二十六話 三度目の牢獄
ガタン ゴトン
馬車が揺れて積まれた荷物が激しく動く。鉄格子の窓の外は今にも雨が降りそうで今の私の気分みたいだ。
「・・・あ~もう最悪だ」
手元に端末はない。狭い馬車の中には私以外の子共や大人が乗せられている。そして外にいるのは紅い鎧を来た連中だった。
「どうしてこうなったんだっけ?」
○
ドラゴンに陸まで送ってもらい数日後。西に向いバイクを走らせていた所だった。
「次のオーブはどうやら国境にある遺跡みたいだ。帝国も王国の軍隊がそこら中にいるみたいだな、こりゃ」
「うげ、どっちも? 勘弁してよ・・・」
空は曇って太陽が顔を出さない。砂利道でかなりバイクが揺れて気分が悪くなる。
「しかも遺跡は帝国が砦にしてるからな、潜入しかないぞ?」
「そうだよね・・・!?」
シュ サク!!
突然、目の前に何かが飛んでき来て急ブレーキをかける。地面には一本の矢が刺さっていた。
「敵!!」
バイクから下り身を低くした。すると、何かがバイクに刺さる音が次次と鳴りタイヤが破れて空気が抜ける。
矢がまるで雨のように振り、私の周りの地面に刺さっていく。
「これじゃ反撃できない!! 」
「それだけじゃねぇ、囲まれてんぞ!!」
すると、私の黒コートの端に矢が突き刺さり。反対側から紅い鎧達が弓を構え近づいて来た。
すぐにつかまり、馬車に乗せられどこかに連れて行かれ今に至る。
黒のコートや持ち物を取られ、白のシャツに長ズボンの姿でいた。ちなみにウィッグは取られていない。
「さて、どうなる事やら・・・」
何時の間にか外は雨が振り、大きな建物が見えてくる。馬車が一度止まり門をくぐりそこで下ろされた。
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「将軍閣下」
一人の兵が、眼鏡をかけた男に膝をつく。部屋は持ち主を反映してか、無駄な物はなく質素で職務をするために必要最低限な物しかなかった。
「国境付近にて、怪しい者を複数見かけ捉えました」
「ほぅ? もしや王国の軍の者ですか?」
眼鏡をした男ーーマーレは兵の言葉を半分聞き流し外を見るが、その視線はどこか別の方を向く。
「いえ、一部の者はそうは見えないのですが・・・一人だけ妙な者が」
マールがその言葉に眉をひそめる。彼の頭の中には自分を追い詰め、さらに綺麗な銀髪をした女性の姿が映る。
「女一人なのですが、見た事のないものを持ち国境付近を馬より早く動く物に乗っていたので、取り押さえましたが・・・」
「ちょっと待てください。その女性の髪の色は?」
はやる気持ちを抑え、兵が赤い髪をしていると答え確信する。すぐにここに連れてくるようにいい兵は下がって行った。
「ふふふ・・・まさか、ここで合うとは。これは運命と言えるのでしょうか?
アン?」
懐から一本のナイフ。アンから奪った異世界のナイフを愛おしそうに見てマーレは薄気味悪い笑を浮かべた。
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「もう、夜か・・・」
薄汚い牢屋に入れられ、数時間ぐらい経つ。雨は振り続け窓に雨水と風が入り込み、唯一の明かりであるロウソクが揺れた。
そういえば、この世界に来て牢獄に入るのは三度目だった事を思い出した。
一度目は城の中で、二つ目はルナ達を助けに行った時を思い出した。あぁ、懐かしい。
「なぁ・・・何してんだあんた?」
ふと声をかけられ顔を上げると、誰かがいた。薄暗いが長い黄色の髪が見える。声は女性なのは確かだ。
「まぁ、最近の事を思い出してて・・・」
「ふぅん? こんな時にかぁ・・・」
何か思わせぶりを言って私の隣りに座る。よく見たらとても端正な顔をしてて年は私より上のようだった。
「これから私らどうなるか知ってる?」
彼女の質問に素直に知らないと答える。無理もないか とつぶやいて目を合わせる。
「まぁいいか、今のうちに教えてあげとくよ・・・私たちは」
と言いかけた所で牢屋が開けられる。カンテラを持った紅鎧が「赤い髪のやつ、こい」と短くいい、理由を聞こうとしたけど答えない。
仕方ない と諦め、話しの途中だが黄色髪のお姉さんに別れを伝え出た。
階段を上がり、明るい所に出る。さらに奥に進み扉を進んで行くと。一つの部屋に辿りつく。
兵は丁寧にノックし中から許可を得て入る。何故かその声には聞き覚えが・・・
「やぁ、久ぶりだね・・・アン?」
部屋の中心にある椅子に腰掛け、まっすぐ私を見つめてくる男・・・
村を焼き、炎を出したーー
「マーレ・・・」
目の前にいる男の名前を出した。
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雨の中、砦から離れた森の中。
「内部に潜入した者からは?」
フードの下から赤い髪をした男が、仲間と話す。謎の一団はそれぞれが武器を携帯し、服装から帝国でも王国の兵ではないのが分かる。
「ボス、どうやらまた誰かが連れて行かれたようです」
一人がボス、赤髪の男に話しかける。話しを聞いてボスは次第に表情を変えて砦を睨みつけた。
「全員に伝えろ、砦に攻撃を仕掛ける。急げ」
強い雨の中。それぞれの思惑が動き、決して忘れられない夜が始まろうとしていた。