女子高生 玄倉新・15 訪問者
「マジ、信じられない。どうしてああいうことしちゃうかな」
顔を合わせるなりこの態度。不満いっぱいの星太くんの、不機嫌なそのわけは、おそらく。
「チュウリィのこと?」
聞いてみた。
「決まってるだろ」
とのお返事。
自分の体を勝手に使ったチュウリィのことを怒っていた星太くんは、シュラハが彼を囚われの身から救い出したのがよっぽど気に食わないらしい。
「だって、シュラハは探してるって言ったじゃない。やっと見つけ出したんだから、連れ出すのもムリないと思うよ。見つけた時、チュウリィひどい有様だったし」
「あんなの。アイツが勝手にハンストしてただけだ。ウェンバクは三食、豪華な食事を持って寄越したし、あの部屋の中で風呂だって何だって自由に使えるし。メシを食わなかったのも、着替えたりヒゲ剃ったりをサボってたのも、全部アイツのワガママだろ。ボロっちくなったのは、アイツの勝手なんだよ。同情してやることはないんだ」
むむ。そうなのか。
「半地下で、外の空気が吸えないのと、光が入らないの以外は、生活に困らないようウェンバクは気を遣ってくれたぜ。女の世話までしてくれたからな」
むむむ。それは。
「そうなんだ。へえ」
星太くん、ヤラシイ。
「ちょっと待てよ! 何でそこで僕を見下したような目で見るんだよ? 女の世話されたのは、チュウリィであって僕じゃない!」
夢の中で楽しんでいたんなら、同じことだと思う。
「それに、チュウリィだってその女たちは全部追い出してたし!」
え?
「当たり前だろ? ウェンバクのお下がりの女なんかあてがわれたって、嬉しいもんか」
ううむ。ちょっと微妙なコメントだけど。
「ふうん。本当?」
「本当だよ。決まっているだろ」
まあ、いいか。
「まあ、そういうことなら」
「そうだよ。当たり前だろ」
額の汗を袖で拭く星太くん。
「何で、チュウリィの行状を僕が言い訳しなくちゃいけないんだよ」
不服そうではありますが。それは、二人のキャラが果てしなくかぶっているからではないでしょうか。
星太くんは、自分とチュウリィは別人格だって言うけど。まあ、それはそうなのだろうけど。
私だって、あの時。あの、チュウリィに犯されそうになった時、それは肌で感じたけれども。
星太くんは星太くん、チュウリィはチュウリィで。チュウリィには、星太くんが私に感じてくれているような親しみの気持ちなんか全然ないとか、そういうことは分かっているけれど。
それはそれとして、やっぱりこの二人のキャラはかぶっているのであって、チュウリィのすることを星太くんと完全に切り離してはどうも考えられないのであります。
「新も新だよ。チュウリィのことはあのまま放っておけ、ってあんなに言ったのに、助けちゃうんだもんな。ヒドイよ、お前」
ホラ。星太くんだって、私とシュラハのことを同じように見てる。
「けど、どうやって見つけたんだよ。お前が手助けしたんだろ、どうせ」
唇を歪めて不満を表明する星太くん。手助け、って言っても。
「シュラハは、チュウリィをすごく心配してたから。私の記憶で、チュウリィを連れて行ったのがお兄さんたちだ、ってことが分かったから。魔術庁の建物まで出かけて行って、チーリン、っていったっけ? あのお兄さんが出てくるまで張り込んで。見つけてから、後をつけたのよ」
私はシュラハの行動を説明する。
「うわ。すご。刑事かよ、お前」
枕を抱いて、呆れた顔をする星太くん。
だから、私じゃありません。シュラハだってば。私だって、あんな行動真似できないと思う。
「それで、あの建物を見つけて。しばらく様子を見て、きっとここだって当たりを付けてから、チーリンって人がいないスキを見て建物に入ったの」
チーリンという人はやり手の魔術師っぽいから。実戦経験の少ないシュラハは、直接当たるのを避けた方が無難だと思ったのだ。
毎日泣いていた割に、確かに彼女は冷静だと思う。見習いたいところだ。
「中には、ウェンバクって人と女の子しかいなかったから簡単だったわ。ウェンバクって人は、シュラハたちの言葉が話せたし」
シュラハはとにかく短剣を構えて中に入って、「おとなしくしろ」って叫んだんだ、自分の言葉で。チーリンたちの言葉では、何と言ったらいいのか分からなかったから。
手にした短剣で、剣呑さは理解してくれるだろうと思ったし。
そうしたら、ウェンバクってイケメンのお兄さんがすぐに立ち上がって、騒ぎ立てる女の子たちをおとなしくさせた。
「キミがウワサのシュラハちゃんか。なるほど、かわいいなあ。チュウリィのことは捨てて、お兄さんと付き合わない?」
というのが女の子たちを鎮めた後の第一声だったが。
「アイツはそういうフザケたヤツなんだよ。何、新、アイツに口説かれたの?」
星太くん、面白くなさそうな顔と声。
だから、私じゃなくてシュラハがね。くどいけど。
イケメンのお兄さんは、とりあえず短剣でほんのちょびっと傷を付けてあげたらおとなしくなりました。って、シュラハ、こっちの世界だったら傷害罪?
