一話 異世界へ
真っ暗な世界。
気がついたら私はそこにいた。何故ここにいるのか、どこからここに来たのかすら思い出せない。さらに、直前まで何をしていたのかすらもだ。
もしかしたら、自分は仕事の最中に死んだのか? と何度も思って自分の胸に手を当てる、腎臓の鼓動は動いておりまだ死んではいないようだった。
(とにかく、ここから出ないと……?)
何故か辺りは真っ暗なのに、自分の体が見える程度に明るさがあり、一歩足を動かしたが前に進んだ感じがしない。二、三歩と進み違和感がはっきりとした。それが怖くなって私は何時の間にか駆け出していた。
(何で!? 何で!? 出口がないの!?)
全速力で走っても、当たりは変わらず真っ暗だ。諦めずにここから出れる事を祈りつつ暫らく走り続けたが、何も変わらない。
「はぁ、はぁ……どこ、なのよ……ここは?」
走り疲れ、その場で尻餅をつき再度何も変わらない暗黒の世界を見た。どこまで続いているのか、先が全く見えないこの世界に恐怖し私は力なくその場でうずくまった。
「なんなのよ……ここ? 父さん……」
名前を呼んで、無意識にポケットの中を探ると手が何かに当たり、その触れた物を見て、私は息を飲んだ。
「これって……依頼された石……!?」
黒く卵の石見を取り出し石を見つめていると突如石から黒い光が出現した。私は目を閉じ、気がついたら、目の前にスクリーンの用な物が出現した。
「……まさか……こんな事になるとは……」
スクリーンから声が聞こえ、画面には二人の白髪の男女がこっちに背を向けて巨大な機械の前に立っていた。何故だが、その二人の声はとても懐かしく思えて黙って私は息を飲んで見ていた。
「仕方ないんだ、我々は力を持ち過ぎた……故に滅ぶ事は定めだった……」
「でも、貴方……せめて、せめて……未来だけでも」
何か深刻に話しを進める二人を見ていると、意識が遠くなってやがていくーー
○
「ぅぅ……」
頭が少しずつ覚醒し、目を開ける。目の前には空はなく変わりに石でできた天井が見え、ここが何かの建物の中と気づくのに暫らくかかった。
「ここは……そうだ!! 父さん!!」
急いで起き上がり、コートに入っていた白いタブレットと長ズボンのポケットから黒い石を取り出す。
端末の電源が入っていない為パルトはいない。さっそく電源を入れるがメニュー画面に入るまで時間がかかるらしい。
辺りを見ると岩で作られた壁と床に、私の倒れていた所の後ろには金属で作られた門と、目の前にある一本道があるぐらいだった。試しに門を調べたが開く事がなく、鍵穴も見当たら無かったのですぐに諦めた。
端末は電源が完全に入っておらず「起動調節中」と表示されたまま動かない。仕方なく、もう一つの道を慎重に進む事にした。
(罠を仕掛けている気配はない……かといって、無人ではない……最近誰かいたみたい……)
道の天井にある小さな隙間から太陽の日が入り、床に溜まったほこりについた足跡や、置かれたロウソクが見えた。それらから予想し、もしかしたらまだ誰かがいるのかもしれない為、足音を殺し進む。
道を進んで行き、罠らしき物がないことを確認して歩くと光が見えてきた。
「っ!!」
建物の外に出ると、辺り草原が広がり、い空と太陽の眩しさが見えた。ここから先、草原の先には森も見え、思いっきり澄み切った空気を吸ってみた。
「はあ~ここどこなの?」
私がつぶやいた時、ポケットに入れていた端末がバイブで揺れる。急いで出して画面を見ると。
「あぁ? 相棒? 一体ないが……つかぁ、ここどこだ?」
「パルト、やっと起きたの!! ねぇ、父さんに連絡できない!?」
「おいおい、こっちはなんだか知らないんだから説明ぐらい……ん? おい、何か知らないとこからメールだぞ?」
画面にメールのマークが浮かんで勝手に開いた。「読み上げるぞ」とパルトが言い、メールの内容が読み上げられる。
「アン。始めまして。
私は君の父上の知り合いの者で、Eと言う者だ。急な事で驚いているだろうが説明に入ろう。
まず、ここは「ロスト」と言う名の、君がいた世界とは異なる「異世界」だ。
