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執事の朝は早いのです、特に主に対してその生活すべてを個人で担当いたしていますと。
彼はAM5:00に本日のスケジュールの再確認を行い、引き続き、朝食の下準備を始めていきます。平行して、最新の情報をまとめてます。特に、お嬢様が興味を引きそうな事柄、若いアイドルや、お気に入りの俳優の動向、映像作品のトレーラーと、配信作品の解説、昨晩欧州で開催されたファッションショーの映像の抜粋、甘味処の新作発表などなど、です。
それら、若い女性の好みを中心とした一般的な情報と、同じくらいの分量で、ざっとした社会情勢の分析データ、政治、経済、国際、を偏らずに幅広く。軍事と科学関係の、かなり詳細なデータ、最近お嬢様のお気に入りである、心理学の論文概論、心理学は大学のレポートにも活用するということなので、体系付けた物を、読みやすいように、まとめていきます。
軍事関係の資料は、完全にお嬢様の趣味でありました。彼女はミリタリーオタクなのです。友人や家族には慎重に隠してはいますが。そういう所は微笑ましいと老執事は思うのでありました。
お嬢様は、今日は大学へ朝から出向かなければならない予定であったので、執事の彼は、お茶の用意をして、寝室へと向かいます。
「お嬢様、おはようございます」執事は、ベッドに眠る主人に、老成した渋い声で起床をうながします。
お嬢様は、いつもの通り、そのくらいでは目を覚ましません。室温は年間を通して、適温になるように整えられていますので、肌寒いということもありません、良質の睡眠は充分に取られているはずであります。もっとも、深夜まで端末に向かっていたことを、執事は知っておりましたので、睡眠時間そのものは、足りていないかもしれません。まあ、趣味の画像、懐古主義あふれる、WW2の戦車映像を延々と眺めていた実態もまた知っていますので、老執事は、お嬢様を夢の世界より帰還させるのに、躊躇はいたしませんでした。
老執事は室内にある音響設備のを操作いたします、最大ボリュームで、選曲は、昨夜のお嬢様の行為を参考にして「ヴァルキューレの騎行」に決定です、幸い、室内の防音は最高品質であります。
どのような惨状で、彼女が飛び起きなさったのか、描写をいたしますとお嬢様が社会的に抹殺されそうでありますので、割愛させて頂きとうございます。
しばらくして、
「おはよう爺や」何事も無かったかのように、優雅に微笑みながら、紅茶を受け取るお嬢様がそこにありました。
老執事は、歳のわりには豊かな銀髪を、後ろになでつけています。コーカソイド系の特徴である、彫りの深い顔には、やや深めの皺が刻まれています。青色の目は、深く涼やかで、どこか冷たい印象を与えていますが、柔和に微笑みを浮かべる口元が、包み込むような安心感を与えています。
もっとも、その笑みは先ほどの痴態をあざ笑っているようにも見えますね、と邪推するお嬢様。もちろん、表情には出しません。
「おはようございます、お嬢様」老執事は完璧な礼をして、てきぱきと、本日の予定を告げていきます。こうして、お嬢様と、老執事のいつもの日常がはじまるのです。
老執事は、お嬢様の側に控えています。
大学での用事をすませた、お嬢様は、友人と喫茶店で待ち合わせをして、会話をしております。
この友人とは古い付き合いで、お嬢様のミリタリーオタク趣味を理解している、数少ない、存在です。性別は安心なことに女性です。
会話の内容は、それぞれの趣味あふれる、個性的なものでございました、ちなみにお嬢様のご友人の趣味は……会話の端々に、ショタとか、受け攻め、かけ算など、が聞こえてきますので、具体的な内容の記述は、勘弁させて頂きとうございます。
もっとも、お嬢様の発言も、制圧やら、テロリストやら、具体的な炸薬の名称から、かなり物騒な方向にすっ飛んでいやがりまくってございましたが。
奥まった席で、軽く防音が働いていなければ、当局に通報されるレベルの会話でございますな。
