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女子高生 玄倉新・11 花火の夢

 白白、赤赤、赤、白、白、青。

 私は、持ってきたスケッチブックに絵を描いていく。

 今朝見た夢の絵。いつもの、シュラハとチュウリィの夢。


 今日も、夢の中では二人はいつも通り仲良く。

 現実では、病院に来てみれば桐野くんは背中を向けたきりで話もしてくれなかったけど。


 でもまあ、面会禁止(桐野くん発令)が解除されただけでもマシだし。


 シュラハはいいよね、今日もチュウリィに抱きついたりしてたし。

 何でそういうことできるのかな、あの子は。他に人もいっぱいいるし。恥ずかしくないのかな。

 私としては、彼女のあの奔放さが納得できない。


 イヤ、夢の中では自分のことだから、自分の行動に納得はしてるよ? ただ、こうやって目が覚めてから思い返してみると気恥ずかしいというか何というか。

 桐野くんも同じ夢を見ているかもしれない、と思うと、余計に気恥ずかしさが増殖するというか。


 ああいう風にした方が男の子は喜ぶのかなあ。

 かといって、あれを再現するためには。ベッドで寝そべっている桐野くんを引きずり起こして縦向きにして、そこへ……。


 イヤ、ダメだな。ウン、ダメだ。ラブシーンと言うより、柔道の稽古かなんかみたいだし。

 桐野くん、華奢だから何だか吹っ飛んじゃいそうだし。


 話がそれた。だから、私が何をしているのかと言うと。

 コインランドリーでの待ち時間を使って、今朝の夢の絵を描いているのです。


 今朝の夢では、シュラハとチュウリィが協力してキレイな花火を作っていて。

 時間はかかったし、地味な作業ばっかりですごく大変だったけど。出来たものは、とってもキレイで。頑張った甲斐があったな、って思って。とっても喜んで。


 だから、それを絵に描いて。

 夢の中で大変だったこと、うまくいって喜んだこと、を思い出してくれたら。


 私に対する当たりがやわらかくならないかなー、なんて、姑息なことを考えていたり。


 それにしても、今朝の夢は本当に大変だった。

「やったーっ!」

 って声を出して起きちゃって。同室の子がビックリしてた。

 本当は、やったあって気持ちより、疲労感の方がすごくて。

 学校がなければ、もう一度眠りたかったくらい。


 魔法大会、の続きだったんだけれど。

 前の時は、座って紙に書くテストで。それはそれで、難しくて大変だったんだけど。

 今回は、「キレイな花火を作る」って課題で。


 私、いやシュラハは、それを一緒にやろう、ってチュウリィを誘った。

 チュウリィと一緒に何かしたい、って気持ちもあったけれど。それより、まず。

 シュラハが作れる花火は、地上に仕掛けをして楽しむ、何というかねずみ花火の親玉みたいな花火だったので。

 私たちが普通に思い描くような、空に打ち上げる花火は作れなくって。

 それで、チュウリィたちの国では、そういう打ち上げ花火が主流なんだよね。それは、シュラハも知識で知っていて。

 だから、打ち上げ花火と地上でやる花火。同時にやったら、いいんじゃないか、って彼女は思ったんだ。


 チュウリィは二つ返事で受けてくれて。私たちはすぐに花火の構想に入れた。


 と言っても、シュラハが作れる花火は決まっていて。それに、チュウリィがどんな花火を合わせるのか、を考えるという感じの打ち合わせだったんだけど。

 その時一回絵を描いて説明したから、今絵を描くのは楽。

 あの時のとおりに、もう一度描くだけなんだもの。


 私は絵は上手っていうほどではないけれど、下手でもない。シュラハが作った花火は、伝統的なものだからパターンというものがあって、それを再現するだけだから、説明する絵を描くのに彼女もそんなに苦労はしていなかった。


