三十四話 凍の鳥
寝床にしていた横穴。イースが奥の扉を開けると上に続く道があった。
「じゃ、行こう」
ライトを持たせたイースを先頭にして後ろから続く。道はどうやら入り組んでいて下手に進むと、魔獣の住みかに行ってしまうらしいので彼女の言う通りに進む。
「それにしても、なんでこんな道知ってんだ? あの雪女?」
不機嫌そうに頬を膨らませ私に聞いて来るが、私だって知らない。もしかしたら村の子で迷子になっただけかもしれない。
「そうとは言えないよね・・・」
夢で見た光景が頭から離れない。今目の前を歩く子と、夢で見た子と明るさが違う。けど、顔も声も同じだし一体・・・
「誰が雪女よ・・・猫もどき」
ライトを私に向け、不機嫌顔を向ける。言ったのは私ではないので端末を前に差し出す。
「もどき!? もどきってなんだよ!! 」
「見たまんまよ、全然。猫に見えない」
また喧嘩を始める二人。これで何度目になるの? 寝床でも何度もそれについて言い争って、毎回止める身にもなってよ・・・
「こらっ、いい加減に・・・っ!?」
グワ!!!!!!
突然叫び声が聞こえ、イースの前に回って銃を構える。
「大丈夫・・・これは風の音よ」
「か、風?」
再びさっきと同じ音が聞こえ、すぐに止まる。イースは慣れている見たいで特に反応せず先に進んで行く。
「外から入ってくる風が、たまに変な音を出すの。長く入れば慣れるわよ」
長くね・・・? 彼女にどれくらい住んでいるのか、この時私は言わなかった。端末とつながる眼鏡のレンズ。私の反応が写っているのに、何故か彼女の生体反応が映らない。
暫らくして、魔獣と遭遇する事なく。私達は一つの出口に辿りついて外に出た。
「うわっ!!」
外は猛吹雪だった。一面が真っ白の景色で雪が激しく振る。風も強くて歩けない!! しかも息が苦しい!! 急いで酸素マスクを出し口に当てた。
これじゃ、進めないよ!! と叫ぶとイースは目を閉じ雪の中を進んで鈴を鳴らす。
リン
何度、何度も鈴を鳴らす。清らかな音が辺りに響く。そして音がどんどん多くなる事に雪の勢いが弱まって行く。
「これは・・・?」
いつしか雪は小ぶりになり、ついさっきまでのブリザードが嘘のように静まった。
「これで探せる、行こう」
説明もせず、勝手に歩いて行く。慌てて後を追って声をかけた。
「ねぇ、今のって!? それに、あなた苦しくないの?」
「話しは後、一時的にしか止めきれないから急ごう」
「で、でも!! どこを探したら・・・」
足を止めずにどんどん進む。滑りやすい雪道を歩き、凍りついた林を抜けた先
「あそこに、あるはず」
目の前には、巨大な雪の壁ーーーいや、かまくらと言うべきか、雪で覆われた建物が存在した。
「ちょい待ち、おまえ。あれが何か知ってる見たいだな?」
「・・・ついて来てくれたら話す」
それだけ言い、慎重に歩いて行く。なんでここまで必死なのかは気になるけど、一人にするわけには行かないから、ついて行く。
「・・・ここは山の頂上にある神殿、麓の村では昔、ここにいる神に祈りを捧げる儀式があった」
やがて雪道を歩き、扉もない神殿に進む。中は洞窟のように岩石とかではなく、人工で造られた光が鉄を照らす。これまで行って来たオーブのあった場所のように機械的だ。
「巫女が祈りを捧げ、清らかな音を鳴らす。毎年行ってきた事で村は作物を採れ自然豊かだった・・・ある時。儀式が行われなかった事で、山も村も雪と凍に包まれ、今も春がこなくなってしまった」
一本の道を進んで行く、窓もなく鉄の道は凍って歩く度に割る音が響く。そして、奥に辿りつくと広大な部屋についた。そして奥には巨大な凍で包まれた何かと、その傍に小さな凍が立っていた。
「!!っ」
突然、イースが走り出す。傍に立っている凍に近づき目を大きく開いて
「おね、いちゃん・・・」
そう呟いた。間近で見て私もこれが何か理解する事ができた、これはーー
「人が、凍っているだと・・・?」
凍に覆われた女性は、目の前にある巨大な氷塊を見つめ、両手で何かを握りしめている。女性が見つめている先を見てみるとーー
「!? 魔獣!!」
全身が青く、目を閉じた鳥の魔獣がいた。思わず叫んでしまったけど、何も反応しない。端末からは特に反応はないが情報が入ってくる
グラスバード
サイズ 大
ランク S
その場に存在するだけでも周囲を凍の世界へ変える鳥。古代人が作り出した兵器の一種で厳重管理のため、ある方法で制御を行い眠りについている。
「兵器? 制御?」
今までとは違う文章が出てきて驚いたけど、とにかくオーブはどこ?
「ちょっとまて、探査するぞ・・・反応は目の前だから・・・」
端末の画面を見つつ、私も目の前・・・眠る鳥の魔獣を見た。奴の後ろは凍しかない、だとすると・・・
「あの鳥を封印している凍の中みたいだな?」
「嘘でしょ?」
じゃ、オーブ取るためにはあれの封印破壊して、バトレって事!? 誰がやるもんか!!
「まぁ、封印解く方法さえ知らないし。別に戦うって決まったわけじゃ・・・」
バリン!!
「あ・・・」
後ろを見ればイースが凍の女性が持っていた、氷塊を床に落として割れ何かが出て来る。
氷塊から出てのは・・・イースが持っていた巫女鈴と同じ物だった。
「これで・・・やっと・・・」
手を震わせて、鈴に手を伸ばすイース。だが、手は鈴を掴む事が出来ずすり抜ける。
「え? え、え!!」
何度も触れる、両手でどう救ってもすり抜ける。さらに、口に加えようとしても結果は同じだった。
「ど、どうして・・・」
絶望して鈴を睨み付け、今度は服からもう片方の鈴を出し鳴らし始めた。
リン リン リン
持っていた鈴を鳴らしたら、何故か床に落ちた鈴も鳴り始め演奏し続ける。
「!! 相棒!! 今すぐ、そいつを止めろ!! その鈴が、奴の!!」
話しが途切れる。突然神殿が揺れ始めて変化が起こる。ピキ!! 大きなひび割れ音が聞こえ、巨大鳥を包んだ凍にひびが入る。
「まさか!!」
急いで床に落ちた鈴を拾うと、両方とも演奏が止まる。そして、氷塊のひびが広がりーー
ガシャン!!
巨大な翼を広げ、古代の兵器が目覚め始めたーー