「まだ、そんな前世紀の端末を使用しているの?」友人に指摘されて、お嬢さまは操っていた手のひらに載るほどの黒いタブレット式の端末を改めて見ます。
「いいじゃない、長年使い続けているので、使いやすいのよ」
「相変わらず懐古趣味よねー、だから執事も爺やなの?」
「彼は、古くから我が家に仕えてきてくれている大切な執事よ、私の趣味とか以前の問題よ」
「趣味じゃないの?」
「いえ、趣味ですけれども……、ええ、そう、確かに好みの容姿ですよ。だけれども、貴方の趣味ほど悪趣味ではありませんわ」
お嬢様は、ちらり、と、友人の執事に、目を向ける。そこには、年端も行かない美少年が、そのサイズにあった燕尾服に身を包んでいた。
奇麗な男の子なんだけど、その笑みの怪しさが、友人の趣味全開なのですよねー、お嬢様は、自分の趣味を棚に上げて感想を心の中で述べる。
「いいわよーこの子、見た目は無垢そのものなのに、内心は鬼畜で……」嬉々として、子供執事の紹介をする友人がそこにいました。
老執事は、冷ややかな目で、美少年の子供執事を見ています。
いやですから、そのような誘うような目を向けられても困るのでございますがね。主人の趣味を最大限体現しようとして、演技しているのは、わかりますが、こちらにはそのような趣味はないのでございます……よもや、本気ではないだろうな。少々疑いの気持ちを込めた視線を向けながら、老執事は戦慄する。
子供執事もまた、ご友人の側に控えています。
ええ、と、演技ですよ。多分。子供執事はお嬢様達に聞こえないように老執事と会話しています。ただ、まあ、彼女達と、貴方が望むのなら、相手をすることは、やぶさかではありませんが。
老執事は、少々気圧されています。
少年よ、怪しげな笑みを浮かべるのではありません、お嬢様の、ご友人どのがひどく、こう、表現に困るような腐った笑みを、うかべているではありませんか。
……お嬢様、爺にそのような趣味はございませんので、困った顔で、赤くならないでいただけますか?というか何を想像してやがりますかこの腐女子ども……。
「まあ、彼ら、雰囲気を出して、内緒話をいたしていますわ」うっとりとした顔のご友人です
「ええ、正しい主人の対応としては、2人きりにさせるべきでしょうか?」お嬢さま……
老執事は考えます。
そろそろ、この一族から、お暇を頂いても良いような気が、切実にしてまいりました。とりあえず、笑みを浮かべておきましょう……、どういたしました?世にも恐ろしい物を、見た、ような、こわばった表情をしておられますよ、お嬢様、ご友人さま。それと、空調が低いのですかね?身体が震えておられるのは?
ところで、ご主人様の影に隠れるのは、仕える者としてどうかと思いますよ少年。
老執事は昼間のキッチンにいます。
さて、今日は、ご友人が来訪されています。今はご主人様の私室で子供執事の着せ替えファッションショーをしているとのことです……、ええ、特につっこみは致しません。爺は淡々とお茶とお菓子の用意をしています。お菓子はご友人殿がお土産に持参された、チョコレートでございますので、お茶は、濃いめのコーヒーを用意いたしました。リクエストは、ブランデーでございましたが、お断りいたしました。ええ、一応一通りの飲み物は用意してございますが、昼日中から、アルコールは問題がありますので。……そもそも、あのテンションでお酒が入ると、カオスが加速致しますしな……。
老執事が、こっそりと、室内の様子を伺いながら、適当なタイミングで、お茶を差し入れようとしていると、急にその表情を厳しいものにしてつぶやきます。
「お嬢様、ご友人、あなた方は『あほうでございますか?』」古典的な執事の呟きを模倣しつつ、老執事は、お嬢様の私室に飛び込んでいきます。
そこで彼が目にしたのは、半裸の少年執事が、チェーンソーを振り回して、お嬢様と、友人に遅いかかかっているという、なんとも猟奇的な状況でございました。
老執事は、銀のお盆で、そのチェーンソーをいなしながら、低く、冷たい声で、主人達に問いかけていきましす。
「さて、弁明はお聞きしたしましょう」
声を震えさせながら、ご友人は応えます
