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魔術師 チュウリィ・10 協力

 受験者たちがそれぞれ散らばり出す。用意の出来た受験者から、主催側に申し出て術を披露しろとのことなので、それぞれ準備に向かっているのだ。

 僕はその人波の中、チーリンをつかまえて声をかけた。


「なんだ? まさか、もう用意が出来たのか? そりゃあすごい。じゃあ、早速披露してもらおうか」

 片眉を上げて言うチーリン。ああ、コイツのこの性格、ホント苛々する。


「そんなわけないだろ、バカ」

 僕は言った。

「何なんだよ、このフザケた出題は。受験者を真剣に選別する気があるのか?」


 チーリンは更に眉を上げた。

「やれやれ。出題に文句かよ。そんなことしてるヒマがあったら、もう少し時間を有効に使ったらどうだい。例えば、憤慨してこの場を出て行く自由だって、お前さんにはあるんだぜ?」


 つくづく、コイツとは会話にならない。ならないのは分かっているが、僕は言葉を続けた。他に言える相手がいないからだ。


「おい。マジメに聞けよ。国王に仕えて、国家安寧を司る魔術師を選ぶ試験だろう、これは。それなのに、炎で人を楽しませる美しいものを作れ、なんて。僕たちは花火師じゃないんだぞ」


「だから、気に食わないんなら帰れよ。俺は止めないぜ。それどころか、丁重に送り出してやる」

 そう言ったチーリンの顔は、案外マジメだった。

「出口が分からないなら、付き添ってやろうか? こっちだぜ、九弟どの」


 チーリンは僕の手を取って引こうとする。

 冗談じゃない、気持ち悪い。僕はあわてて手を引っ込めた。


「何だ。試験に文句があるなら、受けなきゃいいだけの話だろう」

 チーリンはバカにしたような表情を浮かべた。

「今さら、受験者が文句を言ったって出題は変わらないよ。お前たちに出来ることは、受け容れて最善を尽くすことか、この場を立ち去るかの二択だ」


「何だそれ」

 僕はムッとした。

「そんなの、納得できるか。お前の時の二次試験はなんだったんだよ、チーリン」

 と食ってかかると、ヤツは眉根一つ動かさずに、

「砂漠での降雨術」

と言った。


「ほら見ろ。魔術師試験の実技課題って、そういうものじゃないのかよ。天地を動かし、経世に役立つような術の披露だ。それなのに、今年に限ってお遊戯レベルの出題かよ。バカにしてるのか」


 チーリンはやれやれ、ともう一度言って肩をすくめた。

 そして次の瞬間、僕の胸ぐらをつかんで低い声で言った。


「おい、チュウリィ・フォング。甘えるのもいい加減にしろよ。出題に文句を言おうがお遊戯扱いしようが、お前の勝手だがな。お前が何を言おうと試験は変わらない。これは事実だ。俺も暇じゃないんだ、これ以上文句を言うつもりならしかるべき処置を取る。ちなみに、そのしかるべき処置というのは警護の兵士にお前さんをひっ捕らえさせて、この会場からほっぽりだす、っていうことだ」


 う。この目は本気だ。

 僕はさすがに口をつぐんだ。悔しいが、こいつは試験を通った認定魔術師で、微官といえど官職について僕より権力を持ってる。


 僕が黙ったのを見て、ヤツは満足そうに言葉を続ける。


「受験する気があるんなら、こんなところで文句をたれていないでサッサと準備に移ることだな。他の受験者は納得してやってるぜ。出題の内容が易しくなれば、合格の判定は厳しくなる、ってお前の頭でも理解できるか?」


 それもそうだ。

 試験の内容が易しいからって、今までより多くの合格者が出るわけじゃないだろう。今までの例でいくと、二次試験の合格者は多くて十人足らず。年によっては、この試験で合格者一、二名にまで絞られてしまうこともある。

 試験が易しいってことは、当然、ただ美しいものを作ればいいって問題じゃないわけで。


 どれだけ美しく、人を楽しませることが出来るものを作れたか、という争いになる。


 しかも、美しいとか、楽しいとかいうのは主観的な感覚だ。

 この場合は、魔術庁長官のザカハンの好みを満たせば良いってことになるのだろうか。しかし、ザカハンの好みなんて、そんなの知らないぞ。


「分かったか。俺は今回の試験が例年に比べて特に簡単だとは、別に思わないね」

 チーリンは冷たい目で僕を見て、そして僕の胸元から手を離した。


「ここでお前さんを失格にしとくのも一興だが。まあ、お前みたいなヤツはどうせ受からないだろうから、特別に見逃してやるよ。兄弟の誼で教えておいてやるが、同じような出来の回答なら、早く準備が出来たヤツの方がいい評価が受けられるぜ。じゃあ、ガンバレ九弟殿」


 そう言って、ヤツは後ろ手に手を振りとっととどこかへ消えてしまった。

 僕は歯噛みする。


 悔しいが、アイツの言うとおりだ。今回の出題がバカバカしいのは確かだが、僕が何か言ってもそれが是正されない以上、言えば言うほど時間のムダだ。そして、他のヤツらはもう準備にかかっている。