かつて世界を覆うような超古代文明が存在していたのだが、その文明を支えたエルフ人が滅び何千年も過ぎ去った世界。
今の人々はエルフ人の用な文明を作る事は出来ず、自らの文明をわずかだが築きき上げている。
そこで、君の仕事は……」
そこまで聞いて「やめて」とパルトに言って中断させる。
Eと言う人物に心辺りもなく、父さんが依頼したはずの依頼をなぜ、知らない人物が変わりに私にメッセージを送ってきたのか……頭が混乱するばかりだった。
「大丈夫か?」
「ええっ……大丈夫よ……どうなってんのよ……教えてよ、父さん……」
自分でも情けないくらい弱気になりつつ。体の震えを抑えて、パルトに続きを読むように言う。
「君がその世界でやる事は、太古に失ったエルフ人達の宝「オーブ」を見つけ欲しいのだ。既に君は五つの内「黒のオーブ」を見つけいるため、残り四つはこの世界のどこかに眠っており 「白 青 赤 緑」のオーブを手に入れてくれ。
そして、この端末は私との連絡手段の為無くさないでくれ。さらにこの端末は君が必要とする資材をそちらに運ぶ機能があるため、有効に使ってくれたまえ。使い方は、君の相棒に伝え資材名を私に転送してくれたら可能だ。詳細な説明は端末内にあるため確認してくれ、では健闘を祈る」
メールに書いてある事を完全に信用したわけではないが、書かれた通りにする、普通だったら本気にしないがこの状況を考えると嘘とは言い難いた。試しにパルトに「アイスクリーム」をお願いする。
すると、私の目の前小さな光が生まれ。何かが足元に落ちた。
「驚いた……本当に出てきやがった!!」
「あ、アイスだ……」
店でよく見かける、プラスチックの容器に入ったソフトクリームのアイスを拾い開けて食べる。確かに甘くて冷たく、本物だった。
まだ夢か何かを見てるのかと思っていたが、口中に広がる冷たいクリームが現実だと物語っていた、これは夢ではない現実だと。
他にも、何か出るか試しに頼んだ。
バイク ライフル銃 手袋……
メールを送った数十秒後にそれらが目の前に出現して、ようやく私はこれが現実だと諦めて認めるのだった。
ブブブゥゥゥ!!!!!
岩でできた建物の周辺を、バイクに乗り走る。試運転で操作したが、特に問題なく動いてくれた。
「どうだい? ちゃんと動くか?」
「うん……移動は大丈夫と……」
一旦バイクを止めて。端末を出し地図を出すように言う。すると「マップ」と表示されたアプリが開く。
現代地に表示されている▼マークと重なるように「古代の建物」とさっきまで中にいた建物の名前が出た。
「いま現在いるのが見た通り、古代の城……真後ろにある建物の前。そんでここから人がいる所は……ここだな」
マップをが動き、ここから東南方向に「ガイスト」と名前がついた、城のようなマークと一緒に書かれた名前を見つけた。まずはここで情報を集めようと、進路を決めたのだが正直かなり不安があった。これまでの仕事とは違い全くの未知なる世界でたった一人でいることの寂しさと不安がかなりあった。
「何て顔してんだよ? おやっさんからの以来だろうが? ならさっさとこんな所からおサバラして、帰ろうぜ?」
「パルト……うん、そうだね!!」
相棒に元気つけられ、深く呼吸をし目を閉じる。
頭の中で夢で見た光景を思い出す。あの二人は何ものだったのか? どうして私がこんな所に来てしまったのか? 様々な疑問を抱えるが今は、前に進むしかない……
古代の建物を見て別れを告げ。バイクのアクセルを握る…… あ、そうだ!!
「て、おい? どうしたんだよ?」
バイクのハンドルを離し、パルトにある物をお願いし私の目の前に光が出てそこからフルフェイスのヘルメットが出てきた。
「おいおい……こんな所でそんな必要かよ?」
「いいじゃない、怪我しなくて済むしさ!!」
相棒に呆れられながら、ヘルメットをかぶる。これで忘れ物はない……それじゃ!!
アクセルを回し、木々が生えてなくバイクでも通れる一本の道を走り。私達の異世界での旅がここから始まった。