女子高生 玄倉新・14 遠い気持ち
「え。じゃ、チュウリィは今、お兄さんたちに閉じ込められてるの」
桐野くん、改め星太くん(本人の希望により呼び方を変えた)がその話をしてくれたのは、あの事件が起こってから数日してからだった。
彼はチュウリィに対してよほど腹を立てているらしく、二、三日はその名前を出すのも嫌がっていたのだ。
「そう。二次試験の次の日から、ずうっとね。いい気味だよ。僕はチーリンやウェンバクの味方だね。あんなヤツ、一生あの穴倉に閉じ込めておけばいいんだ」
穴倉、という言い方からして、監禁場所の環境は悪そうだ。
「でも、かわいそうじゃない?」
「ほらまた。新はいつだってアイツに優しいんだ。何でだよ。犯されそうになったの、忘れたわけじゃないだろ」
それは、忘れたわけじゃないけれど。あんな強烈なことそうそう忘れられない。
だけど、夢の中のチュウリィと、あの時のしかかってきた男のイメージが今一つつながらなくて。
チュウリィに対して、悪いイメージが持ちきれないでいるのも、確か。
「何とか出られないの。チュウリィ、魔法使いでしょ。シュラハはまだ探してるよ」
「だから。チーリンって兄貴も魔術師なんだって。それも、チュウリィのヤツに負けず劣らず性格が悪くてさ。抜け出す術が使えないように、徹底的に塞いでるんだ」
そうなのか。
私は、シュラハやチュウリィが夢の世界で使っている魔法の仕組みはよく分からないけど。
星太くんは少し分かってるっぽいし、彼がそう言うならそうなのかな、って思う。
「それ、どこだか分かる? 教えてくれれば、多分シュラハがそこを探すよ」
私が言うと、星太くんはすごくイヤそうな顔をした。
「新、お前バカじゃないの。僕は、アイツが喜ぶことは何一つやってやりたくないんだよ。シュラハが助けに来たら、アイツ大喜びじゃないか。誰がそんなことしてやるもんか」
思いっきり眉間にしわを寄せる。
「僕の体を勝手に使いやがって。絶対、許すもんか。アイツの夢をまだ見るのだって腹立たしいんだ。お前さあ、これ以上シュラハが何をやってるとか、何を考えてるとか、絶対僕に話すなよ。アイツが何より知りたがってるのがそれなんだ。僕はさ、そういうことアイツに教えたくないんだよ」
って。復讐が姑息な上に、執念深いなあ。
まあ、いいけど。そういう、見た目と違う全然爽やかでないところも、まあ好きと言えば好きだよ。
「だから、アイツのこともこれ以上教えない。まあ、ホントのところ僕もアイツも、あそこが都のどのへんなのかよく分かってないんだけどね」
肩をすくめる。教えたくないとか言って、結局知らないんですか。
まあいいけど。それだけ怒ってる、ってことはよく分かったから。
それに、チュウリィをさらったのがお兄さんたちだってことが分かれば、シュラハは彼女なりにまた動けそうな気がするし。
シュラハのことを考える。星太くんがイヤがるから、これ以上口に出しては言わないけれど。
彼女はとてもチュウリィのことを心配していて。毎夜、天幕の中でひとりになると泣いてしまうくらいで。
シュラハが何より悲しいのは。チュウリィが残してくれた、三枚の綺麗なドレスを持ち帰れないことなんだ。
シュラハは誓いに縛られていて、その誓いを果たすまではあの戦士の装束以外を着てはいけないことになっている。チュウリィのお屋敷で、こっそりあの服を着てみたことは、部族の仲間には絶対に内緒。言えば、死刑になる。本当はそのくらいの大罪で。
だけど、チュウリィがそれを買ってくれたのが嬉しくて。綺麗な衣装も嬉しかったけど、それ以上に。チュウリィに優しくしてもらえるのが嬉しくて、シュラハはつい、部族の掟を破ってしまった。
掟を破ったのは悪いかもしれないけど、女の子としては無理もないよね。シュラハが死刑になるほど悪いことをしたとは、私は思えないんだ。
だけど、そういうわけだからシュラハはあの服を天幕に持って行けない。
でも、気になるよね。せっかくチュウリィが買ってくれて、シュラハに、っていなくなる時も残してくれたのに。あのお屋敷に置き去りのまんまで。
何だか、チュウリィの気持ちも、幸せな思い出も、全部置き去りにして来たみたいで。
最初にもらった、想いの通じる双子の玉石を抱いて。もう何をしても反応してくれないその冷たい石を抱きしめて、毎晩泣いている彼女。
だから、気持ち分かるから。シュラハのために、チュウリィのことが少しでも聞ければ、と思って頑張ってみたんだけど。
ごめん、シュラハ。なんか星太くん、思った以上にチュウリィのこと怒ってる。
私とシュラハには、そんな感情的な確執はないんだけどな。何となく、同一人物のような気分さえしてるんだけど。なんで星太くんとチュウリィはこんなにこじれたかな。ああ、もちろん自分の体を勝手に使われた、っていうのはイヤだと思うけど。しかも、それでやったことが強姦未遂だし。ひとつ間違えば、星太くん犯罪者にされちゃうとこだったもんなあ。
「元々気に食わなかったんだよ、アイツ。こっちの要望は全然聞かないくせに自分の頼みばっかり押しつけて来るしさ。無視すると逆ギレだろ。付き合いにくいんだよ。サイアクだよ、サイアク」
というのが星太くんの言い分です。チュウリィの言い分は、いないから聞けません。
シュラハ、聞いといて。
「もうそんな話やめようよ。そんなことよりさ、退院したら一緒にどこに行くか考えよう」
退院したら、二人とも部活が忙しいと思うんだけど。夏の大会も近くなるし。それに、星太くんはリハビリもあるんじゃあ?
そのことを言うと、星太くんは嫌そうな顔をした。チュウリィの話をしてるのと、大して変わらない顔だった。
「いいんだよ、そんなこと。まだ先だし。細かい予定が分からないし。後で考えれば」
「後でって。もう、リハビリの日程とか出てるんじゃないの? どのくらい時間がかかるのかとか」
簡単に済めばいいけど。もし、時間がかかるようだったら。
「ウルサイな」
星太くんの顔が険しくなる。ヤバ。本気でキレている。
「黙ってろよ。関係ないだろ。口出して来るんじゃないよ」
「それは、言いすぎだと思う。私たち、」
と言いかけて、ちょっと迷う。私たちの関係は何なのか。お互い好き、って言ったり、キスしたりはしていても。彼女は作らない、と公言している人にとって、私はいったい何なのか。
「……友だちでしょ」
と、引き取った。そして、
「星太くんがイヤなら、今はこの話題はやめるけど」
と続ける。
星太くんはまだ不機嫌な表情ながらも、怒鳴るのはやめた。
今は、やめるけど。でも。いつまでも、見ないフリは出来ないと思うのに。
私には、星太くんが自分のケガから目をそらしているように見える。入院してからバスケのことを一言も言わないのも、そのせいではないのか。
ケガの程度について、お医者さんから説明は受けていると思う。
それとも、そこまで絶望的な結果なのだろうか。
でも、だとしたら。
余計に、いつまでも目をそらしていることは出来ないはずで。
私は。
星太くんがそのことから逃げる手伝いじゃなく、立ち向かう手伝いがしたい、のだけれど。
そこまで自分が彼に必要とされている人間かどうか、やっぱり自信がなく。
仲直りはしても、彼の本当の心は遠く、そこにたどり着くことが出来ない。
それが、悲しい。




