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魔術師 チュウリィ・11 戦士の装束

 風に舞う火の粉の下。

 僕は合格を確信していた。


 一夜明けた朝。僕は宿屋の布団の中でその時の気持ちを思い返す。


 昨日、二次試験会場で僕とシュラハが共同で行った術はとてもうまくいき。そこにいた人間は誰もが見惚れ、目を奪われていた。

 最後に僕の鳳凰が大きく羽ばたいて飛び去った時には、女官どもに囲まれた肥った男が立ちあがって「もう一度! もう一度!」と叫んだほどだからな。

 僕は悠然としてシュラハを振り返って。


 ……シュラハが、補助者のヤツに抱きついて喜んでいるのを見た。

 ちょっと待て、何でソイツ?! ここは、僕に抱きついて喜ぶところじゃないのかよ?!


 というところで、不粋なチーリンが来て、試験の終了と退場を求められて。僕らが最後の受験者だったから、それで試験は終わりだったんだけど。追い立てられるように会場から出されて、結局、シュラハにアイツが何者だったのか聞くことも出来ず。


 ああ、先に聞いておけば良かった。どうして先に聞かなかったんだ。

 アイツが通訳に立ってれば、いくらでも聞きたいことが聞けたんだ。それなのに僕は、バカ正直に試験の内容のことばっかり話してしまって。

 真面目すぎる自分に腹が立つ。

 世の中、地道にやっているヤツが損するように出来ているんだ。


 二次試験は受かっているだろうけれど、受かっていなければおかしいけれど、それなのにちっとも気分が良くない。むしろ腹立たしい。イライラする。


 と、布団の中でふてくされて二度寝をしようとしていると、何だか階下が騒がしくなった。

 なんだろう、と思っていると、騒ぎは段々近付いてきて。


「いけません、七郎さま。旦那様に私が叱られます」

「悪いが、それに構っていられる場合じゃなくてね」


 今、思い出していたチーリンの不愛想な声がして、バーン、と乱暴に扉が開かれた。

 そして、当然のようにヤツの不景気な顔が部屋を覗く。


「やあ、九弟殿。まだ寝台の中とはいい御身分だ。まあ、女連れじゃなかっただけ良しとしよう。コイツの寝台からは三人女が出て来て、引きはがすのが大変だったが」

 その愛想のない言いぐさと共に、もう一つの顔が戸口からのぞいた。


「や、チュウリィちゃん。元気そうで何より、何より」

 僕はチーリンの顔を見た時の倍、げんなりした。

 黒髪、黒い目、女顔の悔しいがイイ男。コイツも、僕たちの数多い異母兄弟の一人だ。


 六男のウェンバクというヤツで、宮廷の文官を務めている。僕たち兄弟は、母親同士の関係を反映しておおむね仲が悪いが、このウェンバクとチーリンの二人はウマが合うのか、何かというとつるんでろくでもないことをしているらしい。


