魔術師 チュウリィ・8 煩悶
二次試験の前の日。
僕は、当日の持ち物の確認をしていた。
一次試験は筆記で魔術の知識を問うもの。二次試験は、その実力を見せるもの、と決まっている。だから、どんな術を行使することを求められても困ることのないよう、持ち物にはじゅうぶんに気を付けなければならない。
待ちに待った試験の日、僕の実力を世間に見せつける日がやってきたというのに、僕の気は晴れない。
シュラハ。
彼女のことが、頭から離れなくて。彼女の婚約者のことをハッキリさせたくてたまらないのに、解決の手がかりすら得られず。
昨夜は夢も見なかった。
セイタとクロクラ、僕たち二人とそっくりな彼らの生活を垣間見る夢を見られれば、何か事態が進展したことを知り得るかもしれないのに。
イライラする。
数日前までの、満ち足りた気分はどこかに行ってしまった。今はただ、シュラハの真意を知りたい、ただそれだけで頭がイッパイになっている。
今日は彼女も姿を見せない。明日の試験に向けて、準備に余念がないのだろう。
それに比べて、僕ときたら。雑念だらけで。
子供の頃から、この試験に受かるために勉強してきた。国王のいる都で、華やかな宮殿で。立派な魔術師として、宮廷に迎え入れられる日を夢に描いてきた。それはもう、手に届くところまで来ているのに。
なんだって今、恋になんか落ちる。
今じゃなくてもいいのに。宮廷に仕えられるようになって、美しい宮女たちに囲まれて。そうしたら、恋なんてしほうだいじゃないか。今、ひとりの女に拘泥する必要なんかない。
そんなに深い気持ちで声をかけたわけじゃないんだ。
ただ、夢の中の女に似ていたから。その不思議な縁に心惹かれて。
妻にしたいと思ったのも。ただ、恋に浮かれて。
幸せだったから、ふと思いついたことで。
今にして思えば、彼女をいつまでも僕の許に引き留めておくのに他に方法が思いつかなかったのかもしれないけど。
父や母に反対されたら簡単に潰されていただろう、泡沫のような夢でしかなかった。
だけど、今は。
彼女に婚約者がいるかもしれないって。
彼女が他のヤツのものかもしれないって。
彼女がある日、何もなかったみたいに僕の許から飛び立ってしまうかもしれないって。
そんなことが、怖くてたまらない。
そんなことが、腹立たしくてたまらない。
彼女は僕のものであるべきなのに。
そうじゃない現実が、口惜しくて腹立たしくて憎らしくて。
僕の内側は、煮えたぎりそうになっている。
彼女を僕のものにしたいけど。
組み伏せて、そうしたところで、彼女は。
その気になれば、軽やかに。姿を消してしまいそうで。
臆病な僕は、そんなことすらできなくて。
本当のことを知りたい。彼女の本当の気持ちを知りたい。
それだけで、僕は。叫びだしそうではちきれそうで。
ただ、本当のことを知りたい気持ちでいっぱいになって、この宿の部屋に座っている。
どうにかして知る方法があれば。
その道は、一つだけありそうなのに、手が届かない。
セイタ。あいつが、ちゃんと僕の言いつけた仕事を果たしさえすれば。
だけど、鈍重なアイツは。僕の分身のくせに、使い魔程度の働きすら出来なくて。
僕がクロクラと直接話をすることさえできれば、それで解決するのに。
僕は、準備をしていた手をちょっと止め、その考えを吟味する。
そうだ、僕が。直接。
それさえできれば。




