最低最悪のデジャビュ
戦いの結果は――散々だった。
いや、散々なんて言葉では全然生ぬるい。
悪夢だった。
大聖堂内に備え付けられた一室。
清潔感のある白いベッド、ルミナはそこに寝かされていた。
意識はある。ついさっき目覚めたばかりだ。
「サヤ……シュターベンは」
「逃がした」
「…………」
ルミナの拳に力がこもる。
瞳に浮かぶ色は、まさに憎悪のそれだった。
「はやく……はやく探して倒さないと――私が……!!」
ベッドから起きようとするルミナを私は手で制する。
そんな私を真っ向から睨みつけるルミナ。
邪魔をするのなら容赦はしない。
ルミナの瞳はそう語っていた。
「アンタ、マジでそう言ってんの?」
「当然じゃない……部隊の連中はどうしているの?」
「…………」
ルミナの言葉に思わず目を伏せる。
目を伏せながらも、口はしっかりとその結果を告げていた。
「全滅よ」
驚きを隠せないように目を見開くルミナ。
「どうして」そんな感情がありありと感じられる。
実際に死傷者が出たのは今回が初めてでは無い筈だ。
しかし、自らの家族の仇と仲間達の命を奪ったシュターベンが同一だった。
そしてたった一体にあの二十数名の屈強な仲間達が倒された事に怒りと絶望を感じているのだろう。
「だったら尚更――はやく探しに行かないと……」
「で、次は誰を殺す訳?」
「――――っ!」
「聞いたわよ、アンタが家族をシュターベンに殺されたって」
「……そうよ、殺されたわよ。それもあの、今日出遭ったシュターベンに」
「で、その怒りで今まで闇雲に戦ってきて今回の結果、ついに焼きが回ったわね」
「サヤ――!!」
「でさぁ、その調子で次は私を殺す? それとも他の誰かを? ああ、自分が死んで大団円と言う手もあるじゃん」
私の放った挑発。
それはルミナにとっては耐えられないものであったはずだ。
だから私は、ルミナとの口論を覚悟していた。
覚悟していた……のだが。
「そう、ね――もう……死にたい」
ルミナの口から漏れたのはルミナらしからぬ言葉。
だが、無理も無い言葉でもあった。
「解ってた……もう、私には戦えない。憎しみだけじゃ戦えないって。こんな後悔だらけの人生――はやく終わらせたい……」
「そうね、今のアンタじゃ戦えないかもね。過去に縋ってる今のアンタだったら」
「過去以外……どこに縋れば良いのよ」
「未来に縋れば良いじゃん」
「は……? そんな簡単に……」
「今、貴女の周りにあるものに縋れば良いの。それをしっかりと守れば未来へと繋がるっしょ」
ルミナが唖然とした表情で私を見ていた。
どう言う意味でそんな表情なのかはよく解らない。
「いやまぁ、私って大体その日暮らしじゃん。もう失った物は置いといて今ある物をやりくりしてこれからに繋げないといけないし……それにそーいうのって無ければ作る、見つける物だしなぁ」
「でも、家族や仲間に代わる物なんて――」
「だからと言って何時までも悔やんでる訳にもいかないでしょ。確かに過去を振り返り、一喜一憂するのも必要な事だと思うよ。後悔する事だってね。私だって後悔する時だって沢山あるしねでもま、後悔なんてしても仕方無いっしょ。得は無いし」
私は精一杯の笑顔をつくりながらひたすらに言葉を紡ぐ。
「よく考えなさい。確かに失った物の代わりは無いけど、これから手に入れる物の代わりだって無いんだから。アンタの敵討ち程度なら手を貸してやるから、ちゃんと仲間の声にも耳を傾けなさいよ。過去には戻れないから、人は未来に目を向けて頑張るんでしょ。アンタも未来に目を向けなさいよ」
うん、決まった。
決まったはずだ!
私は自信満々に胸を張った。
「――ぷっ」
「ん?」
「何それ、それで励ましてるつもりなの?」
ルミナの何時ものようなきつい口調。
だが、口元には笑みが浮かんでいた。
「何よ、私の御高説を笑うの!?」
「もうちょっと原稿用紙で纏めてきて後でもう一度説明してもらおうかしら」
「むぅ……」
「でもま、解ったわよ……これ以上誰も殺されたくない
次にヤツと出合ったときは……サヤの力も存分に貸して貰うわ」
「そんじゃ、今はちゃんと休んでおきなさい」