三十六話 祝杯祭 前日
王都ガイストの街道。
いくつものカンテラが行き交う人々を照らし活気に包まれていた。
「ねぇ、知ってる? 帝国が巨大な魔獣に襲われて全滅しかけたって?」
「え? それ噂だろ? 」
「それが、本当みたい・・・だから、今回も祭りは戦争が終わった分も含めて盛り上がるみたいだよ?」
物影から、カップルの声を聞き。音を立てずにその場から離れる。時折、見回りの兵を見かけ、発見されないよう進み建物の屋根上に登った。
「あ~もう、こうも警備が厳重だなんて思わ無かった・・・」
一枚の紙を出し、月の明かりで書かれた似顔絵とその下にある文章を見る。
名前不明
赤い髪をした女
情報提供者には報酬を与える
私の特徴が書かれた手配書を破り捨てて、ここから見える城を睨み付ける。
「やっぱり警戒しておいて良かったな?」
「確かに・・・下手したら牢屋だったよ・・・」
前にドンパチしたため、一応変装して入って見れば兵士に手配書を渡され、表の街を歩くのをやめ、隠密行動をして情報を探っていた。
どうやら明日から、祭りが行われ街が人で溢れかえる。その時一部だけ城を公開するらしく、王女も出て来るそうだ。
「まぁ、王女には興味ないけど・・・」
「最後のオーブはどうやら城のどこかにあるみたいだな。いつもの通り潜入だな、こりゃ」
ため息をついて、屋根を降りる。人気のない細い道を歩いていると割れた鏡が置いてあり、そこには青い髪をした男の姿が写っていた。
▲
「さて・・・ごはんに行きましょうか」
書類を片付けて、一応武器の槍を持って詰所から出る。兵達は私を見て敬礼して「エーレ隊長」と呼んで、私も労いの言葉をかけた。
「あぁ~疲れた・・・」
祭りを兼ねた式典の警備等で、忙しくて家にも戻ってない。しかも厄介な事がもう一つ・・・
「やっぱり、報告したほうが良かったですかね・・・」
一枚の指名手配書を出して、つい先日の事を思い出す。お気に入りの宿屋が、変な集団・・・まぁ、不正を働いていた貴族の手下でしたが、それらが暴れて私達が着く前に、一人の女性が解決したのを思い出す。
しかも、その日の翌朝。不正をしていた貴族の屋敷が燃え、そこから行方不明になった人達が見つかった事が起こって大分、城が荒れたのも覚えている。
「アン・・・」
あの時あった赤い髪の人は、そう名乗っていた。けど、この指名手配書には名前までは載ってない、だったら報告するべきだったけど・・・
「忙しかったし、まぁいいか」
保護した人を元の場所に送る等して大変だったし、いいですよね?
財布から小さな紙を取り出し、少し早めに走り出す。
「幸運亭 割引券」
そう書かれた紙を握って、今日は何を食べようか考えていた。
○
「どうしようかな・・・寝るとこ、もうない見たいだし・・・」
もう何十件になるのか、宿屋を探すけど空いてない。やっぱり祭り前日に探すなんて無茶だったかぁ~
「なぁ、この際。前に泊まったとこ行けばいいんじゃね?」
「前にって・・・アレ?」
右の方にある青い屋根がある建物を見る。城から脱出して、一泊世話になった宿屋「幸運亭」があった。今思い返すと懐かく思えて、暫らく見つめていたらーー
「あの、何か御用でしょうか?」
突然。ひさしぶりに聞いた声がして、振り向くと。一人の女の子がかごを持って立っていた。
な、なんでここにいるのさ?
「あ、ルナ・・・」
「え?」
思わず名前を言ってしまい、口を閉じて逃げようとしたら、ルナが私に抱きつく。しかも強めに
「あの・・・もしかして? アンさんですか?」
なんで分かるの!? 今は変声機を使ってるから男の声でバレないはずなのに?
