女子高生 玄倉新・8 こぼれたミルク
夢から、覚めた。いつもの、あの夢。
寮のベッドの上。私は半身を起こして辺りを見回す。
夢の中の私は、いつもみたいに桐野くんの腕の中にいて。
幸せそうで、安心していて。
目が覚めたら、なんだか切なくなってしまった。
全部、自分がやったことなんだけれど。自分で望んで、自分で桐野くんから離れようとして。
だって、不安だったし。
私の心は、まだ桐野くんを特別な人と認識していなくて。
それなのに、どんどん桐野くんが身近な人になっていって。
彼女は作らないはずなのに、あんなこととか。
だから、元に戻りたかった。
少し口をきくだけのクラスメート、って関係に戻りたかった。
だけど、それは桐野くんの気持ちを傷付けて、ひどく怒らせただけだった。
どうすれば良かったんだろう。でも、あのまま流されるように親しくなっていくのは、絶対に違って。それだけはハッキリ分かっていて。
私は、初めに戻ってやり直したかった。
初めに戻って、そこから少しずつ積み上げていって。
もっとゆっくり。
顔が赤くなる。
ゆっくりなら。少しずつなら。
私はとまどわなかったのか。私は怯えなかったのか。
私は。桐野くんを、好きだったのか。
友だちとしてなら好きだ、ってずっと思ってた。
じゃあ、男の子としてなら、好きなのか、どうなのか。
とても大切なそんなことにさえ、私は今でも答えが出せなくて。
夢の中のもう一人の私。シュラハという名前の女の子。
私と同じ時期に、もう一人の桐野くん、チュウリィと出会って。彼のアプローチを受け容れて、その腕の中で微笑んでいる女の子。
夢の中では、彼女は間違いなく自分で。考えてることも、思っていることも、全部分かっているのに。目が覚めた途端、どうしようもなく他人になる。
シュラハ、どうして怖くないの。
シュラハ、どうして不安じゃないの。
どうして、チュウリィを好きだ、って言い切れるの。
彼女に教えてもらいたい。私の迷いを、断ち切ってもらいたい。
そして、私は気が付く。
シュラハやチュウリィの出てくる夢を。同じ夢を見ているのだ、と二人で驚きながら話し合っていた他愛のない時間。
それを、私は今、確かに。
取り戻したいと願っていた。