 それでも、花火は移り変わるから、五、六枚は絵を描いたと思う。

 私もそれを思い出しながら、一枚一枚絵を仕上げていって。


 初めは、炎の草原。一面に炎を燃やし、草原を表わす。

 でも、その炎には仕掛けがしてあって。同じように見える炎も、燃え尽きる速さに長短があるのだ。

 炎が次々に燃え尽きていって。炎の草原の中に、黒い模様が浮かび出る。たくさんの家畜たちと、それを追う人たち。長い長いキャラバン。草原で暮らす人たちが憧れるものたちが、次々に浮かび出て。


 全てが燃え尽きると、次の仕掛け。七色の炎の輪がフィールドの四隅から転がり出て、所狭しと駆け回る。


 その次は、吹き出す炎が噴水のようにフィールドのあちこちで、花のように。

 これは確か、水を見つけた喜びを表しているはず。


 その次は、またフィールド全体に火をつけて。ただし今度は、それぞれ違う色のものを、模様のように並べて。魔術の力で、その模様はいろいろに変化して観客を喜ばせる。


 そして、最後。

 模様が一か所に収束して行った中から、様々な火で出来た鳥や動物たちが飛び出してくる。馬や、牛みたいなよく見るものも多いけど、後の方になればなるほど珍しい動物になっていって。きっと、あの夢の世界にしかいない動物もたくさんいるんだろう。


 シュラハの部族でおめでたい数とされている七十七の動物を出し切ったところで、この花火はおしまい。お正月とか、特別な時だけに行う花火なんだ、これ。


 しかし。絵で描くのは簡単だけど。

 これを実際に行うのは大変だった……。


 よく、夢を見てるのはほんの一瞬の間だ、って言うけれど。

 たとえ、実際には数分の出来事だったとしても。夢の中のシュラハには相応の時間がかかったのであって。

 これだけの花火を行うためには、魔法の杖を振るだけでは終わらない。


 呪文の詠唱。火薬の調合。地面に描く魔方陣。

 どれも間違えてはいけなくて、細心の注意を払わなくてはいけなくて。ピリピリした時間が、何時間も何時間も続いて。


 赤、青、白白、赤青白。


 決められた通りに色を並べ続ける作業が延々と。あんまり長い時間、それを繰り返しやり続けたので、目を覚ました今でもその順番を正確に思い出せるくらいなのです。

 だから、絵を描くのも楽チンです。完璧に再現できます。


 その代わり、今日あった単語テストのために覚えた単語は全部花火の術構成に押し流されたけど。

 ええ、単語テスト、散々でしたとも。


 それはともかく。


 私たちが悪戦苦闘している間に、ライバルの他の挑戦者たちがどんどん花火を披露していくし。

 ようやく準備を終えた時は、クタクタになっていて。

 師匠が、墨で汚れた私の顔をキレイにしてくれたのを覚えてる。あ、師匠は補助者としてシュラハの術を手伝ってくれたの。一人だけ、術の補助をする人を使ってもいい、って規定があったので。何があるか分からないから、シュラハは師匠に一緒に来てもらった。


 もちろん、代わりに師匠が出題を解いてしまったら困るから、係の魔術師の人に術をかけられて、自分では体もロクに動かせないような状態にさせられてしまうのだけれど。


 今思うと、師匠はよくそんな役を引き受けてくれたなあ。弟子のシュラハが心配なのかもしれないけど、私なら嫌だな、そんなことされるの。あの師匠、ちょっとお人好しすぎるんじゃないかな。

 逆に心配。シュラハは、もう少しあの人のことを心配してあげた方がいいんじゃないかと思う。


 それで。

 準備が出来ました、って係の人に言いに行ったら。あ、その人って、チュウリィのお兄さんだったんだけど。前に、チュウリィの家に来て、彼を絞め殺そうとして。私がてっきり、闇の暗殺者かなんかだと思った人。ちゃんとした役人だったみたいだから、世の中は分からない。