 ウェンバクは、不愛想なチーリンとは対照的に、無意味に愛想よく僕の傍ににじり寄ってきた。

「や、や、や、久しぶり。二年ぶりくらいかな。立派に成人したようで何よりだ。お兄ちゃんは、嬉しい」

 泣き真似までする。ウザったい。


「何なの、朝から。用があるなら、さっさと済ませて帰ってくれないかな」

 ことさら冷たく言ってやる。

 お互い、兄弟の情なんてないくせに。人目もないのに兄弟ゴッコなんてバカらしいだけだ。

 しかし、ウェンバクはそれを承知でこういうことをやってくるから面倒くさい。芝居がかった嫌がらせが大好きなのだ。

 チーリンとは違う意味で、あんまり関わり合いになりたくない相手だ。


「お日様がてっぺん近くまで上ってる時間を、朝とはあんまり言わないがね」

 僕の言葉に、皮肉っぽい口調で返事を寄越すのはチーリン。


 ウェンバクの方は何も聞こえなかったような顔で、図々しく僕の寝台の端に、それもわざわざ僕のすぐ傍に腰掛けた。そして顔をググッと寄せて来る。

「用があるって、察してくれてありがたい。カンがいい子に育って、お兄ちゃんは嬉しいよ」

 ウザいな、もう。


「バカ、顔をそれ以上寄せるな。気持ち悪い」

 僕はのけぞってウェンバクから逃れる。チーリンが舌打ちしてウェンバクの襟首をひっつかみ、僕から遠ざけた。


「ふざけてるんじゃないよ。ああ、声をかけるんじゃなかった。お前をかませたら話がややこしくなることは分かってたんだ。やっぱり帰れ、お前」

「三か月違いとはいえ、お兄ちゃんに対してそういう口をきいてはいけないよチーリンちゃん」

 ウェンバクはくそマジメな顔で言ったが、こういう時のコイツは十割十分ふざけてる。

 チーリンもそれは分かっているらしく、露骨に嫌そうな顔をする。


「分かった。俺が悪かった。謝るから、この件はスッパリ忘れて家に帰ってくれ。頼む、六兄殿」

 頭を下げるチーリン。コイツらの力関係がよく分からないが。

「そうはいかないよチーリンちゃん。末の弟の身が危ないと分かって、兄弟思いのこのオレが黙っていられるわけがないだろう」

 芝居のセリフみたいな棒読みだった。だからコイツは何がしたいんだ。


 ん? 僕の身が危ない?


「手っ取り早く言おう」

 ウェンバクのやりたいようにやらせていては話が進まないと思ったのか、チーリンが強引に口を出してきた。

「チュウリィ、お前さん。モク族の女戦士をたらしこんでるだろう。この前、この宿屋に連れ込んでたヤツだ」


 僕はげんなりする。何て下品な発想しか出来ないヤツだ、コイツは。

「チーリン。あんまりお前の品性を疑わせるような発言をするなよ。僕とシュラハは、ただ一緒に勉強をしていただけだぜ」


 大げさにため息をついてやる。本当のことだし。まあ、その現状に僕が満足しているか否かは、また、別の話なんだけど。


「そう、それだ。ウルナク・シュラハ。昨日の二次試験の参加者だな? お前さんが協力者にした魔術師。男装しているが、あれは女だな」

 しまった。シュラハは男のフリをして魔術師試験を受けてたんだっけ。すっかり忘れてた。

 ここで僕が認めたら、シュラハは失格になってしまう。


「おっと、ごまかしても無駄だ。初めはてっきり、試験に出てるのはお前の女の兄弟か何かかと思っていたが。お前さんと二人、より添っているところを見たら間違えようがないぜ。いいから認めろよ、問題はそこじゃないんだ」


 何だか知らないけど、チーリンまで詰め寄ってくる。部屋は狭いのに、男三人寝台の上で身を寄せ合ってわけのわからない状況になっている。

 僕は壁際まで避けた。


「何だよ。協力したのが悪いなんて言わせないぞ。試験の規定には、協力しちゃダメだなんて一言も書いてなかったじゃないか」


「誰もそんなことは言ってない。それに、協力したのはむしろ採点のうえでプラス要素だ」

 チーリンは言った。僕はびっくりした。

 採点基準なんて重要なことを、コイツがあっさり口にしたことに。


「何、ポカンとしてる。まさか、気付いてないわけじゃないだろうな。モク族の民に、戦士と魔術師を兼ねる者なんかいない、ってことに」


「え」

 どういう意味だ、それ。

 そりゃあ、僕は前々からシュラハに戦士なんか似合わない、と思ってたけど。でも。


「シュラハのことを戦士だと言ったのはお前じゃないか、チーリン」

 だから。そうなのかと。何となく。


「そうだよ。あの女が俺に突きつけてきたのは、間違いなくモク族の女戦士が持つ守り刀だった」

 チーリンは仏頂面で言った。


 そうなのか。よく知らないけど。


「だがモク族において、魔術師は戦士と隔絶した地位にある。一人の人間がその両者を兼ねることは、有り得ん」


「有り得ないって。だって、実際シュラハは魔術師だし。その、戦士の刀を持ってるんだろ。いつも戦士の恰好をしてるし」

 僕は言った。


 その答えを聞いて、チーリンとウェンバクが顔を見合わせた。

 何だか、その表情が僕をバカにしているようで、何とも腹が立つ。


「あのねえ、チュウリィちゃん。女の子とつきあうなら、よく相手の話を聞かないと。彼女とちゃんと、話してる??」


 う。痛いところを突いてくる。仕事を放って女遊びばっかりしてる、って噂のウェンバクのくせに。


「モク族にとって、一番身分が高いのは戦士。魔術師っていうのは、決して身分が低くないけれど、戦士とは相容れない存在として認識されてるの。まあ、ぶっちゃけて言えば……」