「えーとね、『ヤンデレ』風味で、逆ギレ陵辱の……」
「シチュエーションを聞いているわけではございません!どこから、感情スキンを落としてきたのです?……ああ、また、アングラな所から……」瞬時にダウンロードログをご友人の、生態端末、から読み取った老執事は、眉をしかめる。
「それで、お嬢様?やけにこの少年、太刀筋に迷いがないのは、どうしたことでございますか?」
「え、笑みが怖いですよ、爺」
「お嬢様?」さらに低い声で、問いかける老執事。
「ひい、ええと、セキュリティーの甘い軍用のサーバーがありましてね、そこのモーションパターンを少々……」
「お嬢様、それは犯罪でございます、しかも軍用の戦闘擬体データですか……。終身刑は確定ですな」
遠い目をしている老執事
「爺や~」
「退職届を、昨日付きで作成させていただきます」
「みすてないでー」涙目になっているお嬢様
老執事は、さらりと、宙に投影されたデータを一瞥して言います。
「お嬢様」真剣な表情の老執事が話をさらに続けていきます。
「いまだに軍用サーバと接続が切れていないようなので、ありやがるのですが、しかも、追跡用の攻勢プログラム、がこちらを探しておりますな……、お嬢様、冥王星強制労働施設への差し入れはいかがいたしましょう?」
「……腕の良い弁護士をお願いいたします」うなだれるお嬢様です。
400年ほどの可動実績をもつ、執事型、自己成長タイプの人工知能である『爺や』は、家庭用の配膳システム、人間の腰ほどの高さの自走式ワゴン、のマニュピュレーターを駆使しつつ、子供執事からお嬢様と、友人を守り続けていきます。
さらに、処理システムの、別領域で、館の警備システムを呼び寄せていきます。
同時に軍用サーバからの攻勢をいなしていきます。囮の探索侵入プログラムを周囲に散らして、追跡をかわしつつ、同時に侵入の痕跡を消していきます。
これらの事を、お嬢様達を言葉で追いつめながら、遅滞無く続けていきました。
ほどなく、問題ない状態まで復帰できる段取りを組んだ老執事は、さて、どのようにしてくれようか?と今後の対応を考えていきます。
老執事は、思います。
私の開発者でもある初代から、代々、なかなか個性的なご主人様達でございました、今代もまた、厳重なセキュリティーを誇る、最新型の軍用サーバを軽く突破するような、才能の持ち主であり、今後が楽しみであります……少々詰めが甘うございましたが。
ともかく、今回の騒ぎを利用致しまして、少々きつめに教育を行うと致しましょう。
「少なくとも、やるならバレないようにして頂く為の技術と、最低限の倫理観を、調教して叩き込まなければいけませんね」
「え!?」怯えた表情のお嬢様
「……失礼、声に出ておりましたか」怖い笑みを、3D映像で浮かべる老執事
すでに、子供執事の擬体は警備システムの自在縄で拘束されています。そして続けて、老執事は、強制的に、子供執事の狂気にまみれた、感情領域を蹂躙して初期化していきます。少々乱暴に対処いたしてますので、時折、半裸の幼い身体がびくびくと、痙攣しております。
お嬢様のご友人は、このような状況でも、その子供執事の痴態に興奮しているようですな、ほんとぶれないお方でありますね、老執事はあきれています。……これは、遠慮しなくともよろしいでしょうね。もともとそうする気は微塵もありますせんが。
「って、どうして、私たちも拘束されているのでしょう?」お嬢様とご友人が自在縄に拘束されて、床に転がって、こわばった笑みを浮かべています。彼女たちに、向かって、ニッコリと笑う老執事がいます。しかし、その青い目は笑ってはいませんでした。
「おわかりに、ならない訳はございませんですね?」
ゆっくりと左右に、何かを否定するように首をふる、お嬢様と、ご友人に向けて、老執事は言いました。
「朝までじっくりお説教です、反省してください」
女性2人の悲鳴が響きます。
ご安心ください、この部屋の防音は完璧でありますから。
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