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魔術師 チュウリィ・5 順風

 いい調子、だな。


 チーリンという身内からのまさかの妨害とかあったけど。まあ、僕はそれもはねのけて無事一次試験を通過したわけだし。

 そんな妨害さえなければ、僕が試験で失敗するわけはないし。


 シュラハって恋人も出来たし。

 そのシュラハも一次試験を通過したし。チーリンが僕に持ってきたのと同じ、合格通知書をこの前見せてくれた。なので、めでたく二次試験を二人で受けられる。


 何もかも、言うことなし。順風満帆すぎて落ち着かないくらいだ。


 あ、でも。シュラハの言葉はなんとかしてやらなくちゃな。僕の言うこと、半分も分かってないみたいだし。


 異民族との結婚は奨励されてるから、彼女を妻にしても表向きはそのへんで揉めることはないだろうけど。

まあ、父と母を本気で納得させるのは大変だろうけど。二人とも、頭が固いし。

 でも、結婚相手を決める権利は僕にあるわけだし。

 どうしても反対されたら、まあ、何が何でも正式に結婚しなきゃならないってわけでもないし。

 隠し妻っていうのも、なんかいいよな。響きが色っぽくて。


 それはともかく。

 言葉が分からないんじゃ、僕が洒落た言葉で申し込みをしてやっても分からないじゃないか。


 僕は寝台にゴロリと横になる。なんて言ってやろうかな。いつ、どんな風に言おうか。

 今から、それを言うのが楽しみで。


 でも、どうしてシュラハをこんなに好きになっちゃったんだろうな。

 ちょっと考えてみたり。

 僕はまあ、モテる方だから。女の子が周りにいないことなんてなかったんだけど。

 妻にしたい、なんて思ったのはシュラハが初めてで。


 シュラハとは言葉がちょっとしか通じないから、それもあるのかもしれないけど。言葉じゃ何も伝えられないから、気持ちを伝えるのはつないだ手とか、見つめ合う目とか、そんなものしかなくて。

 そんな原始的なことをしているうちに、なんだかすっかり本気になっちゃった、のかな。


 僕をまっすぐに見つめて来るシュラハを見てると。

 試験が終わっても、離れたくないなんてガラにもなく思ってしまったりして。


 それと。


 僕はこっそり考える。

 

 今もまだ、見続けている夢。

 僕がケガをして体もロクに動かせず、白い壁の狭い部屋に閉じ込められている夢。

 シュラハにそっくりな、クロクラという女の子だけが僕の元にやってきて、何かと世話を焼いてくれる。


 何でそんな夢を見るのか分からないけれど。あの夢には何か特別なものを感じる。

 もしかしたら、僕とシュラハは特別な絆で結ばれている者どうしなのかもしれない。


 あの夢は、試験が終わって時間が出来たら一度きちんと解析した方が良いのかも。


「チュウリィ」

 隣の部屋から声がして、あわてて起き上がった。

 シュラハが来ていて、隣りの部屋で着替えているのだ。


「どうした?」

 僕は立ち上がって、隣りの部屋をのぞく。

 薄桃色の上着と、濃い桃色のスカートを身につけたシュラハが恥ずかしそうに立っていた。


「おかしくない?」

 と聞いてくる。

「ないない。カワイイ」

 と僕は言う。

 ウン、さすが僕。前の服もシュラハに似合ってたけど、こっちのもイイ。今すぐ全部脱がしちゃいたいくらいカワイイ。


 シュラハは恥ずかしそうに、でも嬉しそうに頬を染めた。

 それから、ゆっくりと僕に近付いてくる。

 そして、僕のすぐ傍で足を止め、僕の腕の中に身をすべりこませる。

 僕は彼女を受け止めて、抱きしめる。

 こういう風に抱き合ったり口づけしたりするようになって、もう何日も経ったけど、でもやっぱり嬉しい。シュラハがこんなに可愛いことを知ってるのは僕だけだし、こんな風に抱きしめてるのもこの世で僕ひとりだ。


「チュウリィ。服買ってくれる、どうして?」

 彼女は顔を上げて、そんなことを聞いてきた。そんなの。

「シュラハがいろんな服を着てるところが見たいから。それだけだよ」


 すると、シュラハは少し眉根を寄せて。

「私、お金返せない」

 なんて、言ってきた。


「バカ。そんなの気にするなよ。お前は僕の」

 妻になるんだから、と言いかけて言葉を止める。それはまだ機密事項。

 もう少し、秘密にしておかなくちゃ。

「その、恋人だろ。僕がお前に何かしてやるのは、当たり前」


 けれど、なぜかシュラハの表情は晴れない。

「チュウリィ、私、話する、いいか」

 そう真剣な顔で問いかける。別にいいけど。

 彼女はそっと僕の手を握った。白い小さな、やわらかい手。

「私、チュウリィ好き。本当」

 なんだよ、そんな話かよ。そんなこと、改めて言われなくても分かってるって。


 シュラハはやっぱり暗い表情のままで、二言三言蛮族の言葉を呟いた。ソレから、もう一度僕の目を見て言う。


「チュウリィ、私のため、戦える?」


「もちろん」

 と即答した。それから問の内容に気が付いた。何だって?


「シュラハ?」

 シュラハは、訝しむような目で僕を見ている。それから小さくため息をついて、言った。

「ごめんなさい。チュウリィ、忘れる。私、自分で出来る。気にしない」


 何だそれ。言葉の意味とか言う以前に、文章が崩壊してるぞ。


「私、試験頑張る。チュウリィも、頑張れ」

 まあ、頑張るけどさ。余裕こきすぎて落ちたら、笑えないし。

 だけどシュラハに心配されるほど頼りない魔術師じゃないと思うけどな、僕は。むしろシュラハの方が心配だよ。そもそも、ろくに言葉が分からないのだから、古い魔導書なんて勉強できないじゃないか。どうやって一次試験に受かったのか、謎だね。


 ああ、でもシュラハはこんなにやわらかくて抱き心地が良くて。

 チーリンは、彼女を女戦士だと言ったけど、やっぱり僕にはそんな風には見えないなあ。


 とりあえず今は、先のことなんか考えずに、こうしていたい。



 だから、その時僕はシュラハの言葉の意味を気に留めなかった。

 そんなこと、僕たちの未来には取るに足りない、って思ったんだ。

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