐な美しさを持った少女が辺りをきょろきょろと見ながら馬車から出る。
「!! 行けません!! 姫!! まだ安全では!?」
ズドォォン!! ズドォォォン!!
突如、ウルフの群れが出てきた所から激しい地響きがして、木々が倒れて何か巨大な影が出て来た。
それは、四本の足で移動し背中にはいくつものトゲがついたトカゲだった。目が真紅に染まっていて、騎士達を見て近づいてくる。
「あれは!?」
「グランリザード!!」
巨大トカゲが確実に近づく。歩くたびに大きな足音が地響きが鳴り足元が揺れ身動きが取れず、その際馬車が激しく揺れた少女が落ちかけるが、すぐさまネロが走り彼女を受け止める。
「姫様、ここはお逃げください!! 我ら騎士が……」
グワァァ!!
グランドリザードがネロの腕の中にいる姫を見た瞬間、彼女めがけて一直線に走り出す。馬はウルフ達にやられ、今の戦力ではあの生き物に対抗できないと悟りネロは厳しい顔をして迫りくる生き物を睨み付けた。
他の兵も迫りくる巨大な生き物に恐怖し腰を抜かし、誰もが絶望した時ーー
ドオォォン!!
突如、グランリザードの顔が爆発し遠くから何かの音が聞こえ段々と近づいて来る。
「そこ、どきなさい!!」
唖然とする騎士達が見たのは、見た事のな乗り物に乗り。大きな筒を持った銀の髪をした少女が叫ぶ姿だった。
慌てて兵達は散り散りに動きグランリザードから離れ、代わりに突如現れた少女が前に出て来て
「さぁて!! 初めての仕事と行きますか!!」
巨大な筒をグランリザードに向け、叫ぶのだった。
▲
数分前
「たくっ!! 人が寝ようと思ったのに……なんなの? あのトカゲは?」
「まぁ、まぁ落ち着けよ? にしても、本当にここ、異世界だな~あんなでかいの見た事ないぜ?」
川で地震みたいなのが起こり、急いであそこから離れたら巨大なトカゲが移動していたのを見て急いで逃げた。異世界来て始めて見た生き物がトカゲって……
嫌な物を見て欝になりつつバイクを走らせていると、木々の間から山のふもとに何かが動いてバイクを止めた。
「ん?どうしたんだ?」
「いや……何かが今……」
背負っていたライフルのスコープでふもとを見ると。複数の鎧を着た人達が狼みたいなのに襲われて、しかもけが人もいる見たいだった。
「人が襲われてる!!」
「はぁ!? まじかよ!!」
バイクから降り、急いで背にあるスコープ付きで長い銃「ワルサーWAカスタム」を構え引き金に指を置き。最初に赤い髪の女性を襲っている狼を狙撃した。
バシュン
一発で頭を狙い、今度は周りにいた狼達をそれぞれ一撃で狙撃させた。仲間が突然倒れたことに理解できず、動きが止まってくれて助かったけど動いてたら狙撃出来なかった……と思いつつ、兵達の様子を見る。
全員生きていたみたいだが、やはりボロボロになっている人が多く治療しないといけない。しかし、こんな怪しいのが行けば剣を向けられるのは目に見えておりどうするか悩んでいると、馬車から私と同じ髪の女の子が出て来た。格好からして、どこかの貴族が姫みたいで可愛いな~~と思っていたら
ズドォォン!!
突如また地響きがなり、彼らの目の前からまたあのトカゲが出て来た。今のあの人達には馬はなく、逃げる事もできない!!
「なんだ今の音は……ってまたあのトカゲかよ!? って、おい何する気だ!?」
「決まってる!! あのトカゲをぶちのめす!!」
バイクに乗り込み、急いで火力のある武器を出させ、使っていたワルサーを折りたたみ、木々のある荒い道を急いで降り、目の前に大きな岩が立ちふさがる。
「間に合え!!」
車体の前を上げウイリーの状態で岩を上り、ジャンプし一気に飛ぶ。巨大トカゲはまっすぐにあの子を狙って今も動き兵達はトカゲの前で腰を抜かし動けないでいた。
岩の上で着地し走り、林を駆け、ふもとにたどりつく。一度バイクを止めて背負っていた小型グレネードランチャーを打ち巨大トカゲの顔面に命中させ爆発が起こる。
奴がひるんでいる内に走らせ兵達を引かないよう、声を上げると彼らは慌て離れて私は奴の前に止まり
さぁて!! 異世界で始めての人助けと行きますか!!
煙を出しひるんで動かないトカゲの前に止まり、私はグレネードランチャーを構えた。