十二話 赤き兵
今だ炎が家を焼き、それが明かりとなって村の悲惨な状況が伺える。
作物は荒らされ、家畜小屋には一匹も何も残ってはいない、さらに村人が村の中央に集められ、彼らを武器を持った盗賊が見張る。
そして、唯一焼けずに無傷に建っているレンガの家の中。
「おい長さんよ……いい加減、俺らの言う事聞いた方がいいぞ?」
体格の良い、鎧を着込んだ男が。椅子に座る茶ひげを生やし口を閉ざす老人に話しをかけるが、何も反応しない。
「くそ、無視かよ……」
大男が赤い頭をかきむしり、ため息をつくと後ろから誰かが近づく。
「こらこら、ダン……そう脅す物ではないよ」
眼鏡をかけた、紅のマントを着た男性が大男、ダンをたしなめて村長の反対の席に座る。
「村長……すみません……こんな手荒なまねをしてしまい……」
マントの男は丁寧に謝るが、返事はない。
「いや……私の部下の……いや正確には、そこに立つダンの部下が血が荒くて我々ではどうも抑えきれなくて……あ、いや。今は厳命して待機させてますから今の所は大丈夫ですよ……今の所は、ね」
わざと最後の部分だけ強調し、さらに話しを勝手に進める。
「この村とそこにある大地の神殿には、深い関わりがあるのは既に分かっています。あの神殿は古代の力の一部が眠る所で、あなたがたはその力を手にする方法や、神殿の開け方を知っているはず……それを教えていただきたいのです」
「……それだけは、いかん」
ここで始めて村長が口を開き、意思をこもった目で前を見る。その目に恐れずローブの男は耳を傾けた。
「あの神殿は、古代の神々が次の……が来るまで封印されるべき物……何も知らぬ者が手を出せば、世界は終わるとも言われているのだぞ」
力を込めた言葉にダンを背筋に嫌な汗を流し、椅子に座る彼に顔を向けた。
「お、おいマーレ……」
「ダン……忘れた訳ではないでしょ? 我々がここにきた理由を……我らが帝国……皇帝陛下の命ですよ」
マーレの赤いマントとダンの腕章には斧と獅子の絵が描かれており、これが彼らの言う帝国の紋章だった。
○
「うわ……すんごい熱い……」
懐中電灯片手に横にいるテレの案内を受けながら森を進む。歩き始めて既に一時間ほどになるが、こんな歩きにくい所を走って来たのかこの子……
「大丈夫?」
テレが心配そうに私に声をかけてくる、今の彼女はであった時に麻服ではなく。茶色の長ズボンに運動靴。白シャツと緑の長袖の着せ懐中電灯を持たせている。
さすがに肌を露出させたあの服であるかせる訳にはいかない(最初は服と電灯に不審がっていたが今は特に何も思ってなさそう)
現代子だが、年上として心配をかける訳にはいかないので「大丈夫」とだけ伝えた。
「もうすぐ、つくから……あと、その……」
「分かってるって……髪はバレないようにするよ」
今の私の髪は白ではなく、いつものつけ毛で赤く長いのにしている。なぜここでかぶる必要があるかと言うと彼女からそう言われたからで、理由は村長が知っていると。
いろんな謎だけが残るけど……
「まずは村を解放しないとね」
段々進むと、木々の間から明かりが見え。村が見えて来たーー
○
「くそ!! なんだよ、酒がまじぃぞ、おい!!」
酒瓶を片手に、紅い鎧を着た金髪の男が叫ぶ。周りの兵も彼と同じ酒を飲み、食料を漁る者もいた。
「たく……大層な命令だから、殺れると思ったのに……それが、こんなちんけな村を包囲だあ!!」
瓶を叩きつける音が鳴り、村人は怯え声を上げる。それに反応してか男は剣を引き抜いて村人達に近づく。
「おいおい、アイツまずいぞ?」
「誰か止めろよ!!」
「馬鹿いえ、酒飲んだあいつ止めた奴がいくら切られたと思ってんだよ?」
どうやら男の素行の悪さ伝わっており、誰も止めない。そして剣を軽く振りながら
「村の連中が抵抗してきたから、仕方なく鎮圧した……仕方なく、だ」
醜い笑を浮かべ、剣を振り上げ近くにいた若い娘に剣が刺さろうと、悲鳴が上がる。
パシュン
「あ、あぁぁぁぁ!!」
足を抑え、血を流す倒れる金髪の男。殺されかけた娘も、周りの村人も兵士も何が起こったのか理解できず、ただ男の悲鳴を聞くしかなかった。
○
「まずは、馬鹿を一体……」
スコープを覗き、男に危うく殺されかけた女性を見て息をこぼす。
「今……何をしたの?」
私を見つめるテレが、状況をつかめていない為。簡単に女の人が殺されかけた事を伝え、銃の弾倉を交換する。
さっきのは実弾だったが、交換したこの弾は麻酔の奴で血が出る事はない。なので……
「全部当てる!!」
距離があるため私の声は聞こえない。そのため銃口を動かし、スコープで狙いを定め、兵の鎧が無防備……首とかを狙い沈黙させる。