「あ、いや・・・人違いだよ・・・」
「その・・・銀色の髪出てますよ?」
そう言われて髪を触るけど、ウィッグはずれてなかった。私の反応を見て確信したルナは笑を浮かべて、手を引っ張る。
彼女から離れようとしたけど
「声出しますよ?」
と言われ渋々、ついて行くことになった。
○
「お久ぶりですね、アンさん」
以前使った部屋に入り、ルナと二人になる。一階にいるここのオーナであるランドとティムには既に変装を解いて正体を見せたため、今は青い髪だけつけている。
二人から礼を言われ、なぜだか私が来たときのように、この部屋だけ空けておいた見たいだった。
「まぁ、改めて・・・ひさしぶりだね? ルナ」
「はい、本当に・・・会いたかったです・・・」
また私に抱きついてくる。ルナを落ち着かせ、屋敷から出たことを次次と話てくれた。
世話になっていたロブと言う男が謝罪し、罪を認め捕まった事。その後、私が力を使って治した母が体調が良くなって薬がいらなくなった事。そして、今もここで元気に働いているのを聞いた。
そうだったんだ・・・良かった元気にしていて・・・
ここから離れてまだ一ヶ月も経ってないはずなのに、なんだか随分昔の事に思えしんみりしていると、お腹の音がなる。
そういえば、夕飯はまだなのを思い出し。一階で食事をすることになった。食堂では、ほとんど人がいらず。奥の席について注文をしてルナは離れる。
「さて、明日はどうしようかな・・・?」
端末を操作し、武装を確認しようとした時、玄関が開く。ピンクの髪をし槍を手にした女性が入りランドに挨拶してこっちに来て、目があった。
「あ」
声を出し、私に指を向けて来た。そうだった!! 今、私青いウィッグしかつけてなかった!!
「やばっ」
確かこの人は兵と一緒にいたから、私を捕まえる立場のはず。いつでも後ろ窓を割って逃げるように構えていると、ゆっくり近づき槍をおろし。
「すみません、人違いでした」
一言私に伝え、同じテーブルの反対側に座った。そして私に聞こえる程度に
「ここでは何もしませんので、座ってくだい」
と小声で話し、周りの人がこっちを見ているのに気づき大人しく座った。
「この間はどうも、ありがとうございました・・・おかげで後始末などで、私を含める兵は大忙しでした、ちなみにこれは嫌味ではなく、愚痴ですので」
「いや、耳が痛いんだけどさ?」
少なからず悪意を感じ、この場の気まずさを感じつつ早く料理が来ないか祈っていると、さらに彼女は話しを続けた。
「これは噂なんですが、赤の女が古代に関する場所を移動し、そこで人を助けるなど、噂があります。見た事のない物を持ち、魔獣を撃退するなど目撃は多数あり只今、行方を探っているようです。
ちなみに、その人のことは巷では 放浪の救世主と呼ばれています。
・・・これは、城の知り合いから聞いたのですが。どうやら次は城に来る可能性があり、厳重に警戒している。との事でした」
「なんで、その事を私に?」
放浪の救世主なんて恥ずかし、二つ名を付けられたのは無視して、城の情報をながした事について、考える。
罠・・・かもしれないけど、一応尋ねると彼女は
「いいえ、屋敷の件で誰も死者を出さずに解決していただいたお礼をと思い・・・あのままでしたら、あの人達は帝国に連れていかれ、どんな目にあった事かと・・・」
後ろを向いて、客に接待するルナとティムを見て微笑む。どうやら本当に私を捕まえる気はないようだった。
「あなたが何ものであろうが、私のお気にいりのこの場所を守ってくれた事は、本当に感謝しまします・・・ありがとうございました」
頭を下げ感謝を述べる。その後、食事がきて二人で食べ、たわいのない話しをして、私は二階へ、彼女は外に出た。
部屋に戻り、城の見取り図を確認し。部屋に入ってきたルナに風呂に誘われ入り、その後ベッドに一緒に入りーーー
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夜が明ける
街道には人が溢れ、店が並び。城にも兵だけでなく様々な人間が入る。
「・・・さぁ、こい。放浪する救世主よ」
銀のドレスを着て、豪華な飾りをつけたティア王女が窓の外にある城下街を見て呟き、手に持つ杖を強く握りしめた。