 ちょっと首を傾げるウェンバク。

「胡散くさい、っていうか。そういう感じに見られてる、っていうか。一般人とは交流を持たないんだよ、あの部族の魔術師は」


 そうなのか?


「なんで、ウェンバクがそんなことを言い切れるんだよ」

 一応、聞いてみる。ウェンバクはにっこり笑って、

「そりゃあ、モク族の女の子とは何人もつきあったから。えーと、六人? イヤ、違う、七人。イヤ、八人だったかな」


 指を折って数えている。うわ、コイツとあんまり交流のない僕でも分かる。コイツ、男としてサイテイだ。


「あのな、チュウリィ」

 チーリンがため息をついて会話に割り込んできた。

「魔術師ってのは、だいたいそういう身分だ。俺たちだって同じようなもんだ。分からないとは言わせないぞ」


 分からない。魔術師は、知識と力を究めた、最も尊ばれるべき人種だろう。

 だからこそ、宮廷だって普通の文官とは別枠を設けて、良い魔術師を招き入れようとしてるんだ。


「曲芸師みたいなもんだ、俺たちなんて。手品師との区別もついてないかもな。一般人の見る目なんてそんなもんだ」


「そこ。魔術師同士の傷の舐め合いはいいから、本題に戻る」

 ウェンバクが口をはさむ。

 なんだろう、なぜかコイツに言われるとすごく理不尽な気がする。

 チーリンは砂を口にしたような顔をしたし、僕も一緒くたにされた気がして大変不愉快だった。


「オホン」

 仕切り直しに、咳払いするチーリン。僕をにらみ直すが、いつもの迫力が感じられない。

 コイツ、何の意味があってウェンバクを連れて来たのかな。


「まあ、とにかく。あの女が魔術師である以上、同時に戦士ではありえない。そこまでは理解したな」


 そうなのかもしれないけど。まったく話が見えない。何でそんな話を、この二人は雁首そろえてしに来たのか。


「そうすると、あの女の戦士装束はなんなのか、ってことになるだろう。お前、このことを一回でもマジメに考えてみたか、チュウリィ」

 だから、何を言われてるのか分からないって。


「モク族で、戦士階級でない人間が戦士の衣装をまとう場合が一つだけある。その人間が、誓いに縛られている場合だ」


 チーリンは言った。ウェンバクも横でうなずいている。


「モク族の中で、誓いというのは大変尊ばれているからね。たいていの誓いは、普通に口頭でなされるけれども、それでもスゴイ重みを持つ。誓いを破ったものは、部族から石もて追われるっていうから徹底してる」


 そうなのか。そんな話も、ウェンバクの口から聞くとえらく軽く聞こえるのは何でだろう。


「その中でも、重い誓いの場合は、ヤツらは武器にかけて誓うんだ。一族が誇る、まあ大体は剣に賭けて誓う」


 チーリンが話を引き取った。景気の悪い表情のせいか、コイツが話した方が多少は話に重みが出る気がする。


「誓いを破った者はその武器で胸を貫かれる、という意味でする誓いだ。それでだな、ここからが大事だが、この誓いをした者は身分を問わず戦士の装束を常時身に付ける。命を賭ける誓いをした者を、彼らは戦士と同等とみなすんだな」