「それで、チュウリィの部屋まで案内させて。後は、一緒だったから。同じ夢を見てるはず」
「ふうん」
星太くんはつまらなそうに壁によりかかる。
「ホント、余計なことをしてくれたよ。アイツ、シュラハと一緒で喜んでるよ。ウェンバクも、チーリンから留守を託されていたんだろうに、頼りにならないの」
「うん。あの人は、こうなったらなったで仕方がない、って思ってたみたいだった」
私は、刃物を突き付けた後のウェンバクの態度を思い出す。手の甲にちょっぴり傷をつけたら、女の子みたいにキャーキャー悲鳴を上げて。それから、あきらめたように肩をすくめた。
「ま、いいや。オレもこの作戦には飽き飽きしてたんだ。オレばっかり地味な監視をさせられて、つまらないしね。だけど、キミ」
軽いお兄さん、という感じだった表情が。マジメになった途端、こちらを突き刺すようなまなざしに変わり。
「キミは『掟に縛られた者』なんだろう? こんなことして、部族の掟に反しているとは思わないのか。キミたちは、掟を守るためなら自決も厭わない誇り高い民だろう」
その言葉は、シュラハの胸を少しえぐった。でも、シュラハは胸を張って言った。
「私は『掟に縛られた者』。だが、その掟は形だけのもので、実を伴ってはいない。その形も、私はじきに実に添った正しいものに変えてみせる。だから、私は天に何ら恥じることはない」
イケメンのお兄さんはもう一度ため息をつき。
「ふうん、アイツは甘ったれだから、キミみたいなシッカリしてるっぽい子が合うのかもね。分かったよ、いいよ、アイツのところに案内するよ。オレは、起こるかどうかわからない戦争よりも、自分の安全の方が大事だ」
そう言って、シュラハをチュウリィのいる部屋まで連れて行ってくれたのだ。
「掟に縛られた、って」
一瞬、星太くんは聞きたそうな顔をした。それから首を振ってその想いを振り落す。
「いや。聞かない。聞かないぞ。僕の記憶から、アイツの聞きたいことを知られるようなマネは絶対にしない。絶対言うなよ」
星太くん。あなたは、その強い意志の使いどころを間違えていると思う。
「とにかく、シュラハにもこれ以上チュウリィに関わるようなことはさせるなよ。フッちまえ、あんなヤツ」
ムリだと思いますが。
シュラハは、チュウリィのこと大好きだし。もう、家まで連れて帰ってるし。
「まあ、いいや。シュラハの家にはあの、師匠とかいうヤツがいるからイチャイチャできないんだろ。だったら、僕がアイツをうらやましがらせてやるよ」
私の方に身を寄せて来る星太くん。
え。
「キスしようよ、新。僕のこと、好きなんだろ?」
うわ。こういう時の星太くんは、本当に悪魔みたい。
「ね。イヤじゃないだろ?」
肩を抱かれる。
抱き寄せられる。近付いてくる甘い声。
「新。好きだよ」
ちょっとウソっぽいと思いつつ。その声にあらがえない。
だって私は、星太くんを。
星太くんと過ごす時間を。
好き、だし。
唇が、重なる。私の胸に、星太くんの手がかかる。くすぐったいような、電気のような感触が私の体を走って。
「さかってるんじゃないわよ、ガキ共」
という、落雷のような声がした。
え。
私たちが唇を離し、目を開けると。
病室の戸口に、見たこともないキレイな女の人が。立っていた。