「一体、何をしてるの?」
流石にしびれを切らしたか、少し強めの口調で私に話しかけてくる。正直、集中の阻害になるため、端末を出しパルトに双眼鏡を出させ彼女に覗くよう言い再び狙撃に入る。
「え? なんで? 見える? !? 人が、倒れてく……?」
始めての双眼鏡に驚き声を上げ、さらに狙撃で倒れる兵を見て戸惑い声を出すテレ。
うん……もうここで狙撃して正解だった。こんだけ声出したら普通気づかれるもんね。
「あらかた片付けたけど……ん?」
大分兵を減らすと、今度はレンガの家から誰かが出て来る。茶色のひげを生やした老人で、後ろには体格のいい男が斧を持って立っていた。
「おい!! 攻撃を仕掛けている奴!! 聞こえるなら、攻撃をやめて、出てきやがれ!!」
こっちにまで聞こえる程大声を上げ、老人の首の斧の刃を向ける。人質か……
「!? 村長!!」
テレが突然立ち上がり走ろうとするが、咄嗟に彼女の手を掴んで止める。これは罠だ……明らかに誘っている……
「離して!! 村長が!! ……おじいちゃんがぁ!?」
「落ち着いて、これは罠だから!! っ!!」
殺気
咄嗟にテレを抱き前に倒れる。さっきまでいた所に炎が生まれ使っていたスナイパーライフルが熱で溶けていく。
「気づかれましたか……」
両手に炎を出した、紅いマントを羽織った眼鏡の男が私達立って殺気を出す。この殺気の質は、元の世界では味わったのと格が違い……体中から嫌な汗が止まらない、そして体が震える。
「抵抗はやめてくださいね……でないと、村長さんの首がなくなりますので」
「くっ!! お前ら!! 何があって私達の村を襲った!?」
怒りを込めた目でテレが、男を睨み付ける。どうやらあの盗賊……いや、兵達のリーダーがこの男のようで間違いないようだった。
人質を取られ、少しでも動けばさっきみたいに炎を飛ばしたり、最悪村長の命が危ない……
ここは……もう……
「さて、無駄な抵抗はせず。このまま一緒に村まで来てもらいましょうか? 女性には手を出したくはありませんのでね?」
「つまりは降参しろってね……分かったわよ」
大人しく両手を上げる。テレは唇を噛み締め涙を浮かべ下を向いて、地面に雫が落ちる。
「ありがとうございます……さっそくですが……兵達を殺したのはあなたですか?」
さっきより強めの殺気を放ち、体が震えるが表に出さないよう自分を抑えて、答える。
「大丈夫よ……ただ眠っているだけだから傷なんて負ってもいない……一人除いて」
「そうですか、ではどうやって行ったのか詳しい話しは連行した先で……」
男の殺気が軽くなり、周りを見る余裕ができた。男が近づき、私の視線は近くにある火……まだ弾が残っていたライフルだった
バァン!!
「っな!?」
残っていた弾丸の火薬に引火し、男がひるんだ隙に腰のナイフを抜き取り一気に近づき振る。
「く!!」
ナイフを持つ私を見て、また炎を出し投げてくる。ここで距離を離したら奴に逃げられる!!
炎をギリギリ躱し、髪に少し当たる。燃え移らない内にウィッグを外し男の首元に刃を押し付けた。
「!!??」
木に燃え移った炎で、私とコイツの顔がはっきりと見えるが、何故か男は私を……私の銀髪を見て、まるでありえない と言った顔をして固まった。
「そんな……その髪……王族の、魔法使いの証……あはは……」
そんな事をつぶやいた後、何か可笑しいのか。いきなり笑い出し始めた。
「なんて……なんて日だろうか!! まさか、古代の力を知る為にきた所で、こんな奇跡があると言うのか!! 素晴らしい!! そうか、これが奇跡と言うのですか!! これがもしや運命なのか!!」
いきなりの変わりように、手に握るナイフの力が緩んでしまい
シュ!!
「くっ!!」
突如、手に手刀を叩き込まれナイフを落とし、奪われてしまが反撃がない。
「今日は、あなたとの出会いを記念して……引き上げます……村長は解放し、我々はここらか出ていきます」
奪ったナイフをまるで赤子を大事に扱うように持ち、一礼しゆっくり下がって行く。その顔は、まるでこれ以上ない幸福に満ちていた。
「それから……申し遅れましたが。私はグリーディア帝国。大将軍……マーレと言います。今宵あなたに出会えた事に感謝の意を現したい、……よければあなたの名を伺ってもよろしいでしょうか?」
「……アン、よ」
「そうでか……アン、アン……素敵な名だ……その名前、私の魂まで刻ませていただきます、ではいつか、また」
眼鏡男……マーレはそう言って静かに、闇の夜の中に姿を消した。
○
やがて夜が明けて、紅い兵達の動けない者の一部は捕まえ。村人には誰一人も死者がでず、事なき終える。