 だから。その話に何の意味が。

 あ。


「よーし、ようやく話が分かったようだな、このバカ弟」

 チーリンが聞き逃し難い暴言を吐いたが、この際不問に付すことにする。だって、それは。


「シュラハが、そうだって言いたいのか」

「他に可能性は考えられない、って話をしてるんだよ」

 ケンカ腰でチーリンは返してくる。だけど、分からない。


「どうして、そんな話をわざわざ僕にしに来るんだ。それも、二人そろって」


「呆れたぜ。どこまで頭の回転が悪いのかね、このお坊ちゃんは」

 イライラした顔でチーリンが言うのを、ウェンバクが片手で制した。

「まあ、落ち着きなさいチーリンちゃん。チュウリィちゃん、ここはざっくばらんに話そうぜ」

 愛想よく、ヘラヘラ笑っていたばかりの顔がマジメになる。それだけで、何だか変な迫力があって僕は驚いた。


「なあ、九弟くんよ。若い娘が、何かは分からんが、相当重い誓いを背負ってるんだ。考えても見なよ。それ、普通に考えて、恋愛と両立するようなことか?」


 え。あ。え?


「両立しない可能性が高いと思わん? それどころか、恋愛や結婚そのものに絡んでくる誓いの可能性だって相当あるぜ。恋愛、結婚問わず男を作らないという誓いとか。逆に、定められた婚約者がいるとか」


 ドキリ、とした。

 シュラハに、婚約者。その言葉は。

 僕がもう長い間ずっと。悩まされているもので。


「チュウリィちゃんのことだ。どうせ、軽い気持ちで声かけて、飽きたらポイのつもりなんだろうが。オレたちが見るに、そんなに軽い相手じゃないぞ。話の如何によっては、チュウリィちゃん、お前さ。殺されちゃうよ」


 何?


「モク族が、誓いを重んじることはちょっと他に類を見ない。お前のせいで彼女が誓いを破ることになるんだったら、あの女ともども殺されるぜ。場合によっては、お前さん一人かもしれないけれどな。誓いを守ることはヤツらにとって何より大切な正義だから、闇夜なんて待たずに白昼、正々堂々殺される」


 チーリンが追い打ちをかける。


 なんだ。なんだ、それ。

 僕はただ、彼女が夢の中の女の子に似ていて、とてもカワイイなと思って声をかけただけで。

 そして、恋に落ちて。

 それが、どうして。


「そんな話になるんだよっ?!」


 思わず、僕は叫んでいた。

 チーリンとウェンバクは、また顔を見合わせる。

「まあ、価値観の相違ってヤツだね。異民族の女の子をひっかける時には気をつけなきゃいけない。何がどう、切ったはったの問題に発展するか分からない」


 ウェンバクは肩をすくめる。

「お兄ちゃんに頼ってくれれば良かったのに。オレなら百戦錬磨、どんなことだって相談に乗ってやったよ?」

 目をキラキラさせて僕を見る。うわあ、なんか全面的に信用できない。


「シュラハに婚約者がいるのは間違いない、ってお前らは言うのかよ」

 僕は歯噛みする。


「そう言うところをみると、思い当たる節があるんだな」

 片眉を上げるチーリン。


「いいか、チュウリィ。お前がどこでどんな女を引っかけて、その女に殺されようが何されようがお前の勝手だがな。今、この都で、その理由で殺されるのはダメだ。承認できない」


 僕をにらみつけるチーリン。

 なんなんだ、意味が分からない。


「チーリン、お前。僕に死んでほしいんじゃなかったのかよ」

「ああ、死んでほしいね。今も、全身全霊で死ねばいいのに、って思ってる」

 即答で答えが返って来た。


「だがな、残念ながら俺は、お前が殺されるのを止めなきゃならない立場になっちまったんだよ。大嫌いな六兄殿まで連れて来たのも、確実にお前をどうにかするためだ。あのな、チュウリィ。今までの話で察して欲しいんだが、この理由でお前を殺したとして、その場合モク族は決して自分の非を認めない。お前を殺すのは、ヤツらにとって大義だからだ。俺個人の考えで言えば、お前さんが殺されるのはモク族にとってだけでなく、社会全体にとっての大義だと思うが、世の中そううまくはいかない」


 なんかヒドイことをアッサリ言われてるような気もするが、今はとりあえずツッコまないでおく。


「俺たちの法に照らし合わせれば、女絡みのイザコザでの殺人沙汰なんて正義でも何でもない。下手人は単なる殺人犯として処刑されるだろう。だが、それではモク族が黙っていないんだよ。何せ奴らは、正義を執行しただけなんだからな」