 その人、私がチュウリィと並んでいるのを見たら、私の顔を穴が開くほど見て。

 すごくイヤだった、初めに受付した時はフツウだったのに。


 それから、私たちの発表の番になった。

 チュウリィは、素敵だったよ。シュラハの出し物にちゃんと合わせて自分の術を構築してくれて。


 初め、チュウリィの作ったとりわけ大きくて派手な花火三発で私たちの出し物は始まった。

 みんなの目が空に釘付けになった直後、炎の草原が地面を覆って。


 炎が草原を描いている間は、チュウリィは術を休んでくれて。でも、七色の輪のパートになったのと同時に、彼もどんどん術を使い始めて。

 丸い、普通の花火もたくさん打ち上げたけど。幾何学模様や動物の形や、私がこっちの世界では見たことも内容な不思議な花火をどんどん打ち上げて、地面も空も炎の造形であふれて、とってもとっても華やかで。


 最後の動物がポンポン飛び出してくるところなんか、チュウリィも空を鳥たちで埋め尽くして。

 それがみんな、自由自在に空を飛び回って、とってもキレイだった。


 チュウリィって、芸術的センスもある人なんじゃないかな。私、というかシュラハだったら、一からあんなもの、短時間に作ったりできないもの。


 一番最後、チュウリィの作り出した大きな鳳凰が、空いっぱいを優雅に飛翔して。

 絶対、私たちの組が一番キレイだったと思う。あの最後の鳳凰だけでも、他の人たちより絶対キレイだった。

 シュラハは、絶対勝った、って思って、チュウリィと組んで正解だったって思って、嬉しくて嬉しくて。また抱きついて。


 夢はそこまでだった。ああいや、そういえば観客席みたいなところに座った太った男の人が、やけに喜んで「もう一回! もう一回!」って叫んでいたっけ。喜んでくれるのは嬉しいけど、それはムリだから……って思ったところで目が覚めた、そんな気がする。


 もう一回って軽く言うけど、あれを一回やるためにシュラハがどれだけ努力したことか。

 私だったら、代わりにやれって言われてもイヤ。ああ、私はシュラハみたいな魔術師じゃないから、呪文や何かであんな風に火を操るなんて出来ないんだけど。もし、出来たとしてもイヤ。ものすごく大変だったもの。

 でも、シュラハはアレが仕事なんだよね。ああいうことをするために、いろいろ勉強して、修行もして。


 やっぱり、考えてみると不思議だ。ファンタジーなんかにほとんど興味のない私が、どうして。

 魔法使いであるシュラハの夢を、こんなに何度も何度も見るのか。


 しかも必要以上に細かく。あんな、何時間にもわたる呪文の詠唱とか、再現しないでもらいたい。

 どっちかと言うと、この夢をみていることで私はファンタジーをキライになりそうな気がする。

 魔法使いが、あんなに地味な職業だったら、みんな憧れないんじゃないかなあ。とにかく、あの職業は何かと面倒くさすぎる。二十分ほどの花火の準備に数時間って。そりゃ、本物の花火を作るのにはもっと時間がかかってるのかもしれないけど。


 まあ、私の愚痴はおいといて。とにかく、すごくすごく大変で、すごくすごく苦労したのだ。

 だから、うまくいった時は本当に嬉しくて、やったあって叫んでしまって、その声で起きて……ってことは、もう言ったか。


 まあ、そういうわけで、夢の中での努力の結晶を絵にした私は。それを、洗濯物と一緒に桐野くんに渡してみたりして。


「は」

 返って来たのは、乾いた嗤いでございました。


「何やってんの、玄倉。ヒマなの」

 はい。その通りです。


「お前、絵、ヘタ」

 スケッチブックを投げ返される。

 うわ。私の、洗濯物が乾くのを待つ間の努力の結晶を、その一言で。


 それっきりで、また背中を向けてしまう桐野くん。

 ガンバレ、私。くじけるな、私。


「ええと。この夢、見てない?」

 勇気を振り絞って、聞いてみる。


 すると、桐野くんは振り返って。

「玄倉、お前さ。そんなことしてるヒマがあるなら、他に言うべきことがあるんじゃないの?」

 と言った。


 ノックダウン。

 そのとおりです。はい、逃げてました。こんなことで、桐野くんの心が和らぐわけないよね。


「また、明日来る」

 明日こそは、何とか。桐野くんの心に近付く道を。

 と、思いつつ、寮への道をたどる私でした。ガンバレ。くじけるな……。


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