「チュウリィ」

 後ろから、背中を叩かれた。

 振り返ると、シュラハが立っている。

「シュラハ。試験の準備、しなくていいのか」

 僕が尋ねると。

「チュウリィ、待っていた」

 と言う。


 それから彼女は、僕と自分を交互に指さして、

「私とチュウリィ、一緒に試験受ける。どうか」

と聞いてきた。

 一緒に、ってそりゃ、受験者同士なんだから一緒には受けるけど。


 僕がシュラハの言葉の意味を図りかねていると、彼女は不満そうな顔をし、くるりと背中を向けた。タッと走って、少し離れたところに立っていた補助者の男を引っ張ってくる。

 シュラハは補助者に向けて、蛮族の言葉で何か言った。初めは命令のように、短く。次には少し長い言葉を。

 補助者の男はうなずいた。それから、僕に向き直って言った。


「チュウリィよ。お前に向けてシュラハが問う。この試験を受けるに当たり、共闘する意志はあるや否や」


 な、なんだなんだ。共闘って何だ。


「だいたい、補助者ってのはしゃべれないんじゃないのか」

 僕が言った言葉に、シュラハは反応して何か補助者に問いかける。補助者がシュラハに何か言った。シュラハがもう一度補助者に話しかける。

 補助者が僕に言った。


「シュラハが言う。補助者にかけられた術は、彼女の見るところ、全ての能力を塞ぐものではない。魔術・魔力を封じ、術者の自由な意思での発話を阻むもの。さすれば、魔力をもってしてではなく我が身につけた言葉の力は封じられず、彼女の意志にて自由に使うことが可能ではないかと考えた。どうやらそのとおりのようだ」


 なんだ、それ。つまり、この男は元々シュラハより僕たちの言葉が得意で。コイツは自分の意志でしゃべることは出来ないけど、僕とシュラハの会話を機械的に訳すことなら出来るってことか?

 それ、言葉が不得意なシュラハは補助者がいることで得してないか?


 補助者がいて得にならないよう、術で制限するんじゃないのかよ。

 チーリンのヤツ、手抜きしてるんじゃないのか。それともその程度のダメ魔術師なのか、アイツは。

 そしてシュラハ、案外腹黒いな。


「え、で、何だって。共闘? どういうことだよ、シュラハ」


 またひとくさり男とシュラハの会話があって、男が僕の方を向く。

 なんか不快だな、この会話。

 シュラハと意思疎通が出来るのはいいんだけど、僕はコイツと顔あわせてばっかりで。シュラハはコイツとしかしゃべってないし。

 何か面白くないぞ。


「シュラハが言う。試験には、受験者同士が協力してはいけないという規定はない。さすれば、二人で協力すれば、より美しく華やかなものが出来るだろう。如何か」


 え。

 僕は驚いた。そうだったか。

 少し頭を冷やして、読み込んである試験の規定について隅々まで思い起こしてみる。

 そうだったかもしれない。僕は、そんな可能性考えてもみなかったけど。

 僕はシュラハを見直した。今まで、片言でしゃべる彼女を見て、知能的には小さな子供のようにしか思っていなかったけれど。 


 すごくいろいろなことを考えている。

 やり手の女魔術師と話をしているみたいで。僕は、まごつくばかりだった。


「シュラハは考えている。我が部族に伝わる、伝統的な新年の火遊びを再現しようと。これは、かなりの広さを使うもので、動き、色、光を様々に使う。私を補助者として使えばシュラハは再現できると思っている。部族の誉れであり、何百年にわたって我々を楽しませてきたものだ。美しさ、楽しさで決して他の受験者に劣ることはないはず」


 僕は思い出した。シュラハだって、七百人以上の中から選ばれて、この場に立っているのだ。ただの女の子じゃ、ないんだ。


「ただし、この火遊びは地において行うもの。地を七色に彩ることは出来ても、空が残る。チュウリィは、その部分を補うことは出来ぬか。それが出来れば、シュラハは合格できる自信がある。如何か」


 それが共闘の申し込み、か。

 僕がチーリンにどうでもいい文句を垂れていた間に、シュラハはそんなことを考えていたのか。


 僕はすぐに決断した。

「いいだろう」


 シュラハが手を打って喜ぶ。僕に抱きついてくる。よし、これがあるべき姿だ。


 シュラハの申し出は僕にも願ったりだ。僕たちの国で花火と言えば、空に打ち上げるもの。大抵の術者は、その方向で、空を彩る術を考えるだろう。

 だから、地面を炎で彩るというシュラハの術は、それだけでかなり見るものの意表を突ける。地面と空を同時に彩れば、高得点をもらえる可能性も高い。

 後は、二人で協力するというスタイルがどう評価されるかだが。


 試験の規定には、確かに協力を否定するような文言はなかった。

 だから、もし協力したことで減点されるようなことがあれば、その時は父上にお願いして抗議してもらおう。


「すぐに術の構成を考える。シュラハ、お前の術はどんなものなんだ。僕は一から構成を練るから、まずどんな流れなのかを教えてくれ」


 シュラハは笑って頷き、すぐに補助者の男に向き直った。

 これが馴染めないんだよな。

 シュラハと直接話したい。


 僕の前に立ってしゃべり出した補助者の男の顔を見ながら。僕は小さく、ため息をついた。

 

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