「分かるかなチュウリィちゃん」

 ウェンバクも口をそろえる。

「キミが殺された瞬間から、それは単なる色恋沙汰の殺人じゃなくなる。モク族とオレたちの国の、正義をかけた争いになる。最悪、北方の異民族全てを相手にした大規模な反乱にならんとも限らん」


 何で、そんな大事に。僕と、シュラハの間のことが。

 けど。

「そうなっちゃ困るから、お前たちは僕を守る……って、そういうことか?」

 僕は聞いてみた。


「大変残念だが、そういうことだ」

 と肯定するチーリン。ウェンバクも頷いている。


「どうせ、お前さんのことだ。楽天的に考えてるんだろうが。そんな大乱の引き金になったとあっちゃあ、いくら本人が死んでようが、親父殿の息子だろうが、もう許される問題じゃないんだよ。と言うか、親父殿も責任を取らされて何らかの処罰は受けることになるだろうな。増してや、俺や他の庶子たちの運命なんか、風前の灯だ。分かるか、チュウリィ。俺はそんな目に遭いたくないんだよ」


 灰色の目を剥いて僕をにらみつけるチーリン。

 ウェンバクがウンウンとやたらに頷く。


「オレも、まだまだ自分の地位にあぐらをかいてカワイイ女の子たちと遊んでいたい。そのために、今はキミに死なれちゃ困るわけだよ、可愛い弟くん」

 今は、って言った。力を込めて、今は、って言った。

 やっぱりコイツはチーリンと同じ穴のムジナだ。


「で。お前らは、僕にどうしろって」


「そうだねえ。殺されるな、と言うのはまあ、前提条件として」

 ウェンバクは元の、ヘンに愛想のいい顔に戻って言う。

「とりあえず、オレの邸にでも来る? ここは彼女に知られてるんでしょ。いろいろマズイだろ」

 チーリンがその言葉にうなずいた。

「お前の痕跡は、俺が魔術で追えないようにしておく。とにかく、すぐ移動しろ」


「冗談じゃない。何で僕が、ウェンバクの家なんかに」

 状況次第で、いつ僕の首を狙いにかかるか分からないヤツの家なんかに。


「お兄ちゃんを信用してくれないの。お兄ちゃんカナシイ」

とか、バカなことを言っているウェンバクを押しのけてチーリンが言った。

「このバカが信用できないなら、親父殿のところでもいい。むしろその方がいいかもしれん。とにかく、一刻も早くこの場所を離れるんだ」

 父上のところか。それは、ウェンバクのところより百倍マシだけど。


「親父殿のところじゃ自由に遊べない、なんて考えてるんじゃないぞ。自由に遊んだ結果、こんな事態を引き起こしたドアホウにそんなことを言う権利はない」


 でも。ここを離れたら。シュラハとは。


「そのコのことはおとなしくアキラメなさい。大体、キミがそんなアブナイ女のコに手を出すのがいけない。別に、その子ひとりが女じゃないし。チュウリィちゃんだって、初めての女ってわけでもないでしょうに」


 初めてどころか、シュラハのことは抱いてもいないけど。

 でも、だから。なんとかして僕のものにしたくて。僕だけのものにしたくて。


「あ、逃げる。おい、つかまえろウェンバク」

「チュウリィちゃん、逃げないで! キミの命を大切に思う兄二人の気持ちがどうして分からない!」


 ウェンバクが蛸みたいに僕の体に絡みついてきた。キモチ悪い。

 何が、僕の命を大切に、だ。二人とも、私利私欲しか考えていないくせに。


「よーし、そのまま押さえてろ。今、緊縛の呪を唱える」

「早くしてよね。オレ、力のない色男なんだから」

 ウェンバクの軽口をチーリンは黙殺した。クソ、どうにもウェンバクの腕がはずせない。


 チーリンが呪を唱える。僕の意識が、遠くなっていく。


 シュラハ。

 僕は、彼女に出会って。彼女を自分のモノにしたくて、ただ、それだけなのに。

 どうして。


 なんで、こんな庶子どもの手に落ちなくちゃならない。

 それがただ、悔しくて。

 身体の自由を奪われながら、僕は歯ぎしりを続けていた。


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