九話 潜入
「おい、地下の奴らだが……明日の朝にここから出すらしいぞ?」
「本当かよ? なんでまた急に……」
剣を腰に差した兵が声を出しながら私が入ってきた窓を閉め、部屋から立ち去って行くのを天井裏の隙間から覗き込み先に進む。
侵入した部屋は三階の空き部屋らしいところだったから気づかれずに済み、天井の一部をくり抜いて、暗く蜘蛛の巣が張っている天井裏を慎重に進む。
(さっきの話……誘拐された人達は地下って言ってたけど……そう簡単にはいかないかぁ……)
一つは、解放した後で恐らく動けない者もいる可能性がある為。助け出し逃げても戦闘力のある兵に直ぐに捕まってしまうのがオチだ。それじゃ、意味がない。
二つは目は戦力。 私一人で屋敷にいる人間を気絶させたところで、もし外部から異常がある事がバレれ、増援を呼ばれれば最悪。
トカゲ相手とかには遠慮なくやったけど、人間相手には麻酔以外打ちたくなんかない。
最後は時間。朝に連れ出すと言っていたが、端末で確認すると現在の時刻は九時と少し過ぎ。
正確な時間は分からないが、太陽が登るぐらいだと仮定して……
タイムリミットはおよそ八時間。
まずは、地下を探してルナを見つけないと。
「待っててよ……」
ここに居ない人物に励ましの言葉をかけ、蜘蛛の巣を払いながら先に進む。
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「ルナ……ごめんね……私が、病気だから……働かせてしまって……」
何度も娘であるルナに、小さく弱弱しい声で謝るが
「……」
ルナは何も返事もせず、ソルに抱きしめられ涙を流す。
突然、近くから音がし何かが近づいてきて、牢が開けられてた。
「おら、大人しくしてろ!!」
突然ルナが入っている牢に何か放りし出される。
「ぐ、つっ!!」
兵の持つカンテラで入ってきた物が照らされ……傷だらけのティムが横たわっていた。
すぐさまルナは寄り添い、介抱し、兵は何も手当もせず出て行った。
「ティム!!……どう、して?」
「る、ルナが心配だったから……悪い、やつらのところにいったら……ここに」
無茶をした彼を見て、口元が緩むが直ぐに消える。自分の為に動いてくれた事の嬉しさがあったが、どうせすぐにでも自分達はどこかに連れ去らせるのだから……
膝枕をして頭を撫でながら、天井に隙間から見える月を目に焼き付け
「アンさん……」 とつぶやいた時。
屋敷全体が突如大きな音を立てて揺れるのだった。
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「な、なんだ!?」
「に、二階の方で火事だ!!」
突如、屋敷が揺れ一部が燃え騒ぎ始める。火を消そうと水を持って消化するが勢いが強く消せず高価な調度品が燃えていき、それらを守る為に走る物もいた。
「火が一階にもあるぞ!! 逃げろ!!」
と一人の軽い鎧を着た兵が叫び、人ごみをかき分け進み誰も止めない。いや、一人の人間に意識する余裕がないのだった。
「やばっ……やりすぎた、かな?」
と、つぶやき変装し部屋に入って行くアンに誰も気づかずに、兵や従者達は防火に忙しく走り回るのだった。
「お!! もしかしてビンゴ?」
部屋の隅には地下に続く階段と、扉があった。